近年、うさぎやハムスターなどの小型ほ乳類がペットとして人気。見た目がかわいらしい上に、犬や猫ほどには飼育の負担が大きくないという要素も歓迎されているそう。このような小動物を飼うとき、飼い主さんはどのようなことに気を付けるといいのだろうか。獣医師の内山莉音さんに聞いた。
うさぎやハムスターを”家族”にする人が増えている
ペット保険を手掛けるアニコム損保によれば、同社の保険に加入しているうさぎの数は、2008年から2015年までは2000~3000頭ほどで横ばいだったものの、2016年以降は急増し、2020年には2万頭を超えた。
ハムスターも2017年度(2017年3月~2018年4月)の新規加入が約1600頭だったのに対し、2021年度は約1万5000頭に。フェレットも2013年度の約1800頭から、2021年度は約7500頭まで増えた。
もちろん、保険契約数の増減は飼育頭数の増減と完全に一致するわけではないが、小動物と家族のように暮らす人が増えている傾向が見て取れる。
「見た目やしぐさがかわいらしいので、飼いたくなる人も多いと思いますし、飼育スペースが小さくて済み、鳴き声が小さい(または基本的に鳴かない)、散歩が必要ないといった要素も飼い主さんからすると魅力なのでしょうね」と内山さん。
日本全国で、マンションやアパートなどの共同住宅は1988年から2018年の30年間で2倍になり、特に都内では総住宅数の7割以上が共同住宅になっている 。このような住環境も、小動物がペットに選ばれやすくなる背景かもしれない。
飼う前に知っておきたい飼育費用や寿命のこと
ただし、犬や猫に比べて飼育の負担が小さいことは、比較問題でしかないことに注意が必要だ。
「小さくても生き物です。飼うとなれば責任が伴います。ペットをペットショップから購入して家庭に迎える場合、うさぎやハムスターは犬や猫に比べれば高価でないので、油断というか誤解が生まれやすいのかもしれません。ですが、お金のことを取ってみても、いわゆるエキゾチックアニマル(犬猫以外でペットとして飼育される動物)の飼育費用は犬や猫と比べてケタ違いに安いわけではありません」(内山さん・以下同)
『アニコム家庭どうぶつ白書 2023』によれば、うさぎにかかる年間支出は平均で約14万3600円、フェレットは約15万7700円。犬は約35万7300円、猫は約16万600円だ。
「フードがお安くはないですし、エキゾチックアニマルは相対的に体温を調節する力が弱いので、室温の調節にかかる光熱費がかさむはずです。ペットを飼うことによる光熱費の追加分が、犬や猫よりうさぎのほうが高額というデータもあります」
また、うさぎの平均寿命は7.9歳、フェレットが約5.7歳、ハムスターは2.0歳となっていて、同じ小型ほ乳類でも大きく異なる。ペットのことを優先して生活する日々を、自分や同居の家族が何年続けられるのか、飼う前に考えたり覚悟したりする必要がある。
診療してくれる動物病院を確保
健康維持や医療の面でも、小型ほ乳類を飼うときには気を付けるべきことがある。
「まず何より、診てくれる動物病院を見つけておかなければいけません。犬猫だけを診療対象にしている獣医師、動物病院も少なくないので、自宅から連れて行ける場所に動物病院があるかどうかはもちろん、その病院が自分の飼いたい動物を診てくれるかどうかまで確認する必要があります」
全国に保険対応の動物病院が約6900あり、そのうち、うさぎを診療対象にしている病院は6割。フェレットは4割強、ハムスターは2割ほどにとどまり、モモンガやテグーになると1割を切る。
「また、エキゾチックアニマルの多くは自然界では中・大型の動物に捕食される側の動物で、こういう動物は弱みを隠す習性があります。どこか痛いところがあったり、具合が悪かったりしても、なるべくそれを悟られないようにする子が多いようなんです」
様子の変化に飼い主さんが気づいて病院へ連れて行くと、病気がかなり進行していたというケースが多いのだとか。日頃から、例えばうさぎなら爪切りを動物病院にお願いするなどして、かかりつけ医をつくっておくことが大切だ。
「1~2か月に1回程度、動物病院に通っていれば、飼い主さんもちょっと気になっていることを獣医師に相談しやすいでしょうし、獣医師のほうで様子の変化に気づけるかもしれません。もちろん、聴診や採血も含めた健康診断をお願いするのもいいですね」
甘く見てはいけない、うさぎに多い消化器疾患
また、飼いたい動物のかかりやすい病気もなるべく知っておくと、いざというときに判断を迷わずに済む。
例えば、うさぎの場合は消化器系の疾患で病院にかかることが多く、その代表例が胃腸うっ滞といって、胃腸の働きがなんらかの原因で悪くなる病気だ。うさぎは何も食べられない状態が1日続くと、それだけで内臓に深刻なダメージを負うとされているので、早めに治療を始める必要がある。食欲不振やうんちの量が少ない、小さい、お腹が張っているなどの変化があれば、動物病院を受診しよう。
「うさぎの場合は、熱中症にも注意が必要で、室温は常に18~24度に保たなければいけません。また骨折が多いのもうさぎの特徴ですね。別の病気で連れて来られた子が、動物病院の廊下でふとしたきっかけで骨折したという例も聞いたことがあります。飼い主さんが『今、ペキッと音がして……』と。
うさぎは、どこかから落ちた場合、それが30cm程度の高さでも骨折することがあるといいますし、どこかに爪が引っかかるとそれで足が引っ張られて骨折することもあります。環境整備や飼い主さんの注意が大切です」
フェレットの場合は、消化器疾患と並んで内分泌疾患が多く、副腎腫瘍が好発することが知られている。副腎が腫瘍化すると、脱毛や痒み、腹部の膨満、多飲多尿、貧血、体重減少などの症状を引き起こす。
「犬や猫以外の動物は、総じて犬や猫ほどケガや病気のデータが蓄積されていないので、何かあれば甘く見ないほうがいいですね。下痢、脱毛、食欲不振など、病気の初期症状として現れがちなものをとにかく見逃さないで、早めに病院にかかるようにしましょう。ペットをひとたび家族に迎えたら、私たちは少しでも長く楽しく一緒にいられるように、最大限努力しなければいけません。それは犬でも猫でも、うさぎでもハムスターでも変わらないことです」
◆教えてくれたのは:獣医師・内山莉音さん
獣医師。日本獣医生命科学大学卒業(獣医内科学研究室)。動物病院を経て、アニコム損害保険(株)に勤務。現在もアニコムグループの動物病院で臨床に携わる。
取材・文/赤坂麻実