
介護をするうえで負担は避けられませんが、楽にするための工夫をすることはできます。介護を楽にするためにできる日常生活での工夫や、楽しい日常のために気を付けたい健康への心得について、『老々介護で知っておきたいことのすべて』(アスコム)を上梓した、看護師で看護・介護ジャーナリストの坪田康佑さんに教えてもらいました。
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整理整頓が介護を楽にする
介護を楽にするためにまずやるべきことは、整理整頓をすること。生活動線に物があふれていると、ふとした拍子につまずき、転倒して骨折してしまうといったことが考えられます。収納スペースの都合でどうしても廊下に物を置かざるを得ないときや、手すり、ドアノブ、段差などの出っ張りがあるときには、目印として発光性のテープを貼っておくのがおすすめです。
「高齢者で何より回避したいのは、転倒です。発光性のテープを貼ることで暗くても目に入り、ぶつかったりつまずいたりする危険を回避できます」(坪田さん・以下同)
転倒リスクの軽減が大切
高齢者になると体のバランスを保つことが難しくなり、靴を履くときなどに体がぐらついたり、腰を痛めてしまったりすることがあります。そのため、玄関には椅子を置き、座った状態で脱ぎ履きできるようにするのがおすすめ。また、室内においては、高齢者のスリッパ利用は控えたほうがいいと坪田さんは言います。
「高齢になると歩くときに足を十分に上げにくくなり、すり足のように歩く傾向があります。すり足でスリッパを履いていると脱げやすく、足とスリッパが絡まって転倒する恐れがあります。自宅内ではスリッパの利用は控え、厚手で温かいルームソックスや、滑り止めの付いたホームカバーの利用をおすすめします」
無理のある体勢になりがちな洗濯での工夫とは
干すときも取り込むときも、想像以上に無理のある体勢になりやすい洗濯。洗濯物を物干し竿にかけようとしたところ落としてしまい、それを拾おうとしたはずみにぎっくり腰、といったことも起こり得ます。竿の位置を10cm下げるだけでも腰への負担は軽減されるので、見直してみるのがおすすめです。

「物干し竿の位置が自分の身長に合っていない場合には、ビニール紐で輪を2つつくり、物干し台の両サイドにくくりつけ、その輪に物干し竿を引っかけると、ビニール紐の長さ分、竿の位置を下げることができます」
楽しい日常のために気を付けたい体のこと
楽しい日常を守るためには、体のメンテナンスが重要です。加齢によって見えにくくなる老眼は誰にでも起こり得るものですが、高齢者の視力低下には病気がかかわっているケースもあります。見えにくくなってくると、本や新聞を読むことがおっくうになったり、外出を避けたりしてしまい、老いを早めてしまうことになりかねません。

「見え方に違和感があれば、まずは眼科を受診しましょう。目の病気は、早期発見、早期治療しかありません。少しでも気になったら、すぐに眼科受診を心得てください」
聴力も気になったらまず検査を
聴力も加齢によって衰えます。その結果、話を何度も聞き直さなければならなくなったり、それが面倒になって人との接触を拒むようになったりすることがあります。
「気になりはじめたら、耳鼻咽頭科にかかり、聴力の検査・診察を受け、医師と相談のうえで補聴器や集音器の利用を検討してみてください」
あとひと噛みが虫歯予防に
楽しい日常のためには、歯や口の健康維持も大切です。歯や口の健康維持のために重要なのは「よく噛むこと」。食べ物をよく噛むと、口内を洗浄してくれる唾液が多く分泌され、虫歯・歯周病の予防につながるほか、脳の働きが活性化され、認知症予防につながる可能性も示唆されています。
「飲み込む前に、気が付いたら、ひと噛みでも多く噛むことを意識してみるというのを試してみてください」
食事はまずはおいしく食べること
健康維持において大切な毎日の食事。「食事について、私からまずお伝えしたいのは、『食べることを楽しみましょう』ということです」と坪田さん。
「今日は何を食べようかと楽しみながら考え、おいしく味わうことで、生活に彩りが生まれ、生きがいの1つにもなり得ます」
レトルト食品の活用がおすすめ
介護をしながら毎日の献立にまで配慮をするのは非常に大変です。そんなときに活用したいのが、スーパーやドラッグストアで市販されている介護用のレトルト食品。さまざまな食品メーカーが栄養バランスや咀嚼のしやすさに配慮した商品を開発・販売しています。

「いろんなメーカーの商品を食べ比べてみるのも楽しいと思いますし、手間を省きながら多種類を食べられるので、バランスが整いやすく、飽きもこないと思います」
塩分はできるだけ控える工夫を
毎日の食事でもう1つ重要なのは、塩分を控えること。そうはいっても、過剰に控えると味気ない食事になり、食事自体が楽しくなくなってしまいます。坪田さんがおすすめする塩分を控える方法は「ちょいつけ食べ」。
「焼き魚やお浸しなどに、いつもしょうゆをドバッとかけていませんか。その手を止め、しょうゆ皿に垂らし、刺身のようにその都度軽くつける程度にしてみてください。しょうゆの風味を楽しみながらも、しょうゆの量が減り、塩分の摂取を控えることができます」
◆教えてくれた人:看護・介護ジャーナリスト・坪田康佑さん

つぼた・こうすけ。2005年慶應義塾大学看護医療学部1期卒業。国際医療福祉大学医療福祉ジャーナリズム分野博士課程在籍。米国Canisium大学MBA取得。ETIC社会起業塾を経て、無医地区への医療提供体制づくりや、問看護師向け雑誌などでの連載、高齢者向け新規事業開発に取り組む。著書に『老老介護で知っておきたいことのすべて』(アスコム)など。