
親の介護中は、きょうだい間でさまざまなトラブルが起こりがち。「親のお金」に関するもめ事も少なくない。そうした実例を一昨年、茨城の実家で母親を介護し、最終的には病院で看取った経験を持つオバ記者こと野原広子(66歳)がレポートする。「介護中の親のお金」を巡るきょうだいトラブルのリアルな実態とはーー?
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「老後は力になりたい」と実家に戻ってきた姉
「泣く泣くもいいほうを取る形見分け」という川柳があるけれど、いやいや、形見分けは親が亡くなってからすると思ったら大間違いで、実は介護中から始まっているという話を聞いたの。
仕事仲間のTさん(59歳)が母親(86歳)の話をしたのは私が母親を見送った2年前のこと。「オバも介護、大変だったねぇ。うちも他人事じゃなくてさぁ」と職場のエレベーターホールで言うから、後日、あらためて事情を聞いたわけ。
Tさんの姉(62歳)は5年前に離婚して実家の近くのマンションに30歳の娘と住んでいる。この姉と母親は仲が悪くて、音信不通が長く続いたんだって。

「その姉が『いままで親不孝したぶん、老後くらいは力になりたいと思って戻ってきたのよ』と言ったとき、どうもピンとこなかったんだよね。人のために身を削るなんて子供のころからする性格じゃないもの。それで私は『ママの金遣いの荒さは知っているでしょ? 退職金は家のリフォームで使っちゃったし、貯金といっても400万円あるかないかよ』と釘を刺したわけ。そうしたらその時は『その中でやるしかないよ』と言っていたの」
急に機嫌が良くなった姉
「母親は公務員だったから年金はある。介護といっても母親は自分で食事の用意もできるし、トイレもお風呂も大丈夫。ただしばらく前に家の前の壁に車をぶつけてから運転は無理になって、“足”を失った。つまり母親に必要なのはアッシーと、家の中の掃除を手伝うくらい。
姉は母の年金と貯金を預かるつもりだったみたいだけど財布なんか渡しっこないって」とTさん。車で病院に付き添うと「はい、ごくろうさま」と千円札を数枚。頼まれた買い物をすれば「おつりはいいよ」と百円単位でくれる。そんなものだとTさんは思っていたそうな。
ところが姉は違う。実家で会えば母親の悪口を1時間も2時間も続けた。まあ、それでもアッシーをしてくれているからとTさんは聞き役に徹していたのだそう。

「ところがある時を境に、姉の機嫌が急によくなったのよ。ファミレスでランチをしたとき、いつもなら1円単位で割り勘にするのに黙って私の分も払ったのよ。姉の家に行ったら化粧品やシャンプーがちょっと高めになっている。
姉は時給いくらのパートで働いて、娘もフリーター。ゆとりがあるわけがない。どう考えてもおかしいんだけど、そうこうするうちに母親が転んで大腿骨骨折して入院。みるみる弱って半年足らずで他界したのよ」

お葬式の喪主をつとめたのは姉。入院したときに母親から通帳を預かって、そこから払ったと言い、残金は110万円。「法事とかもあるから私が預かってていいよね」と言われたら妹のTさんはうなずくしかない。
「金」の売買履歴書が…
「だけど悪いことってできないのよね。母親が亡くなってすぐ、姉の家に行ったら『金』の売買をする会社からの封書がポンと置いてあったのよ。何だろうと見たら売買履歴の伝票で、そこには10万円金貨と20万円金貨が10数枚と、外国の金貨が数枚で手数料を引いた額が290万円!」
それだけじゃない。数日前に姉はいくつもあった金のネックレスとか指輪を私に見せて「どうする?」というから、「使うならお姉ちゃんが持っていれば」と言ったら、「あら、そう」とさっさと持っていったそうな。

「金貨は父親が集めたんだよね。買ったとき『高値になったら売るんだ』と言って家族に見せていたけど、そのうち父親はがんで亡くなり、金貨のことはすっかり忘れていた。それを思い出した姉が見つけて売っぱらったのよ」
Tさんが問い詰めると姉は最初、「なんの話よ」とすっとぼけていたけど、最後は認めて「こういうものは見つけた人のものよ!」と開き直ったそうな。
「あんまりだから売買履歴を握って、『窃盗で訴えてやる』と言ったら、『これをあなたが売ればオアイコでしょ』と母親の形見の貴金属を投げつけてきたの。姉はみんな売ってお金にしようとしていたのよね」
こうして母親の形見はTさんのものになったけれど、後味の悪さだけが残った。Tさんはそれきり姉との音信は必要最低限度になったそうな。
「おかしな話だけど、物心ついてから姉との関係がいちばん良好になったのは、姉が金貨を売って金まわりがよくなっていたときなのよね。めったにおごってくれなかったけれど、ずっと笑っていた印象。それをどこかでヘンだと思いながら、お姉ちゃんも年をとって丸くなったのかなと私は私で都合よく解釈していたんだと思う。今、あの時、姉はお腹の中で何を考えていたかと思うと、できれば会いたくないよ」
Tさんはそう言って話を締めくくった。
最後まで残る執着はお金?
かと思えば「貴金属の形見分け? それって姉妹がまだ身を飾る元気があるうちの話よ」と言う人もいる。最近、101歳で母親が亡くなったA子さん(72歳)だ。A子さんの姉は80歳の長女と77歳の次女。
「姉たちも60代のときは母親のサファイヤやルビーの指輪を定期的に借りにきていたけれどそれも70代前半まで。そのうち会ってもどこの病院がいいとか、誰が亡くなったとか、そういう話しかしなくなったわよ」。そういってA子さんは指いっぱいの大きさのサファイヤの指輪を私に見せてくれた。そして「姉や母を見ていると最後まで残る執着はお金だけよ」ですって。

そういえば私も母ちゃんから形見をもらったっけ。「売んじゃねえど」と言って投げてよこした18金の指輪で母ちゃんは中指にしていたけど大柄な私は小指にしか入らない。ふんっ、売ったところで3、4万円にしかなんねえし、これ、何の絵柄だよと、その時は毒づいたけどね。母亡きあとは、緊張する仕事のときにお守り代わりにつけるとスッと気持ちが落ちつくから不思議よ。
◆ライター・オバ記者(野原広子)

1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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