健康・医療

【子宮頸がんのシン・常識】新たな検診方法の導入で負担軽減の見込み 妊娠や出産への影響をカバーする最新治療も登場

妊婦と医師が話しているイメージ写真
子宮頸がんの罹患に伴う妊娠や出産への影響をカバーする最新治療も(Ph/イメージマート)
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2人に1人がかかるがんは、身近な病気のひとつであり、女性だけが罹患するものや男性よりリスクが高いものも多い。もしものときに備えるため、いま女性が知っておくべきがんのシン・常識を公開する。【全3回の第1回】

接種率が伸び悩む子宮頸がん予防のHPVワクチン

「キャッチアップ接種は今年度末まで」──いま、厚生労働省は子宮頸がん予防のHPVワクチンの接種機会を逃した1997~2007年度生まれの女性に、接種してもらうよう積極的に呼びかけている。

HPVワクチンは接種後に健康被害が出たケースがあったことなどから、日本では2013~2021年まで積極的な接種勧奨は控えられていた。しかしその後、安全性の再評価や接種後のフォローアップの体制が整ったことで、2022年度から再開し、公費で接種できるようになった。

「それでも接種率は伸び菜悩んでいる」

そう話すのは、国立がん研究センターがん対策情報センター本部副本部長の若尾文彦さんだ。

腕を出している人の腕と注射器を持つ医師の手元
20才までにワクチンを接種すれば罹患率が低下する(Ph/イメージマート)
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「子宮頸がんの主な原因はHPVウイルスです。20代後半から罹患者が増えますが、20才までにワクチンを接種すれば罹患率が低下することがわかっています。接種率が高い欧米では罹患者数が大幅に減少していますが、接種率が10%台の日本ではほとんど減っていません。

『キャッチアップ接種』の期限は来年3月までですが、全3回の接種を終えるには約半年かかるので、1回目は9月までに受ける必要がある。しかしいまだに未接種の対象者が非常に多いのが現状です」(若尾さん・以下同)

このようにがんの情報は日々アップデートされており、知らないままでいることは罹患リスクを上げることに直結する。しかし一方で、誤った情報も氾濫していると若尾さんは続ける。

女性がなりやすいがんを示した表
出典/国立研究開発法人国立がん研究センター「がん情報サービス」
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「検索エンジンでがんの情報を調べても、科学的根拠に基づいた結果は全体の約1割しか出てこないうえ、正しくない情報ほど広告記事として上位に表示されやすい。情報の取捨選択には、注意してほしい」

医学は日進月歩。いざというときのために、女性がかかりやすいがんに関する正しくて新しい情報を専門家に総力取材した。

子宮を温存する唯一の方法

まずおさえておきたいのは婦人科系のがんの知識だ。子宮頸がんは、4月から新たな検診方法が加わり、今後検診の負担が軽減される可能性が高い。若尾さんが言う。

「厚労省は30~60才の女性を対象に『HPV検査単独法』を新たに導入可能としました」

現在行われている子宮頸がん検診は20才以上の女性を対象に2年に1回、子宮頸部の細胞を採取して、「がんの疑いがあるかどうか」を検査し、「がんの疑いあり(要検査)」と判定された場合、精密検査を受けることになる。一方、HPV検査単独法は、細胞に「HPVウイルスが存在するかどうか」を確認できるため早期発見に有用だとされる。

「HPVウイルス陽性の場合、これまでの子宮頸がん検診と同様の検査を行いますが、陰性なら5年後の検診となるので受診間隔が空いて負担が軽くなります。まだほとんどの自治体(市区町村)で導入されていませんが、いずれは検診方法を選択できるようになるでしょう」

検診と同様、治療においても選択肢が拡大。特に子宮頸がんは罹患に伴う妊娠や出産への影響が懸念されてきたが、近年それをカバーできる最新治療が生まれている。

「誰でも受けられるものではない」と前置きしたうえで、山王ウィメンズ&キッズクリニック大森院長の高橋怜奈さんはこう言う。

「子宮の全摘が必要な場合でも、初期の子宮頸がんであれば『トラケレクトミー(広汎子宮頸部摘出術)』という術式で行えば子宮頸部だけを摘出し、子宮を温存することができます。治療中の妊娠・出産は難しいので、事前に卵子を凍結して保存しておく方法もあります」

若尾さんが続ける。

「がんの治療として手術を第一選択と考える人は多いですが、子宮頸がんには放射線治療も有効で、早期では手術と同等の効果があることがわかっています。また放射線というと体の外側から照射するイメージですが、がんの状況によっては、腟に放射線を出す物質を一時的に入れ、局所的にがんの近くから高い線量で集中的に照射できるので、正常な細胞へのダメージを極力避けられる。日本では海外ほど広まっていませんが、早期の子宮頸がんでは放射線が第一選択の治療に含まれています」

卵巣がんの分野では、「根治にはおよばないものの、再発や進行を抑える薬が登場している」と話すのは、医療経済ジャーナリストの室井一辰さんだ。

「これまでの卵巣がんの治療といえば手術と抗がん剤の併用がメインでしたが、2018年に分子標的薬『PARP阻害薬』が登場したことで大きく変わりました。がん細胞の生存に欠かせない『PARPタンパク』の働きを阻害し、がん細胞の増殖を抑制する薬で、特定の遺伝子変異があるがん細胞に対して効果的に作用することが期待されています」(室井さん)

(第2回へ続く)

※女性セブン2024年8月8・15日号

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