
小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登の3人からなる音楽ユニットTM NETWORKは、今年4月でデビュー40周年を迎えた。4月から5月にかけてTMによる「怒涛の感動ラッシュ」を味わったというライターの田中稲さんが、映画『シティーハンター』『ぼくらの七日間戦争』の主題歌を中心に、彼らの楽曲の魅力とその歩みを振り返る。
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4月からTM NETWORKによる怒涛の感動ラッシュが続いている。4月8日が「Get Wildの日」(一般社団法人 日本記念日協会が2023年に認定)。4月21日にデビュー40周年。さらにはNetflixで4月25日から実写版『シティーハンター』が配信され、作品と共に新録された『Get Wild Continual』が絶賛の嵐!
そしてなにより、今年のGW、全私が泣いたアマプラ無料配信中の『ぼくらの七日間戦争』で流れる、彼らの楽曲『SEVEN DAYS WAR』の威力よ。
レボリューション……♪
あの出だしの一節ですでに泣ける。『シティーハンター』で響く『Get Wild』のイントロといい、彼らは、曲の最初から心を鷲掴みにしてくる「初っ端職人」と言っていいだろう。
『ぼくらの七日間戦争』は、宗田理さん(4月8日逝去)の原作そのものが瑞々しさを放っているが、映画もまた素晴らしい。公開は1988年。私も当時劇場まで足を運んだ。同時上映の『花のあすか組』が超ダークだったので、余計に覚えている。

簡単なあらすじは、8人の男子中学生たちが、訳の分からない学校の規則や大人たちに押しつけられたルールに反抗すべく、廃工場に立てこもり、合流した女子生徒3人とともに「反乱」を起こす、というもの。
この作品が映画デビューだった宮沢りえさんは当時15歳! 彼女が演じるひとみの、「我々生徒11名は、学校の管理主義に反対し、ワンポイントソックスの自由化を要求するとともに、大人たちの非行を粉砕し、ここに自由と正義とロマンを求め、私たち、期待されない中学生の汚名を返上することを、断固誓います!」という宣誓のセリフもすばらしく青春。ああ、「ワンポイントソックスの自由化」が見事! 私は今回何十年ぶりに聞いたが、ハンカチを噛み、机をガンガン叩いてしまった。

「いくつになっても古くならない」
『Get Wild』と『SEVEN DAYS WAR』は、どちらの原作(&アニメ、映画)ファンにとっても「他の主題歌は考えられない」と30年以上愛されている2曲だ。
彼らの音楽がこんなに長く求められるのは、スタイリッシュななかに、ちゃんと社会慣れできない「青臭さ」と「傷つきやすさ」を感じるからだろう。そこに共感せずにはいられないのだ。まさに『Get Wild』で言うところの「pain(痛み)」!
その痛みにロマンを乗せて、「自分らしく生きる」という寂しくて孤独なミッションに挑む私たちの背中を押してくれる。だからいくつになっても古くならない。
どちらの楽曲も作詞は小室みつ子さん。作曲の小室哲哉さんと同じ苗字なので兄妹コンビなのかと思いきや、なんの血縁関係もないというKinKi Kidsパターンであった。
いやもう、どういう出会い方をされたのかは不明だが、絶対運命でしょう! 何度もこの2曲に心を助けられている私としては、神様に感謝せずにはいられない。


TM=タイムマシンと思い込んでいた
こんなに感動しておきながら、私は最近まで、彼らについて誤解していた。「TM NETWORK」というグループ名の「TM」は「タイムマシン」の略だと思っていたのである。いや、致し方ない話なのだ。小室哲哉さんが操っているシンセサイザーは、いろいろよくわからない部品がついており、タイムマシンに見えなくもない。
加えて、見た目も声もあまり年を取らない3人のルックス。さらに未来的なサウンド。1984年リリースのデビュー曲『金曜日のライオン(Take it to the lucky)』は今聴いても新しい。どこを切っても、彼ら自体が、タイムトラベラー感満々ではないか。
だから「TM」が実は、彼らのホームタウン「多摩」の略だと知った時は本当にビックリした。まさかの地元愛! しかも多摩フィーチャーに強いこだわりを見せたのが、小室哲哉さんと知り二度ビックリ。しかもしかもデビュー前のコンテストは、略さず「TAMA NETWORK」で出場していた、というので三度ビックリである。

バラードの天才、木根尚登
ビックリしたと言えば、ギターの木根尚登さんが、かなり前、ある番組にて『Get Wild』当時はギターが弾けずエアギターだった、とサラッと告白したのは驚いた。しかも彼の代わりに影武者としてギターを弾いていたのが、当時サポートミュージシャンとして参加していたB’zの松本孝弘さんとは!

5月15日にリリースされるTM NETWORKトリビュートアルバム「TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-」では、B’zが『Get Wild』をカバーしているが、松本さんにとっては昔取った杵柄状態だったろう。なんとワイルド&タフなネタなのか。ちなみにB’z版『Get Wild』を少し聞いたが、「何も〜怖くはな〜い〜ヤッ!」「ゲッワイルエンチャーッ!」など稲葉さんの独特のシャウトがさく裂し、最高だった。
話を戻そう。木根さんがエアギターを語るに至った経緯が、ある番組で「今だから話せるネタはないですか」と話を振られ、突発的に話したというから、彼のサービス精神旺盛なお人柄が伝わってくる。
木根さんの語り口調は飄々として本当に面白い。ところがデビューまもなくの彼らは、宣伝戦略的に「面白さ」を徹底に避ける方針を取っていたため、面白い雰囲気を持つ木根さんはトークに参加できなかったそうだ。あくまでウィキペディア情報ではあるが、私は唸ってしまった。面白さを避けるなど、私が住む大阪では考えられない……!

面白さは横においても、木根尚登さんの作るメロディーはとても美しい。私は佐々木ゆう子さんの楽曲『PURE SNOW』はアイドル史に残る名バラードだと思っている。私の友人は、やはり彼が作曲したTM NETWORKの『GIRL FRIEND』を、大切な大切な青春の一曲だと言っていた。
やさしく、切実な戦いの歌
『GIRL FRIEND』は、映画『ぼくらの七日間戦争』の挿入歌。そして『GIRL FRIEND』も『SEVEN DAYS WAR』も、どちらもバラードだ。荒々しさがなく、静か。だからこそ、生徒たちのくじけない愛しさがひしひしと沁みる。そして、壊したいわけではない、背きたいわけでもない。素直に生きたいだけ、というひたむきさが伝わってくる。
こんなにやさしく、切実な戦いの歌は、なかなかない。
人は誰もが傷つきやすい天才で、今のもがきや悩みも、その傷ついた夢を取り戻す作業なのかもしれない。そんな風に思えるTM NETWORKの音楽は、未来的なのに、なぜだか純粋に何かを追い求めることができた、「あの頃」も思い出させるのだ。
まるで、心の秘密基地に流れる歌である。
◆ライター・田中稲

1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka
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