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【実例レポート】介護で浮き彫りになる「きょうだい関係」の現実 最高の介護パートナーとなった弟、母親の危篤で突如現れる長男のケースも

介護ベッドでリクライニングして横たわる高齢女性と車椅子
きょうだいだからって分かり合えるのは難しい? きょうだいと介護を考える (Ph/イメージマート)
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ライター歴45年を迎えたベテラン、オバ記者こと野原広子(66歳)。一昨年、茨城の実家で母親を介護し、最終的には病院で看取った。そんなオバ記者が、介護で感じた「きょうだい」との関係について綴る。

* * *

11歳下の弟は最高の介護パートナーだった

介護とは、“老いた両親の身じまいを子が手伝うこと”と思っていたけれど最近、介護の大変さはそれだけじゃないんだなと思うんだわ。きょうだいがカッチリ平等に親の介護をする、なんてことはあり得ないから、それでもめる、というのはほんの一面でね。もっと救いようがないことがあるんだよね。今回はそんな話をふたつ。

きょうだいイメージ
親の介護が絡むときょうだいの関係も難しくなる?(Ph/photoAC)
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ひとつめはわが家のこと。私は2年前に枕を並べて寝て母親のシモの世話をしたんだけど、今振り返っても大変だったなと思う。もし神様が「あと3日世話をしたら3日、いや10日、お母さんの命を伸ばしてあげます」と言ったら、ふたつ返事で断るもの。そういう意味で私の力で出来ることはやったから後悔はないの。後悔がないというのはありがたいことで、母ちゃんの夢なんかみやしない。それと11歳年下の弟も最高の介護パートナーだったと思うよ。私に介護休暇をくれて母親の食事とシモの世話をしたというと、みんな「そんな男きょうだいはまずいないよ」と驚くもんね。

母ちゃんと一緒に歩いてるのが11歳下の弟
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家事嫌いで口汚かった年子の弟

でも、わが家が母親の介護と看取りがうまくいったのは、ヘンな話だけど3年前に大工をしていた、私の年子の弟が58歳で亡くなっていたからなんだよね。ヤツは外では名工ということになっていたけれど、家の中ではなかなかのトラブルメーカーだったんだわ。

まず困るのが家事がまったくできないこと。子供のころから買い物を頼まれても頑なに行かない。家の中がどんなに困ろうが行かないと言ったら行かない。腹を立てた母ちゃんがゲンコツをくれても行かない。お米研ぎとかは餓死寸前までしなさそうな勢い。このかたくなさは私から見ても異常だったよね。

腕組みしている男性
昔から異常なほど頑固だった(Ph/photoAC)
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それと口汚さ。若い頃はそうでもなかったんだけど50代の晩年は酒に酔うと耳を塞ぎたくなるようなことを言う。しかも呆れるほど相手を傷つけることを的確に言うから言われた方はたまらない。だから長いこと私は会うのを避けていたの。

母ちゃんも最晩年にベッドの中で何回も言っていたもんね。「ばあさんを養老院で死なせたくせにと何回も言われた」って。これは気丈な母ちゃんの“弁慶の泣き所”で、私が中2のとき、認知症になった祖母が施設に入って3か月で亡くなったことを、ずいぶん悔やんでいたんだわ。近所の人にも「あんなに早くなくなるなら家で死にたかったろうよな」と面と向かって言われたし、祖母の娘、つまり小姑とは葬式の日に怒鳴り合いのケンカよ。

オバ記者
オバ記者の紹介で雑誌に掲載された年子の弟
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当時の田舎では家で看取るのが当たり前だったから、母ちゃんはそれを言われるとシュンとするしかなかったんだよね。祖母が亡くなった3年後、母ちゃんは町の福祉課のホームヘルパーになって「なんでここまで?」と思うほど働いたのも、祖母への負い目と私は見ていたの。

