SNSを活用する薄井シンシアさん(65歳)はネガティブな反応に対して、「反対意見を聞くのもいい勉強だと思っています」と言います。一方で、コメントやメッセージには可能な限り返信する律儀な一面も。専業主婦生活17年を経て、外資系IT企業の正社員になったシンシアさんが、50代・60代になっても人脈を広げるために努力していることをたっぷりと聞きました。
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名刺は持たない
私はさまざまなイベントに登壇させていただくことがありますが、イベントが始まる前は早めに到着した方に参加理由を、イベント終了後は何となく残っている人にフィードバックを聞いたりします。
私はすべてをデジタルで完結させたいので、そもそも名刺を持ち歩きません。会場などで親しくなった人には「X(旧Twitter)とLinkedInをしているので、そこでつながりましょうね」と挨拶をして別れます。
コメントには返事をするのがマナー
SNSにメッセージやコメントをもらったときは、時間の許す限り、返事を返します。長い文章ではなく、ポイントをしぼって短く返信することが多いですね。「チャンスに繋がるかもしれない」というエゴではなくて、返事を返すことが礼儀だと思っているから。
例えば、「すごく感動しました」というコメントが来れば、「ためになったなら、よかったね」と思って返事を書く。もし、「ためにならなかった」というコメントなら、「スルーしてください」と思うだけだよね。
先日、『アベプラ(ABEMA Prime)』に出演したとき、「有名人は叩いてもいいのか」という話題になったけれど、私は人前に出る時点で、私のことを悪く言う人もいるだろうと覚悟しています。だから何を言われても、「勝手に言いな」と思います。
まともな議論をしてくる人には返事をしますよ。でも明らかに攻撃的でおかしいなと思う相手は無視します。
個人のSNSのコメント欄も、よほどの嫌がらせをされない限りはブロックしません。過去に1回だけ、Twitter(現X)上で、私に嫌がらせをするために作ったようなアカウントがあったので、それはブロックしました。でも、その1回だけです。
反対意見を聞くのもいい勉強だと思っています。英語の慣用句に「敵だからこそ一番身近に置く」という表現がありますが、私は昔から、ライバルだからこそ、その人の考えを知っておいたほうがいいと考えています。
だからネガティブなコメントを拒否しないし、ネガティブなコメントが連なっていても、「ああ、言っているか」と受け止めます。私は自分にとって大切な軸が明確にあるので、自分のことを否定されても、痛くもかゆくもありません。
他人から何かを言われたぐらいで価値観は揺るがない
私は子育てをしたことによって、人生のすべてが満たされました。だから、それ以上のことを他人に求めません。人生が完結しちゃってるんですよ。
自分の価値観は、これ。私のマナーは、これって、自分の行動はすべて自分で決めます。だから他人から何かを言われたぐらいで、行動を変えることはありません。
最近は、人間関係もほぼ固まってきたので、積極的に知り合いをつくろうとはしません。ただ、私が仲介すれば、新しい仕事や試みが出来るかもしれないと思いついたときは知り合い同士をつなぎます。私には必要ないものだけれど、この人にアイディアを渡したら新しいモノが生まれるかもしれないと思えば、人に話を振ります。
だって、私に依頼が来ても、受けられる範囲は限られているでしょう? 自分がこなせないなら、チャンスを他の人に回して、その人が輝けばいいじゃない?
もちろん他人に何かをしてもらったとき、感謝をすることは大切です。私は、ほかの人にチャンスを譲ったとき、その人が感謝できる人かどうかをちゃんと見ています。例えば、私に来たチャンスを、他の人に譲って、その人が成功したとします。その人がSNSで、私のお陰だとはまったく書かずに自分の成功談として投稿したとします。それを見た私は「まあ、そういう人なんだな」と思うだけ。
私は他人に世話になったら、「私がここまで出来たのは〇〇のおかげ」と紹介するようにしています。でももし、世話をした相手がそういうことをしないなら「この人はそういう人なんだね。そこまでの人なんだね」と思って、おしまい。私にとって大事な軸は、娘から必要とされる人間で居続けられるかどうかだけだから、それ以外のことは、正直なところ、どうでもいいんです。
コミュニティーを広げるコツは、他人のために動くこと
私は同年代に比べて、コミュニティーが広いほうかもしれません。年を取ればとるほど、人は離れていきます。だから人脈を広げたければ、人のために何かをしてあげることが一番です。
例えばイベントがあったとします。イベントには後片付けがつきものです。そういうときに「いいよ、私がやるよ」と積極的に手を挙げてみる。イベント会場には小さいお子さんを連れてきていたり、家族を待たせて参加している人もいますよね。そういうときに「私が全部やっておくから、先に帰ってください」と声をかけるだけで、とても感謝されたりするものです。
若い世代には自分の考え方を押しつけない
私には、若い世代の友人も多くいます。彼らと過ごすときに気を付けているのは、自分の考え方を押しつけないこと。一緒にレストランへ行ったりして、「どんなものがいいですか?」と年長者に気をつかわれたりしたときは、「本当に何でもいいので、先にどんどん決めちゃってください」と相手に合わせたりもします。
◆薄井シンシアさん
1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社し、イベントマネジャーとして活躍中。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia
撮影/小山志麻 構成/藤森かもめ
●薄井シンシアさん流、人付き合いの心得「私はお酒を飲まなくても言いたいことを言うので、飲みニケーションは不要」「職場で人に好かれる努力はしない」