健康・医療

【健康診断の落とし穴】マンモグラフィ、PET検査、腫瘍マーカー検査は必要か? 過剰な健診・検診を受けることのリスク

PET検査
マンモグラフィ、PET検査、腫瘍マーカー検査は必要か?(写真/PIXTA)
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「年に一度は体の総点検を」と会社や自治体から届く健康診断の案内。病気の早期発見のため、自覚症状のない不調を見つけるため、しっかり受けるべきとされるが、「どのメニューを受けるべきか」「数値をどう評価すべきか」は医療の進歩にともない日々、変化している。そもそも、健診自体、受けるべきなのか。健康診断のいまを総点検する。【前後編の後編。前編を読む】

標準から外れると“薬漬け”のリスク

健康診断の落とし穴は、身長と体重から算出される「BMI」についても存在すると新潟大学名誉教授の岡田正彦さんは指摘する。

「日本ではBMIは22が正常とされ、25を超えると異常ありと診断されます。しかし高齢になれば、やせている人ほど免疫力が低く病気になりやすい。太っているよりも、やせていることのデメリットの方が大きいでしょう」

“正常の範囲にない”として異常とみなされると、その先に待ち受けるのが医師の診療と治療だ。

「たとえば高血圧という結果になった場合、本来であれば医師がすべきは生活習慣改善のためのアドバイスです。食事を減らして減量する、お酒の量も減らす、運動していないのなら適度に運動する。そうしたことに挑戦して、それでも血圧が下がらなければ降圧剤が検討されますが、いきなり薬を処方する医師もいます」(大竹真一郎胃腸内科院長・大竹真一郎さん)

しかし、生活習慣を改めることなく薬頼みで血圧を下げると、岡田さんが前述したとおり無理が生じる。

「“血圧は薬で下げましょう”と言われるがままにのんでしまうと、脳に必要な血液が届かなくなりめまいがして転んで骨折したり、脳梗塞や認知症が発症したりといったリスクが高くなることもあります」(岡田さん)

血圧を気にしすぎなければ、薬をのまなければ起きなかった悲劇が起きてしまいかねないのだ。これは血圧に限った話ではない。「中性脂肪」についても同様だと大竹さんが続ける。

「そもそも中性脂肪の値は、検査前日の食事によっても大きく左右されます。それなのに高いからといってすぐに低くしましょうと薬を処方する医者もいます。ですが、中性脂肪を減らす薬が心筋梗塞や脳卒中を予防できるというエビデンスはありません。

要するに、その薬で目の前の中性脂肪の値は改善しても、その先に待ち受ける大きな病気を防げるかどうかは別の話です。それなのに手段と目的を取り違えて、中性脂肪の数値を下げることをゴールにしてしまう医者もいる。薬を出せば医者は儲かりますから、とりあえず新薬を出して下げましょうと、デメリットも説明せず処方するのです」

そもそも、数値でくくってしまうこと自体に問題があると言うのは、精神科医の和田秀樹さんだ。

「判定の多くは統計的なもので、健康とみなされる現役世代の平均値を基準に、そこから95%の範囲内に収まる数値を正常、収まらない5 %を異常とみなしています。

ただそれだけで、95%に収まっているから健康、 5%に入ったから不健康というわけではありません。異常値で健康な人もいれば、正常値で実は病気を抱えている人もいるのです」

マンモグラフィは2枚では無意味

健康診断には人間ドックやがん検診、脳ドックなどのオプションがある。果たして、これも「検査は受ければ受けるほどいい」というわけではない。

たとえば人間ドックのオプションには「PET検査」や「腫瘍マーカー検査」などのがん検診を選択できることが多い。特に腫瘍マーカー検査は血液一滴から可能などと謳われていることもあり、“部位ごとに複数回の検査を受けるくらいなら”と選ぶ人も少なくないが、大竹さんは「無意味で、おすすめできません」と切り捨てる。

「PET検査は放射線被ばくや、がんではないのにがんだと診断される『偽陽性』のリスクがある。ほかの診断方法でがんが見つかった人を対象に、より詳細を知るための検査なので、PETでがんを見つけようとするのは、宝くじを当てようとするみたいなもの。

腫瘍マーカーはがんの治療をしている人が、治療が効いているかどうかを知るための検査。減ってきたら治ってきた、増えてきたら再発かなという判断に使われるもので、早期発見には役立ちません」(大竹さん)

