「延命治療」は、本人や家族の幸せにつながることもあれば、後悔につながることもある。『どうせ一度きりの人生だから 医師が教える後悔しない人生をおくるコツ』(アスコム)を上梓した医師の川嶋朗さんは、いざというときに後悔しない選択をするため、きちんと自分の意思を示しておくことをすすめている。「よい終わり」のために今から準備できることについて詳しく教えてもらった。
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後悔につながることがある「延命治療」
仮に救急救命医療で運ばれてきた90歳の患者さんに対して延命治療を行い、寝たきりにはなるものの命は助かったという場合、家族は本人が亡くなるまで高額な入院費を払い続けることになり、金銭的に苦しめられるということもある。
このように、延命治療が本人や家族のためにならないと医師が感じたとしても、延命治療をしない判断を医師が行うことは基本的にできないという。
「結果的に望まれない延命治療をしたからといって、医師は訴えられません。なぜなら、延命治療が家族に地獄の苦しみを味わわせてしまうとしても、目の前の患者さんに対して医療行為をしているからです」(川嶋さん・以下同)
延命治療で後悔しないために自分の「終わり」をイメージしておく
医療行為は本人や家族を苦しめてしまうことが現実にはある。延命治療で後悔しないためにやるべきことは、自分の「終わり」をきちんとイメージしておくこと。元気なときに、延命治療に関しても意思表示をしておき、ある一定の年齢になったら自分の最期を誰にどのように託すか、考えて伝えておく必要がある。
「人は最期はひとりでは死ねないのですから、元気で日常生活を送っているうちに、きちんと死について考える習慣をつけておくことをおすすめしたいのです」
「もしものとき」の家族をイメージする
なかなか家族と自分の最期については話しづらい、というときには、自分に「もしも」があったときの家族の姿をイメージすることが大切だ。延命治療は行わなかったことによる後悔も、行ったことによる後悔もあり得る。しかし重要なのは、そこに本人の意思があるかどうか、そしてそれを家族と納得いくまで話し合えているかどうかだ。
「本人の意思がわからない場合、家族が『延命治療をしない』という判断を下すのは非常に難しいことです。せっかく長生きしたけれども、人生の締めくくりである最晩年に、寝たきりで生命維持装置をつけられて暮らすというような不本意な状態で生きるとしたら、それは幸せとはとてもいえません」
エンディングシートのすすめ
いざというときに家族や周囲の人が慌てたり、トラブルになったりしないよう、川嶋さんはエンディングシートを作成することをおすすめしている。書くべき内容は「医療処置についての意思確認表」と「自らの死に際しての意思確認表」の2つだという。
医療処置の意思確認表には延命治療や人工呼吸器装着の希望などについて記載
それらには具体的にどのような内容を記載すればいいのか。医療処置に関しては、延命治療の希望を始め、心肺機能維持や回復のためのAEDの使用や心臓マッサージの実行、呼吸のための気管切開の実行や人工呼吸器の装着点滴での栄養補給や胃ろうの実行、輸血や人工透析、緩和ケアの実施などについて記載する。
たとえば、「人工呼吸器」や「人工心肺」「経鼻栄養(鼻から管を入れて、胃に直接流動食を入れる)」や「胃ろう」といった措置や、臓器提供を希望するかどうかをシートに記して残しておけば、家族を迷わせることはありません」 と川嶋さん。
死に際しての意思確認表には最期の時間を過ごしたい場所について記載
自らの死に際しての意思確認票には、最期をどこで過ごしたいか、葬儀やお墓はどのようにしたいか、病理解剖や臓器提供、献体を希望するかを記載する。そのうえで、記載した年月日と本人の署名を記す。
「元気なうちに、自分がどこまで生きたいか、どういう状態になったらそれ以上は延命治療を望まないのか。そういったことを、家族にきちんと意思表示し、家族に究極の選択を委ねて精神的な負担をかけないようにすることが重要なのです」
◆教えてくれたのは:医師・川嶋朗さん
かわしま・あきら。神奈川歯科大学大学院統合医療学講座特任教授。統合医療SDMクリニック院長。北海道大学医学部卒業後、東京女子医科大学入局。ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院などを経て2022年から現職。漢方などの代替、伝統医療を取り入れ、西洋近代医学と統合した医療を担う。著書に『どうせ一度きりの人生だから 医師が教える後悔しない人生をおくるコツ』(アスコム)など。https://drs-net.com/profile/