
「よく、『短い時間で寝不足を解消する方法はないですか?』という相談を受けますが、答えは『ない』です。たまった『睡眠負債』は日々コツコツと寝て返済するしかありません」と、睡眠学会総合専門医の中村真樹さんは断言する。近年、睡眠の研究が進み、その重要性が叫ばれているが、はたしてよい睡眠とは何か…。専門医にとことん教えてもらおう。
大谷選手は「寝るのも仕事」を理解している
まずは、「基本的な睡眠時間は10時間、最低でも8時間眠る」と公言する大谷選手のようにたくさん眠ることは、心身にどんな効能があるのだろうか?

「睡眠には『記憶の定着・整理』『ストレス解消』『疲労回復』『成長』『免疫力回復』などの役割があり、特に、深睡眠(いちばん深い眠り)時に、成長ホルモンや免疫力を高める物質が多く分泌されます。大谷選手は、睡眠不足がパフォーマンスの低下に直結することを実感しているから、しっかり眠ることで最高のパフォーマンスを維持している。 “寝るのも仕事”を理解しているのです」(中村さん・以下同)
寝不足では効率が40%もダウンする
国民1人あたりのGDP(国民総生産)と睡眠時間に関連があるというデータも。
日本人の平均睡眠時間は6時間18分だが、フランス人は日本人より1時間以上も睡眠時間が長いのに、GDPは40%近く高いという。
「原因は、通勤時間の長さと残業とされています。寝不足で仕事の効率が40%落ちるという調査結果もある。寝不足状態で8時間働いても、4.8時間分の仕事しかできていないわけです。日本は『睡眠を削って頑張ることが美徳』とされる傾向があるが、海外ではむしろ”自己管理能力が低い”と評価されることもある。睡眠不足の弊害が数値で明らかになっているいま、考え方を変えるべきです」

脳のメンテナンスは7時間かかる
健康のために推奨される睡眠時間は7~8時間とされているが、それには理由があると中村さんは言う。
「睡眠中、脳と体のメンテナンスが完了するのに7時間くらいかかるといわれています。7時間未満の睡眠が続くと未修復の箇所が残り、体調不良やミスにつながるわけです。4時間睡眠を5日続けると、徹夜明けと同じくらい集中力が落ちるとのデータもあります」

睡眠負債はどの程度寝たら返済できるのか。
「程度にもよりますが、5時間睡眠を数か月続けて日常生活に影響が出た人が回復するまでに、9時間睡眠を1か月以上取り続ける必要があったとの報告も」
そうならないためにも、「量・質ともに良好な睡眠」を目指すべきだ。
あなたの睡眠の質はいい? 悪い?
中村さんによると、よい睡眠とは、30分以内に入眠し、朝まで中途覚醒せず、アラームなしで起床予定時間に目が覚める状態だ。そこで、以下の質問に答えてみてほしい。1つでも当てはまる場合は、睡眠の質の低下が考えられる。
【1】寝床に入って30分以上寝つけない
【2】眠くなると足や腕がむずむずして目が覚める
【3】夜中に2回以上目が覚める
【4】以前より2時間以上早く目覚め、その後眠れない
【5】いびきをかく
【6】起床時に口や喉が渇く
【7】以前と睡眠時間は同じなのに眠気や疲労感が残る
【8】朝の目覚めが悪く、無理に起きると頭痛やめまい、吐き気を覚える
早寝早起きがいいわけではない!
前項目にチェックをつけたあなたに“よい睡眠”のための6つの方法を、中村さんに解説してもらおう。
1. 就寝・起床時間を決める
「眠りのリズムを整える基本であり、近道です」
2.休日も夜更かししない
「眠りのリズムを崩さないためです。ただ、平日と同じ時間に寝て、起きる時間を2~3時間遅らせる程度ならリズムを崩しません」
3. 自分に合った時間に眠る
「人にはクロノタイプ(※)があり、夜型の人が無理に早起きをして体調を崩すこともある。早寝早起きにこだわらず、自分に合った時間帯に規則正しく眠ることが大事です」
(※)クロノタイプとは体内時計の傾向。「朝型」「夜型」に区別され、約50%が遺伝、約50%は後天的なものとされる。自己チェックは「ミュンヘンクロノタイプ」で検索を。
4. 就寝1時間前からリラックス時間を設定する
「軽いストレッチをするといいですね」
5. 朝食をとる
「睡眠時は内臓機能も休養モード。少しでも口に入れることで内臓を刺激し、覚醒モードに導きましょう」
6. 帰りの電車で寝ない
「通勤時間が長い人は、朝の電車で寝ることは前夜の睡眠を補う意味でもOKですが、帰りに眠り込むのは、夜の睡眠リズムが崩れるので絶対NGです」
夜中に何度も目が覚めるのが悩み、という人もいる。「これは老化現象の1つ。目が覚めるのが1、2回で、その後すぐに眠れる場合は気にしなくても大丈夫」。

中高年女性は眠れなくなるというのはホント?
とはいえ、何もしないと中高年以降は必然的に眠りの質が低下する。
「更年期世代は自身の健康や容貌の変化、親の介護などの不安要素が加わり、寝つけない、途中覚醒してしまう『睡眠障害』が起きやすくなるので、よい眠りを意識する必要があります」 以下の症状が思い当たる人は、専門医のいるクリニック(「日本睡眠学会HP」で検索可能)に相談を。
無呼吸になる頻度が上がる
「更年期を過ぎるとホルモンバランスの影響で無呼吸になる頻度が上がるといわれています。また、小顔の若いかたにも、無呼吸が増えている。顎が小さいと仰向けのときに舌が落ち込んで、喉に通じる空気の通り道を塞いでしまうのです」
朝、口や喉が渇く、いびきをかく人は、睡眠時無呼吸症候群の可能性も。
脚のむずむず感 遺伝や老化現象の可能性も
「夕方以降、眠くなるとふくらはぎの骨と筋肉の間あたりに虫がはうような不快感、しびれのような感覚が出て寝つけず、動かすと楽になる人は『レストレスレッグス(むずむず脚)症候群』が疑われます。腕や腰に症状が出たり、夜以外にも日中眠くなったときやじっと座っているときに出る人も。遺伝や老化現象の1つといわれますが、鉄不足の女性に現れることもある」
眠りに悩む人は、特に次のことにも気をつけたい。
「明日のことは明日考えて、まずは寝てください。夜中に考えてもネガティブなことしか浮かびませんから」
◆教えてくれたのは:睡眠学会総合専門医 中村真樹さん
※女性セブン2024年5月30日号
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