ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(65歳)が、介護を経験して感じたリアルな日々を綴る「介護のリアル」。昨年、茨城の実家で母親を介護し、最終的には病院で看取った。そんなオバ記者が今回、9年間に及ぶ姑介護をした女性の告白について綴ります。
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夢に出てきた母ちゃん
2日前のこと。今年3月に他界した母親の夢を初めてみたの。4年前に亡くなった父親と微妙なオシャレをして上京してきて、きっと私が東京でご飯をご馳走するとか言ってたんだね。
ところがどうしても予約していたレストランにたどりつけない。疲れてお腹も空いているふたりは、「何やってんだよ」と代わる代わる私を怒る。ってところで目が覚めた。
いつも思うんだけど目覚めって不思議だよね。遠くから少しずつ現実が近づいてきて、トントンと優しく肩を叩くような感じの日もあれば、心臓の調子がイマイチの日は、ドンドンドンと背中から小太鼓を叩かれているみたい。
でもこの日は体より先に感情が先でね。もう私が「親」と呼べる人はこの世のどこにもいないんだなという強烈な現実が、わあああっと夢から目覚めながら差し迫ってきたの。そして大げさに言えば、私、これからどうやって生きていけばいいんだ?って途方に暮れて、しばらく目を開けられなかったんだわ。
“夫の親”だったら介護できるのか
それはともかく、私の「介護のリアル」を読んで「たかだか4か月くらい母親とマクラを並べてシモの世話をしたからって、何をエラそうに!」と言う人もいるんだよね。ネットのコメント欄の書き込みではなくて、人づてに聞こえるように。「じゃあ、やってみな」と反発したい気持ち半分、「そうだねぇ」と素直にうなずく気持ち半分。
だって10年介護とか18年介護とか、とんでもなくえらい人が世の中にはいるんだもの。しかも実の親でも自宅で看ると「覚悟の上にもうひとつ覚悟をさせられる」と訪問看護師さんは言ったけど、これが“夫の親”だったらどうか。さんざん嫁いびりをされた舅姑のお尻を拭けるのか。
実際、自分の生活圏に絶えず大小便の心配をしなくちゃならない年寄りがいるストレスを知ってしまった私には、とてつもないこと。ユーラシア大陸徒歩縦断の旅くらいすごいことよ。それをしたのがR子さん(埼玉県・74歳)。以前、相続のことで取材をさせていただいた人だ。
「意地と成り行き」で9年間姑介護
姑を9年自宅介護したと聞いて思わず、「なんで!」と叫んだ私。20代の時、わずか4年だったけれど、その時の強烈な嫁姑体験を思い出すととてもじゃないけど無理だもの。するとR子さんの答えも簡単。「意地と成り行き」だって。
R子さんの夫は材木商の後継で3代目。R子さんは工務店の次女で親同士が知り合いだったことでお見合いして嫁いできた。
「私もお見合いで結婚するくらいだから、周りがこうだと言えばそうかと鵜呑みにするタイプ。姑と、社長である舅は掃除の仕方からうるさい人だけど、夫は優しいし、子供は可愛い。息抜きに冬は苗場に親子スキー旅行に連れて行ってくれたりして、大きな不満といえば三日にあけずやって来て、姑と茶の間でヒソヒソ話をする夫の妹のことくらい」
R子さんの夫には、この妹のほか、もうひとり東京で結婚している姉がいるが、こちらは盆暮れに顔を出すだけだ。