暑い季節には特に気になる「イヤ〜なにおい」。他人のにおいが気になる一方、「自分もにおっていたらどうしよう」と心の中で思った人もいるだろう。そんな体臭を防ぐにはどうすればいいのか。効果的な対策を紹介する【前後編の後編。前編を読む】
ビフィズス菌が疲労臭を抑える
疲れによって発生する疲労臭や体臭を予防、改善するためにできることはなにか。まず大切なのが運動習慣だ。たいや内科クリニック院長の加藤大也さんが解説する。
「適度な運動を日常的に行い汗をかいて老廃物を排出することが、体臭を抑えることにつながります。おすすめは有酸素運動やヨガ。ストレス解消やリラックス効果も得られる。運動後は汗をきちんと洗い流してください」
定期的に汗をかく習慣があると、汗のにおいが無臭になると加藤さんは続ける。
「汗腺が正常に機能し、汗の成分がサラサラした無臭のものが多くなります。逆に運動不足で汗腺の機能が低下していると、汗が皮膚表面に長時間たまりやすくなって細菌が繁殖してにおいを発生させやすくなる」
日々の食事でなにを食べるかも体臭に大きな影響を与える。
「肉などに多く含まれる動物性脂肪の多い食事は皮脂分泌を増加させ、皮脂が酸化することで強い体臭を発生させることにつながります。野菜や果物、発酵食品を中心とした食生活にすることで、腸内環境を整えて体臭を抑える効果があります」
東海大学理学部化学科教授の関根嘉香さんは、腸内環境を整えることは疲労臭対策にもなると話す。
「前述の通り、疲労臭は体の内側から改善していくことが求められるので、食事はとても重要です。善玉菌を増やすことで、皮膚からのアンモニア放出を抑えることができて疲労臭が軽減される。善玉菌にもいろいろな種類がありますが、ヨーグルトなどに含まれるビフィズス菌が体内で増えることで、アンモニアを産生する悪玉菌の働きを抑制するといわれています。
肉や魚といった動物性たんぱく質はアンモニアの発生源となり、アルコールはアンモニアを分解する肝臓に負担をかけることがあるので、どちらも摂りすぎない方がいい」
一方で、肉をまったく避けることはかえって逆効果になるという。
「肉には体の機能を維持するために必要なたんぱく質やビタミンB群、鉄分が豊富に含まれており、これらの栄養素が不足すると代謝や免疫力が低下して、むしろ体臭が強くなることがあります。あくまでもバランスの取れた食事が大切です」(加藤さん)
体を洗うときはにおいが出やすい後頭部や背中に注意
汗をかきやすいこの時期、汗のケアもにおい軽減には必須だが、やり方を間違えると悲惨なことになる。
「汗を放置すると皮膚の表面にいる常在菌が汗の中の成分を食べて分解し、においのもとになる皮膚ガスを発生させます。ただし、乾いたタオルで拭くのはあまりよくない。そもそも汗は体を冷やすためにかくもので、水分が水蒸気になるときに熱を奪って体の表面を冷やします。まだ体が熱いときに汗を拭いて表面を乾かしてしまうと水分を欲してまた汗をかいてしまう。濡れたタオルやウエットシートなどで拭いて表面の水分を保つといいでしょう」(関根さん・以下同)
毎日のお風呂を欠かさないことも、におい対策では常識。汗を洗い流すことだけでなく、リラックス効果を得るためシャワーよりも湯船につかる習慣をつけよう。その際、体の洗い方にも気をつけたい。
「ごしごし洗ってしまうと体の表面を守ってくれる皮脂も落としてしまって分泌が過剰に増え、においの原因になります。場合によっては体臭が強くなってしまうケースもある。
一方、後頭部や背中は洗い残しが多い場所かつ、においが強く出やすいところ。頭部は皮脂のにおいが強いですし、加齢臭は背中から出ています。丁寧にしっかり洗ってください」
制汗剤は汗をかいた直後はNG
汗対策として制汗剤を携帯する人も多いが、これも正しく使わなければ効果は半減どころかマイナスに。
「汗をかいた直後に使用すると、汗と混ざって強烈なにおいになることがあり、汗で湿った肌では効果が薄れます。また、過度な使用は汗腺をふさいでしまう。すると、老廃物が排出されにくくなり体臭の原因になることもあるのです。香水も同様です。どちらも体臭を根本から消すものではないことを肝に銘じてください」(加藤さん・以下同)
衣服の選択も、においの増減にかかわると加藤さんは続ける。
「通気性が悪い合成繊維の衣類を着用すると、汗がこもって細菌が繁殖しやすくなり、体臭が強くなる可能性があります。また、締め付けの強い衣服は血流を妨げ、汗腺の機能を低下させることがある。
特に夏は、天然素材の衣類や、吸湿性・通気性に優れた素材を選び、自分に合ったサイズの服を着ることが予防に効果的です」
生活や食事で効果がのぞめないときは、医療に頼るという手もあるだろう。
「美容医療では、汗腺の活動を抑えるボトックス注射以外にアポクリン汗腺を除去する手術もあり、根本的に体臭が改善できる。特に腋臭症(わきが)の患者に対して行われていて、永久的な効果が期待されます。内服薬として、汗の分泌を抑えるために抗コリン剤が使用されることもありますが、副作用もあるため、医師の指導のもと慎重に判断してください」
皮膚ガス検査でがんがわかる
周囲に不快感を与えると忌み嫌われる体臭や疲労臭だが、「医療や科学の発達に伴い、体臭は生体情報として必要なもの」だと言うのは関根さんだ。
「紀元前から、体臭や呼気で病気を診断するという概念は存在していました。現代ではそういった技術はまだ確立されていませんが、皮膚ガスという観点で見ると明らかに病気が反映されているパターンがある。
たとえばすい臓がんの患者さんと、そうでない人の皮膚ガスは明らかに異なります。つまり、がんかどうかは皮膚ガス検査をすれば判別できるようになってきている。肝臓疾患の患者さんからはアンモニアが過剰に出るのですが、これも血液中の量を調べるより皮膚から出てくる量を調べた方が、鋭敏にその状態を把握できます」
加藤さんも続ける。
「糖尿病、肝硬変などの肝臓疾患、腎臓疾患などはそれぞれ特有のにおいがあり、汗や呼気に特有のにおいを感じるケースもあります。体臭に急激な変化を感じたら医療機関に相談してみるといいですね」
体臭や疲労臭をケアすることはマナーである一方、過剰に気にしすぎることは余計なストレスになることを心にとどめておきたい。
「一度気になると、くさいんじゃないかと思い込んでしまう人は少なくありません。でも、体臭は生きている証であり、情報として活用できる。エチケットは大切にしながら、上手につきあってほしいです」(関根さん)
自分も周囲も心地よく過ごせるよう、できることから始めよう。
※女性セブン2024年9月12日号