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《後悔のない最期を迎えるために》在宅医療「住み慣れた家で患者はいい顔に」、医師が解説する緩和ケア、家族の負担、看取り

在宅で問診する医師
在宅医療にはメリットも多い(Ph/photoAC)
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終わりよければすべてよし――人生100年時代になり、どんどん長くなる人生後半戦をいかに充実させられるかは、満足できる生涯を送れたのかどうかに直結する。とりわけ“最後の最後”、息を引き取るその瞬間を、住み慣れた場所で心安らかに過ごしたいと願うことは決して“贅沢な望み”ではない。その伴走者となる「看取りの名医」を見つける方法を総力取材。ジャーナリストの鳥集徹氏がレポートする。【前後編の前編。後編を読む】

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「足腰が悪くなり、介護認定を受けるために病院に行った84才の父に胃がんが見つかりました。お腹にがん細胞が散らばる腹膜播種のあるステージⅣで、医師からは『手の施しようがない』と言われ大学病院に入院しているのですが、父は元々病院嫌いで検査も負担なようで『家に帰りたい』と言うのです。娘の私は希望を叶えてあげたいけれど、高齢の母は急なことで気が動転しているうえ、がんの父の面倒を家で見るなんて無理だと。どうすればいいのか…」

昨年末、筆者は関東地方在住の女性Aさんから、こんな相談を受けた。

住み慣れた家で最期を迎えたいと願う人は多い。厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」(2023年12月)によると、「最期を迎えたい場所」として、一般国民の43.8%が「自宅」と回答している。現場をよく知っている医療者に限定すると、その割合はさらに高くなり、医師が56.4%、看護師が57.4%、介護支援専門員が58.1%だった。

「近くて誠実」な在宅医を見つけたい

しかし、残念なことにその希望を叶えられる人は多くない。同じく厚労省の「人口動態統計」によると、自宅で亡くなる「在宅死」の割合は2000年以降13%前後で推移し、7~8割が病院で亡くなっているのが現実だ。

ただ、ここ数年、その割合に変化が見られる。2020年が15.7%、2021年が17.2%と、在宅死が増えているのだ。その一方で、病院死は65.9%と減少している。ただし、その要因は長引くコロナ禍で病院や介護施設での面会制限が続くなか、最期は自宅で過ごしたいという人や、入院したくてもできない人が増えたことが要因ではないかとみられている(NHK『「自宅」で亡くなる人の割合増加 長引くコロナ禍影響か』2022年10月2日)。

在宅医のリスト
信頼できる在宅医をリストアップ
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いずれにせよ、多くの人にとって自宅で過ごすハードルが依然として高いのは間違いないだろう。冒頭のAさんの父親も、家族や病院の相談員などと話し合った結果、家で療養するのは難しいと判断され、いまも入院生活が続いている。

だが、どうしても家で過ごしたい、過ごさせたいと思うなら、諦めないでほしい。高齢化の進展に伴って、死亡数が急増する「多死社会」の到来で、今後病院で死ねない「死に場所難民」の増加が予測されている。それに対応するため、在宅死を支える医療・看護・介護の体制の整備を、国が後押ししているからだ。

多死社会で死を迎える場所のグラフ
2030年には47万人が「死に場所難民」になる(出典/厚生労働省「人口動態統計」、国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」)
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具体的には、24時間365日往診可能な医療機関のことを「在宅療養支援診療所(および在宅療養支援病院)」と呼び、常勤医師数や緊急往診、看取り実績などの届け出に応じて、高い診療報酬が付く仕組みが設けられている。在宅療養支援診療所の届け出数は、2022年4月の段階で、全国で約1万4500施設となっている。

つまり、家で最期を過ごせる環境が、少しずつ整い始めているのだ。ただし、在宅療養支援診療所といっても、実際の看取り実績や在宅医の経験には、まだ大きな差があるといわれている。自分の生活の中に入り、近い距離でおつきあいする関係になるだけに、その人となりも含め、しっかりと見極めた方がいいだろう。そのうえ、在宅医療として往診できる範囲は直線距離で16km以内と定められており、生活圏内で探さなくてはならない。

そこで、各地方で看取り実績の多い在宅医に取材して、どうすればいい医師とめぐり合い、後悔のない最期を迎えられるのかをたずねた。同時に、全国各地で信頼できる在宅医を紹介してもらい、リスト化したので、ぜひ参考にしてほしい(別掲)。

在宅医リスト
信頼できる在宅医をリストアップ
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自分の手に人生を取り戻せる

そもそも、なぜ多くの人が病院よりも家で最期を過ごしたいと望むのか。

年間400~500件の在宅看取り実績がある、やまと診療所(東京都板橋区)の安井佑医師(医療法人社団焔理事長)はこう話す。

「在宅のいちばんのよさは自分らしく時間を過ごせることです。病院にいればベッドに横たわり、白い壁や天井を見つめながら、横になっているよりほかありません。そうした中で朝7時に起こされて体温を測らされ、決められた朝食が出てくる。食べられなかったら、『何割残した』とチェックされるなど管理された生活になります。

