身近な病気であるがんのなかには、女性だけが罹患するもの、女性のほうが男性よりリスクが高いものも多い。そこで、もしもの時のために、女性が知っておくべきがんのシン・常識を紹介する。【全3回の第2回。第1回を読む】
イギリスが推奨しない薬
女性の罹患数トップの乳がんは、定期的に検診を受けて早期発見することが治療の要だとされる。一方で、受けすぎると「治療の必要のないがん」まで見つかり、過剰医療につながるという指摘もある。しかし、そうした批判は時代遅れになりつつあると、医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが説明する。
「厚労省は40才から2年に1回、乳房X線検査(マンモグラフィ)の受診を推奨していますが、アメリカでは最近、2年に1回どころか毎年受けた方がいいという意見が主流になってきています。また今年3月、医学紙『メディカルトリビューン』に40~79才の間に年1回のマンモグラフィを受けた人は、乳がんによる死亡リスクが40%低下したという論文が掲載されました」
新たな知見や科学的根拠によって、検診内容が変化するのは当然のこと。医師による乳房視触診は、有効性が不明だという理由で、国立がん研究センター中央病院などでは昨年6月から廃止されている。国立がん研究センターがん対策情報センター本部副本部長の若尾文彦さんが言う。
「セルフチェックも、近年はしこりを探す『自己触診』ではなく、日頃から乳房を見て触ってその状態に関心を持つ『ブレスト・アウェアネス(乳房を意識する生活習慣)』が大事だという流れになっています」
がん検診にAI技術を利用する研究も進んでいる。今年6月、がん研有明病院は、Googleと共同でAIを活用したスクリーニングシステムを用いることで、画像診断での乳がん検出精度が7.6%上昇したと発表した。人の手による画像診断の「見落とし」を防ぐためにも、早期実現が期待される。精度が上がっているのは治療も同様で、室井さんは個人のがん細胞のタイプに合わせた“オーダーメード医療”も夢ではないと話す。
「2023年9月から遺伝子検査の一種『オンコタイプDX』が公的医療保険の適用となりました。乳がん細胞の特性を遺伝子レベルで検査し、個人によって大きく異なる再発の可能性や化学療法の効き目がどのくらいあるかなどを可視化できるため、効果的に治療を受けることができます」(室井さん・以下同)
新薬の開発も日新月歩
「今年1月には、難治性の『トリプルネガティブ』タイプの乳がんに効果のある新薬『トロデルヴィ』が、厚労省に承認申請されました。すでに欧米など世界40か国で乳がん治療薬として承認されており、国内での承認が待たれます」
ただし、新薬であれば手放しに受け入れるべきと考えるのは早計だ。
「2020年に承認されたHER2陽性タイプの乳がんに有効な『エンハーツ』は一定の効果はありますが、進行乳がんの患者に対しては費用対効果が小さいという理由で、イギリスは推奨しないと発表しています」
治療後のQOLも視野に入れた医療も研究が進む。とりわけ乳がん特有の悩みとして大きいのは、乳房を傷つけることのつらさだ。
「昨年12月から保険適用された『ラジオ波焼灼療法(RFA)』は、細い針状の電極を腫瘍に差し込んで電流を流し、発生する熱で焼き切るというもの。腫瘍の大きさが1.5cm以下、転移がないことなど条件がありますが、乳房を切除せずに済み、体への負担が少ないのがメリットです。
切除手術が必要な場合でも、腫瘍部分だけを取る『部分切除術(温存手術)』が一般的になり、再建する際も保険適用の幅が広がった。人工物による再建や自分の体の一部(自家組織)による再建など複数の方法があり、より美しく乳房を再建できます」
(第3回へ続く。第1回を読む)
※女性セブン2024年8月8・15日号