母ちゃんの介護に年子の弟が参加していたら…

だから、母ちゃんの介護にもし大工の弟が参加していたらと思うと…、いやダメだ。思いたくもないわ。何もしないくせに枕元で母ちゃんを傷つけることを言って、私と弟をいら立たせたと思うよ。実は私にとってキツイのは、なぜ弟がそういう行動に出るか、わかるからなんだよね。いやおうなく奴が背負ってきたもの。決して口にしなかったことを知っているから、ケンカになると最後は泣きながらつかみ合いになる。そんなケンカを母親のシモの世話をしながらしたいか? 絶対にイヤだよ。

オバ記者の「母ちゃん」
年子の弟と一緒に母ちゃんの世話なんてムリ!
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そうそう、もうひとつ、介護不適格人だった弟のやっかいなキーワードが「長男」よ。平成の人に言ってもわからないと思うけれど、昭和人間の長男のイメージといったら床柱を背にドンとあぐらをかいて座っているという感じ。「床柱って何?」と聞かれても困っちゃうけれど、とにかくタテの物をヨコにしないで威張って家族に命令をしているのが長男。そんな風に思っている人が大勢いて、それを不思議とも思わなかったんだわね。

母親の危篤で急に現れた長男のケース

そんな“長男”に振り回された人とつい最近、居酒屋で飲んだのよ。Yさん(63歳)。彼は一昨年に妻の母親を見送ったの。その数年前から週末ごとに都内から横浜の家まで車を走らせて、食事の用意から買い物。弱ってきてからは平日、会社を休んで病院の送り迎えをして、最後は施設へ入居する手続きから着替えの洗濯。

居酒屋イメージ
亡くなるまで義理の母親の世話をしていたYさん(Ph/photoAC)
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「夫婦だから当たり前と言われたらそれまでだけど、オレもそうとう頑張ったと思うよ」というんだけどね。彼の不満はそこじゃないの。実は妻には長く音信が途絶えていた兄がいて、結婚してから会ったのは2度、いや、3度かという感じ。義父と仲が悪くてケンカして家を出たというと威勢がいいけれど、陰で母親に無心の限りをつくしているというグチをYさんは妻から聞かされていたんだって。

「ビックリしたのは義母がいよいよ危篤になったら、それまで何度手紙を書いてもナシのつぶてだった義兄が現れて、開口一番、『これからは長男のオレが責任を持つから、心配するな』って言ったことだよ」

さらに驚いたのは妻は「お兄ちゃんも母親のこと、気にかけていたんだね」と嬉しそうだったこと。ひとりっ子のYさんにはこれが理解できない。

笑顔の女性
義理兄の発言に啞然とするも、妻は嬉しそうにしているのに驚く(Ph/photoAC)
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でもきょうだい愛もつかの間、翌々日に母親が息を引き取ると「ミスター長男」は、ささいなことで葬儀業者にケンカを売り、久しぶりに会った従兄弟をバカにする。さらにはリビングの真ん中に腕組みして「貯金通帳を出せ。〇日までにこれまでの収支を全部書き出せ」と言い出したそうな。

母親に親不孝しかしなかった負い目?

あの日から1年。妻がYさんに言ったんだって。「結局、兄の負い目なんだよね。長男として父の期待に応えられなかった負い目。母親に親不孝しかしなかった負い目。それを跳ねのけようと無理難題を言い続けているのよ」と。

オバ記者の母親
Yさんからしたら妻が言っていることも意味不明…(写真は元気になった時の母ちゃん)
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「そんな道理の通らないことってないじゃないか。勝手に負い目をもって暴れてるなんて、なんで許されるのかひとりっ子のオレにはどうしてもわからん!!」

そういうとYさんはグビリとぬるくなった生ビールを飲みほしたのでした。

親を見送ったということは、子の方も先が見えている。その年になっていさかいをするともう元には戻らないんだよね。そもそも、元から歯車がズレていたらなおのことよ。

オバ記者
何か言いたくなる人とは例えきょうだいでも会わないのが一番(写真は母ちゃんのお墓)
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だからきょうだいでも他人でもそう。言いたいことがある人とは会わない。会うからイヤなことを言うんだから。そんなわけで60過ぎたら口から出していいのはお花だけ。毒虫なんか出しちゃだめよと、私は自分に言い聞かせているの。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

オバ記者イラスト
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1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。

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