一方、在宅であれば自分がずっと過ごしてきた空間で制約なく過ごせる。例えば朝は10時まで寝て、起きたらコーラを飲みながら、動画配信の映画やドラマを見てもいい。自分の人生が自分の手の中にあるという感覚が、家なら自然に起こるんです。そこが病院と在宅の根本的な違いです」

在宅医のリスト
信頼できる在宅医をリストアップ
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年間130件を超える在宅看取り実績のある、札幌在宅クリニックそよ風(札幌市)院長の飯田智哉医師も、「家には、いつもの見慣れた景色の中で、いままで生きてきた日常がある」と話す。

「住み慣れた家に帰ると、患者さんがみんな、いい顔をするんです。長く寄り添った家族同然の存在であっても、病室にペットを入れることは原則できません。でも、家にいれば自由に触れ合うことができる。もちろん家族も同じです。

コロナなどの感染対策でいまも面会制限が続いており、小さなお子さんやお孫さんがいるかたの場合、なかなか会うことが叶いません。そうした制限のない家は患者さんにとって生きやすい場所。日常が転がっている家で過ごすのと、非日常の病院で過ごすのとでは、やはり違います」

家族と犬
自宅であれば、ペットや家族と自由に触れ合える(Ph/PIXTA)
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在宅で過ごす日常で得られるものは大きい。しかし、冒頭にも書いた通り、家で最期を迎えたいという望みを叶えられない人が多いのも現実だ。その背景には、一緒に暮らす家族にとって、「介護が負担になるかもしれない」という不安な気持ちがある。

前述の厚労省の意識調査によれば、「最期を迎えたい場所」として「自宅以外」を選択した人に理由をたずねたところ、もっとも多かった回答が「介護してくれる家族等に負担がかかるから」(一般国民74.6%)、次が「症状が悪くなったときの対応に自分も家族等も不安だから」(同57.2%)だった。

確かに、徐々に弱っていく身内を家で支えるのは、容易なことではない。しかし、日本財団の調査では「支えられる側」の方が、家族に負担をかけてしまうと思っていることが読みとれる。しかし、しっかりしたケアの体制さえ整っていれば、患者が想像しているほど負担が大きいわけではないという。年間の在宅看取りがおよそ200件と、九州でもっとも実績が多い、やまおか在宅クリニック(大分市)院長の山岡憲夫医師が話す。

「患者さんやご家族が不安なのは、在宅で具合が悪くなったときに、医師がどのような治療や対応をしてくれるのかわからないからです。実際には家でも点滴や輸血ができ、胸水や腹水を抜くこともできますが、知らないかたが多い。ほかにも痛みの緩和はもちろん、不眠の対応や、抗生物質、解熱剤の投与もできます。

在宅医のリスト
信頼できる在宅医をリストアップ
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つまり、病院で行う緩和ケアのほとんどは、家でもできるのです。また、容体が急変した場合には、24時間365日いつでもクリニックに電話してくださいと伝えています。いざとなれば夜中でも看護師や医師が来てくれるとわかれば安心ですよね。そうしたことを、私は初診のときに1、2時間かけて説明しています。それによって私がいちばん大事にしている、患者さん、ご家族との信頼関係が築けるのです」

患者は「つきっきり」をそれほど望んでいない

とはいえ、病院のように同じ建物の中に看護師や医師がいるなど、誰かがずっとそばについていてくれるわけでもない。患者が起き上がれなくなるまでは、医師の訪問は1週間に1、2回程度で、看護師やヘルパーの訪問回数も限られる。

家の模型
安心してお願いできる医師を見つけよう(Ph/photoAC)
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それでも、あまり心配することはないと安井医師は話す。

「病院だとナースコールを押せばいつでもすぐ看護師が来てくれますから、そこは在宅と違う安心感があります。ただ、実際に24時間誰かにつきっきりでみてもらうことを、患者さん本人はそれほど望んでいない。また、在宅医療の対象となることの多い末期がん患者の場合、家に帰ってから亡くなるまでの平均期間はおよそ2か月半です。長い経過をたどる脳卒中や認知症のかたの介護に比べると家族にかかる負担は、それほど大きくありません。

その期間を家で一緒に過ごすことで、患者さんの容体が変化していくのがわかり、ご家族にも覚悟ができます。そして、患者さんは最終的には自分のタイミングを選んで自然に息を引き取ります。奥さんがトイレに行った隙にというかたや、ご家族が朝食を食べている横でというかたもいました。その瞬間、そばにいなかったとしても、家族と最後の数か月を過ごしたご本人は安らかに旅立っていくのです」

また、手助けしてくれる家族がいなくても、その地域で在宅ケアの体制が整っていれば最期まで自宅で過ごすことは可能だ。安井医師が続ける。

「実際に当クリニックでは、毎年100人単位でひとり暮らしのかたを看取っています。少なくとも都内は、独居でも対応可能な医療資源が充分そろっていると思います。

ひとり暮らしのかたの場合、最期が近づくとテレビを見たりして、静かにベッドに横たわっていることが多いです。そして、次に看護師が訪問したときには亡くなっていたということが起こります。家で最期を迎えるということは、自分のタイミングで息を引き取るということ。必ずしも誰かが見届ける必要はないのです」

※女性セブン2024年7月25日号

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