岡田さんも、言い添える。

「腫瘍マーカー検査は、血液に含まれる異常たんぱく質などの上昇を利用した検査で、喫煙者などでも反応します。その結果、がんでもないのに精密検査を受けることになり、体に負担をかけかねません」

女性が罹るがんのトップである乳がんは早期発見、早期治療が予後に重要とされるが、「マンモグラフィ」も安易に受けていてはなんの意味もない。

マンモグラフィ
「マンモグラフィ」も安易に受けていてはなんの意味もない(写真/PIXTA)
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「学会や厚生労働省は、異なる方向で片方2 枚ずつ撮影することを推奨しています。しかし、自治体が健診センターなどに委託して行うマンモグラフィはコストカットを目的に、片方1 枚ずつしか撮らないこともある。それでは発見は難しく、ただただ損するだけです」(岡田さん・以下同)

「経口ブドウ糖負荷試験」は血管の老化を加速?

人間ドックで定番の「経口ブドウ糖負荷試験」にも要注意。

「『75g 経口ブドウ糖負荷試験』というのが正式名称で、ブドウ糖を水に溶かした液体をのんで30分後、1 時間後、2 時間後と血糖値を測ります。この上がり方で、糖尿病および糖尿病体質かどうかを見つけることを目的にしていますが、そもそも糖尿病かどうかは朝の空腹時に血糖値を1 回測ればわかります。

ブドウ糖というのは血管を傷つけますし、75gというのは5g入りのコーヒーシュガー30本分に相当します。そんな大量の糖を体内に入れること自体、体にとってかなりの負担になり血管の老化も加速させます」

病院や医師にとって、健診や人間ドックは特定の病気の治療を行うよりも収益性が期待できる。最新のより高いオプションは貴重な収益源だ。だが、そうした過剰な健診・検診によって、“見逃していてもよかった”病気が見つかり、“受けなくてもよかった”治療を受けるハメになりかねない。解剖医で東京大学名誉教授の養老孟司さんが言う。

「30年前、ぼくが東大医学部で働いていた頃のことですが、学部別で見たとき、最も健康診断の受診率が低いのが医学部でした。つまり医師は健診が無駄だと知っているのです。自分の体のことをわかっているのは自分自身、健診よりも体からのサインをきちんとキャッチすることが大切です」

数値に一喜一憂するのではなく、情報を更新し、自分の感覚も大切にすること。それが、健康寿命を延ばすうえでは欠かせない。

情報をいますぐアップデートすべき健診・検診

・胸部X線検査

結核が流行していた時代の検査で、結核がほぼ根絶されたいま、メリットよりも放射線被ばくによる発がんのリスクの方が大きい。

・胸部CT検査

放射線被ばく量は胸部X線検査の数十倍。強力な検査のため、治療の必要のない極めて小さながんも見つけてしまい、過剰医療につながる危険性がある。

・胃部X線検査(バリウム検査)

精度の正確性には疑問。また、体勢を変えてさまざまな角度から撮るため被ばく量が多くなるとも指摘されている。体外にバリウムが排出されずに腸に長時間留まると腸閉塞や腸穿孔を引き起こす恐れがある。

・血液検査

コレステロール値、中性脂肪などは「数値が高い」ことを理由に、診療を受けて投薬や治療が始まることも少なくないが、薬をのむことで病気が予防できるといったエビデンスはない。

・メタボ健診

腹部を含め、体内の脂肪はCTやMRIを撮らないとわからないため、腹囲を測ることの意味は極めて少ない。数値が低いからと、治療が必要な疾患を見落としてしまう可能性もある。

・PET検査

がんの転移先を見つけ出すことがメインであり、早期発見には向かない。微量の放射性物質を含む薬剤を体内に入れるので放射線被ばくのリスクや、がんではないのにがんだと診断される「偽陽性」のリスクもある。

・腫瘍マーカー検査

血液に含まれるたんぱく質の上昇を利用した検査で、良性の腫瘍にも反応してしまうため、がんではないのに精密検査などを受けることで体に負担がかかることがある。

情報をいますぐアップデートすべき健診・検診
情報をいますぐアップデートすべき健診・検診
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※女性セブン2024年7月25日号

●秋野暢子さんが語る食道がんの発見と治療 告知を受けて「正直ほっとしました。やっと治療ができる」

●歳オバ記者、大病を経て感じた「健康と友情のありがたさ」 東京ドーム特別席、デイキャンプを経験して“人生の喜び”

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