
アイドルから女優、ミュージシャンまで多彩な顔ぶれで知られる「1984年組」が今年、デビュー40周年を迎えます。1999年の活動休止後もたびたび再集結し、ステージに立ち続けるロックバンド「爆風スランプ」もそのひとつ。2024年、彼らが再結成して新曲を発表するという知らせに、ライターの田中稲さんが楽曲の魅力について綴ります。
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おめでとう爆風スランプ40周年! しかも再結成というニュースを見て、さっそく脳内にあの力強い声が響いてくる。嬉しいが、ヤバいぞヤバい。爆風スランプの楽曲は、「ややテンション低め」に設定していた感情のアクセルギアをグイッと入れてくるのだ。
心が、走る、走る——。急発進に要注意!

NHK「みんなのうた」の名曲『転校生は宇宙人』
爆風スランプといえば1988年リリースの12thシングル『Runner』が有名だが、その前に、いの一番に語りたい曲がある。11thシングル『ひどく暑かった日のラヴソング』のB面として収録されている『転校生は宇宙人』である。ピピピ!
何かが事件が起きそうなアップテンポのイントロ。歌詞もSFチック。もしも君のそばに……的な語り掛け形式により、不思議な物語が始まるのだ。子ども向けのコミックソングなのかと思って聴き進めたら、いやいやとんでもなかった。エイリアンは君にだけしか見えない。それは、仲良くしてほしいから——。
多様性なんて言葉がまだ浸透していない1980年代、お説教臭さゼロで、星の数ほどある個性との出会いの奇跡をここまで歌った歌があったのだ。
これは1988年にNHK「みんなのうた」で流れていたので、当時小学校だった人は、給食の時間などに、よく聴いたかもしれない。
タイトルだけでもふんわり覚えている人はぜひ、給食の揚げパンの味と共に思い出してほしい。思い出したら、サブスクにもあるのでともに聴こう。俄然フルコーラスがオススメだ。ピピピ!

せつなさで溺れそうになる『それから』
そしてもう一曲、『それから』(1989年発売の13thシングル『月光』のB面)! 1989年頃、NHKで「まんがで読む古典」という番組があり、その主題歌で流れていたのだ。振り返ってみると、私はどうやら、NHKから爆風スランプの良さを教えられることが多いようだ。
今もプレイリストに入れて、定期的に聴いている。電車の中で揺られながら、車窓をボーっと見ながらこれを聴くと、なんかもう、これまでの人生の出会いと別れがぶわっと思い出され、「あの人どうしてるかなあ」とせつなさで溺れそうになるのだ。
「あの時こうしていれば」「もう連絡取れないのかなあ」といった、後悔シンキングタイムが続き、感傷が極限を通り越えたあたりでちょうど、最後の「そーれぞれのそれからー……」という歌詞が来る。これが、「忘れられない人への想いは、そのまま持ち続けていていいよ」と肯定してくれるようで、ホッとするのだ。
ケンカやすれ違いに上手に立ち回れない性格ゆえ、ぷつっと連絡が切れてしまった人が多い私に、カタルシスをくれる、大切な、大切な曲である。

自らを鼓舞する歌『Runner』はヒット後の葛藤も
このほかにも『愛がいそいでる』『友情≧愛』『大きな玉ねぎの下で』『月光』『神話』など、爆風スランプの楽曲には本当にお世話になった。浮かれた歌にも、もれなく寂しさがセットでついてくる不思議。胸が熱い!
しかし、思い出してみれば初めて彼らをTVで観たときの印象は決して良くなかった。1988年に『Runner』が大ヒットする数年前、「夜のヒットスタジオ」だったと思うが、コミックソングっぽいノリの曲を歌い、恐ろしいほどに大暴れしていたのだ。一生分かり合えない種族だとその時は思ったものだったが、その後、彼らの楽曲に救われたのは前述した通り。人生とはわからないものである。
そんな彼らに心を開く入り口として、やはり『Runner』があったのは事実。順番がかなり後回しになってしまったが、これを語らずして終われないだろう。滞っているエネルギーを流してくれるような歌だ。

カラオケで歌ったこともあるが、想像以上に持久力が必要。出だしから高めのテンションが続くので、サビの「走るー走るー!」を歌う頃にはすでにかなり体力を消耗し、最後の4回目のサビはもうヘロヘロ。「走る、はし……ごふっ、演奏中止でお願いします……」となった覚えがある。
歌うことは、マラソンと同じ。力の配分が重要だと痛感した。

この『Runner』は、1988年、メンバーの江川ほーじんさん(ベース)が脱退することが決まった際、彼がいるうちにヒットを出そうと作った楽曲なのだそうだ。サンプラザ中野くんのインタビュー記事を読んだことがあるが、自分たちを鼓舞するために作った曲が、一方的に「頑張れ」と応援する歌として世の中に広がったこと、そしてこの曲ばかりを求められることに悩んだ時期があったという。
なるほど、「走れ」じゃなくて「走る」だものなあ。この曲の目線は応援側ではなく、汗をかき、ひたすら一歩を踏みしめるランナー側。でも、だからこそ押しつけがましくなく、世の中で必死にもがく人たちに伝わったのではないだろうか。ダイレクトに共感できるのだ。迷いも苛立ちも焦りも、そして願いも!
直立不動で、片脚でリズムを取り歌う姿もまた印象的だった。この曲で、サンプラザ中野さんはあまり動かない印象がある。けれど、彼の横には流れていく景色が見え、不思議とスピードを感じたものだ。

サンプラザ中野くんの声は、英語っぽい発音やビブラートのクセがない。そもそも彼らの歌は英語があまり使われていないのではなかろうか。日本語がどーんと心にぶつかってくる。はっきり・くっきり!
その勢いで、ひどく暑い日や夕立ちや夜空や月の光を歌い、焦って走っていそいで、ああすればよかった、こうすればよかったという後悔や怒りも歌い——。それが本当にありがたい。『45歳の地図』(1989年のアルバム『I.B.W.』収録、のちシングルカット)なんて、全体的に青春を返せコノヤローな歌だけど、聴いているだけでボファッと爆風が吹きストレスが飛ばされ、心はクルクル何度も回転した挙句、前を向くのだ。

さあ、こちらの心もすっかり温まって準備OK、聴く体勢万端だ。「10年も20年も、君のことを思うだろう」と歌ってくれていた彼ら。まさに1999年の活動休止から25年目の本格的再始動。新曲の到着を待ちたい!
◆ライター・田中稲

1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka