
腹部肥満、低いHDLコレステロール値、高い中性脂肪値、高血圧、空腹時高血糖などに陥ったら要注意。メタボリック・シンドロームに陥っている可能性があるからだ。その先に待ち受ける不健康とは? 全米シリーズ100万部、医学界の定説を覆したと評される医学博士・ジェイソン・ファン氏の著書『糖脂肪』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。【全3回の第1回】
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かつてはシンドロームXと呼ばれていた「メタボリック・シンドローム」の発見は、過去30年で最大の医学の進歩だろう。
2005年に全米コレステロール教育プログラムが行った第3次報告では、メタボリック・シンドロームは次の5つのうち3つが当てはまる状況と定義された。
(1)腹部肥満……腹囲が男性で85センチ以上、女性は90センチ以上
(2)低いHDL値……男性40mg/dL未満、女性50mg/dL未満、あるいは投薬治療中の場合
(3)高い中性脂肪値……150mg/dL以上、あるいは投薬治療中の場合
(4)高血圧……収縮期(最高)血圧130mmHg以上あるいは拡張期(最低)血圧85mmHg以上、あるいは投薬治療中の場合
(5)空腹時血糖値……110mg/dL以上、あるいは投薬治療中の場合
北米の成人の3分の1がメタボリック・シンドロームで、その一連の症状によって心疾患のリスクが300%も増えている。そのほかにもメタボリック・シンドロームは、脳卒中、がん、非アルコール性脂肪肝炎、多嚢胞性卵巣症候群、睡眠時無呼吸症候群のリスクも増大させる。
さらに心配なのは、メタボリック・シンドロームと診断される子どもが増えていることだ。
では、メタボリック・シンドロームは糖尿病と何か関係があるだろうか。これから述べるが、非常に関係がある。
21世紀で最も多い「すべての疾患」と関わりがある
1988年、スタンフォード大学のジェラルド・リーベン博士が、バンティング賞の受賞スピーチで、あるシンドロームの概念について述べた。このときのスピーチは、糖尿病の治療において最も注目される講義のひとつとなった。
リーベン博士は一連の問題を引き起こすある要因があるとし──当時はそれが何かわかっていなかった──それを「シンドロームX」と呼んだ。
その要因Xとは何だったのだろうか。

私たちがメタボリック・シンドロームについて知るようになったのは、研究者たちが中性脂肪の多さと心血管疾患に強い関連性があることを突きとめた、1950年代のことだ。研究者たちも驚いたのだが、「高トリグリセライド(中性脂肪)血症は脂質の摂りすぎではなく、炭水化物の摂りすぎと、それによって起こる高インスリン血症が原因である」ことがわかった。
同じ頃、インスリンの検査によって、血糖値が比較的上がりにくい人は高インスリン血症であることが多いとわかった。これは、インスリン抵抗性の高さを克服しようとして起こるものと考えられた。
1963年、リーベン博士が、心臓発作を起こす患者には、中性脂肪が多く高インスリン血症である人が多いことに気づき、このふたつが心臓発作と関係があるのではないかと考えた。

1966年には、研究者たちはすでに高血圧と高インスリン血症には関連性があることに気づいていた。そして1985年、「特発性の高血圧(原因が不明のためそう呼ばれていた)の多くは、高インスリン値と密接な関わりがある」と、研究者たちは発表した。

メタボリック・シンドロームの診断基準となるリスク因子には、共通の原因があることを思い出してもらいたい。インスリン抵抗性が発現することによる高血糖、中心性肥満、高血圧、異常脂質は、すべてあるひとつの問題が原因で起きる。
メタボリック・シンドロームの診断基準の要素がひとつ増えるたびに、将来、心血管疾患を起こすリスクが高まる。
また、21世紀で最も多い疾患である心臓病、がん、糖尿病はすべてメタボリック・シンドロームと関係があり、さらにこの3つに共通する原因が要因Xなのだ。その要因Xとは、「高インスリン血症」である。
肝臓で「中性脂肪」が作られる
肝臓は炭水化物とたんぱく質を代謝し、栄養素を体に送りだす働きをする。
腸で吸収された栄養素が次に運ばれるのが肝臓だ。栄養素は血液内に入り、肝門脈という血管を通って直接肝臓に送りこまれる。主な例外は食物に含まれる脂質だ。脂質は「カイロミクロン」としてリンパ系に直接吸収され、肝臓を経ずに血流にのる。
肝臓はエネルギーの蓄積と供給を担う主な器官なので、当然ながらインスリン・ホルモンが活発に活動する場である。炭水化物やたんぱく質が吸収されると、膵臓がインスリンを分泌する。インスリンは門脈(静脈)を通って、すぐに肝臓へ到達する。体内のほかの部分に比べ、肝門脈と肝臓ではグルコースとインスリンの濃度は10倍も高くなる。
インスリンは食物エネルギーをあとで使うために蓄えさせる働きをするが、このメカニズムのおかげで、人間はこれまで幾度もあった飢饉を乗り越えて生き残ってこられた。肝臓は余ったグルコースを鎖のようにつないでグリコーゲンに変える。グリコーゲンは簡単にエネルギーに変えることができる。
だが、グリコーゲンを貯蔵しておける肝臓内のスペースにはかぎりがある。冷蔵庫を思い浮かべるとよくわかるだろう。私たちは食べ物(グルコース)を簡単に冷蔵庫(グリコーゲン)に出し入れすることができる。だが、冷蔵庫(グリコーゲン)がいっぱいになってしまうと、肝臓は余ったグルコースをほかの場所に貯蔵しなければならなくなる。すると、肝臓は余ったグルコースを中性脂肪に変える。これが体脂肪である。
「炭水化物」から中性脂肪ができる
体内で新しく作られる中性脂肪は、食品に含まれる脂質ではなくグルコースから作られる。
ここは大切なポイントだ。体内で新生される中性脂肪は飽和脂肪酸であるが、血液中の飽和脂肪酸の濃度は、食品に含まれる飽和脂肪酸ではなく、食品に含まれる炭水化物によって高くなる。心疾患との関連性が高いのは、食品に含まれる脂肪酸ではなく、血液に含まれる飽和脂肪酸なのだ。

体内の中性脂肪分子は、必要が生じると3つの脂肪酸に分解され、体内のほとんどの器官で使うことができるようになる。中性脂肪をエネルギーに変えたり、エネルギーを中性脂肪に変えたりするプロセスは、グリコーゲンをエネルギーとして使うときよりもはるかに複雑だ。だが、脂肪の利点は、無制限に蓄積できることだ。
地下室にある大きな箱型の冷凍庫を例に考えてみよう。たくさん物が詰まっているので冷凍庫(脂肪細胞)から食品(中性脂肪)を出し入れするのは大変だが、冷凍庫は大きいのでたくさんの食品を詰められる。地下室も広いので、必要とあればふたつ目、3つ目の冷凍庫を置くことも可能だ。
エネルギーを蓄積する方法はふたつあるが、それぞれに異なる役目があり、互いを補完しあっている。
蓄えられたグルコース、つまりグリコーゲン(冷蔵庫)は取り出しやすいが、容量にはかぎりがある。一方、蓄えられた体脂肪、つまり中性脂肪(冷凍庫の中の食品)は取り出しにくいが、容量にはかぎりがない。
体内で脂肪を作りだす働きを活性化させるのは、インスリンとフルクトースの過剰摂取だ。炭水化物を多量に摂取すると──そして多少のたんぱく質も摂取すると──インスリンの分泌が促され、脂肪を新生する働きが始まる。脂肪の新生が活発になると、多量の脂肪が作られる。
(第2回へ続く)
◆教えてくれたのは:医学博士・ジェイソン・ファン(Jason Fung)さん

医学博士。減量と2型糖尿病の治療にファスティングを取り入れた第一人者。その取り組みは『アトランティック』誌、『フォーブス』誌、『デイリー・メール』紙、「FOXニュース」などでも取り上げられた。ベストセラー『The Obesity Code』(『トロント最高の医師が教える世界最新の太らないカラダ』サンマーク出版)の著者。カナダ・オンタリオ州のトロントに在住。