がんのなかには、“女性しか罹患しないがん”や“女性が罹患しやすいがん”がある。もしものときに備えるため、女性が知っておくべきがんのシン・常識を紹介する。【全3回の第3回。第1回から読む】
90才でも手術は受ける
大腸がんに罹患する人は増加傾向にあり、女性の部位別罹患者数では乳がんに次いで2位、死亡者数ではトップだ。増えている理由は、生活習慣の変化にあると東邦大学大学院消化器外科学教授の島田英昭さんは言う。
「男女問わず生活が欧米化し、脂肪の多い食事やアルコールの摂取量が増えていることが影響していると考えられます」
乳がんと同じく、検査で早期発見できるので、検診は絶対に受けるべし。厚労省がすすめるのは毎年の便潜血検査だが、最新の見解では大腸内視鏡検査も受けた方が安心だという。
「大腸がんは胃がんなどに比べて自覚症状が出にくく、初期の段階で見つけるのが難しい。便潜血検査だけでは見落とされることがあるので、50才以降に最低1回は大腸内視鏡検査を受けて、ポリープの有無など腸の状態をチェックしておくといいでしょう」(島田さん・以下同)
もし大腸がんが発見されたとしても、正しい治療法を知っていれば過度な心配は無用だ。また、大腸がんというと人工肛門になるイメージがあるが、医学の進歩によってそれは過去のものになりつつある。
「そもそも大腸がんには大きく分けて結腸がんと直腸がんがあり、罹患率でいえば直腸がんが全体の3~4割、残りが結腸がんです。人工肛門になる可能性があるのは、肛門近くの直腸にがんができて肛門括約筋を温存できないときだけなので、確率的には低い。
加えて、手術支援ロボット『ダヴィンチ』の登場でより精密な手術が可能になり、肛門括約筋を上手に温存できるようになった。人工肛門になる人の割合は明らかに低下しています」
大腸がんの治療においてこの10年で最も変わったのは、直腸がんの腹腔鏡下手術が一般化したことだと島田さんは続ける。
「腹腔鏡下手術は約1cmの傷をお腹に5か所ほどつけて、そこから腹腔鏡という細長いカメラを入れてモニターを見ながら行います。ほぼ標準治療となっており、多くの施設で日常的に行われていて安全性も高い。従来の方法よりも傷が小さいため痛みも少なく、数日で退院できるのが大きなメリット。早期で見つかれば手術をするまでもなく、内視鏡だけで切除するケースも増えています」
手術をするかしないか、またするならばいつするかといった境界線も変わりつつある。直腸がんの治療成績を上げるために、術前の放射線治療と化学療法で腫瘍を小さくする方法が世界的に広く行われている。このとき、腫瘍が消えれば手術をしないで慎重に経過観察する「ウォッチアンドウェイト療法」が導入されつつあるという。
「放射線と化学療法だけで、肉眼上はがんが消えることはよくあります。ただし、実際は目に見えないがんが残っていることがあるので、定期的にCTや内視鏡検査を行い、5年経過観察して何もなければ治療終了となります。現時点では、日本人における治療成績が充分に報告されていないためあまり行われていませんが、今後は増えていくでしょう」
早期発見が望ましいとはいえ、進行して見つかってもあきらめないでほしいと話すのは、国立がん研究センターがん対策情報センター本部副本部長の若尾文彦さんだ。
「肝臓への転移があるとステージ4と診断されます。ほかのがんで肝臓に転移した場合、手術は行えませんが大腸がんは転移した場合でも、状況によっては手術で取ることができる」
がんは高齢になると治療しない方がいいというのも時代遅れの情報。高齢者への治療も積極的に行われている。
「同じ80才でも昔といまでは大きく違う。平均寿命が延びて、高齢者の全身状態は昔よりよくなっているので90代であっても治療をしないのはもったいない。特に大腸がんは抗がん剤も効きやすいし、後遺症も少なく、治りやすいので治療自体を恐れることはない。結腸がんの手術も比較的簡単なので、90才であったとしても手術を回避することはありません」(島田さん・以下同)
副作用の少ない抗がん剤が多い
医学の進歩で生存率が改善し、治療や検査に伴う負担も軽減されつつある一方、全体的な女性のがんの罹患リスクは年を追うごとに高くなっているという。
「大きな理由は女性のライフスタイルが変わったこと。飲酒や喫煙はリスクを高めます。昔は飲酒や喫煙する人も明らかに男性の方が多かったので、男性ががんになるリスクが高かったですが、女性もお酒を飲む機会や喫煙者が増え、“なりやすさ”でいえば男女差が少なくなっています」
実際に国立がん研究センターと国立成育医療研究センターの調査では、15~39才のAYA世代のがん患者数は、女性の割合が7割を超えることもわかっている。若尾さんが説明する。
「乳がん、子宮頸がんは若い人でもかかりやすいので、20代から50代前半までをみると男性に比べて女性の比率が高くなります。若い女性は仕事だけでなく妊娠や出産などにも影響してくるので、ライフステージに応じた支援が必要です。がんはいまだに不治の病と思われがちですが、そんなことはありません。2009~2011年のがん全体の5年生存率をみると、64.1%と高い。女性に限っては、さらに高く約67%です」
医療経済ジャーナリストの室井一辰さんも「選択肢は時代とともに広がり続けている」と声をそろえる。
「検診で早期発見しやすくなり、新たな治療法も開発されています。進行がんなら治療法がないという時代もありましたが、いまは外科手術以外に放射線治療や化学療法も充実している。完治できなくても、治療を続けながらがんと共存し、5年10年と生活を送れるようになってきています」(室井さん)
治療そのものの進歩に比例して、日常生活への影響も少なくなりつつある。山王ウィメンズ&キッズクリニック大森院長の高橋怜奈さんが言う。
「コロナ禍でリモートワークが進んだことも後押しして、がんと診断されても8割の人が仕事を続けています。いまは副作用の少ない抗がん剤も多く、制吐剤などをあらかじめ投与することが主流です。さらに化学療法を入院ではなく日帰りで受けるかたが多いです」(高橋さん・以下同)
治療に伴う外見の変化についても、ケアの方法が確立されつつある。脱毛の対策としては特殊なキャップで頭部を冷やし、脱毛を軽減する「頭皮冷却療法」という方法もある。
「抗がん剤で髪が抜けても、治療が終わればまた生えてきます。髪の毛が抜けない抗がん剤もあるのでひとりで悩まず、主治医や薬剤師に相談してみてください」
精査したうえで効果と副作用、メリットとデメリットをよく考えて、自分に合うがんとのつきあい方を考えたい。
(了。第1回から読む)
※女性セブン2024年8月8・15日号