「これはさすがに効きすぎ」「最後の手段だ」──これまでに数え切れないほどのダイエット法が時代ごとに流行してきたが、いま、人気を見せているのが、「運動なし」「食事制限なし」の痩身術だ。常に美しさを求められる女優たちの間では、すでに実践者が少なくないようだが、その「やせるメカニズム」とリスク、問題点とは? 医師たちに取材した。
「運動なし」で2か月半で6kgやせたケース
芸能人たちがこぞって使っているとされる“ホルモン注射”とは、正式には「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれる糖尿病治療薬の注射だ。美容クリニックでは「GLP-1ダイエット」などの名称でメニューに掲げていることが多い。
「ダイエット先進国のアメリカで急速に普及している」と話すのは、米ボストンから「GLP-1ダイエット」のカウンセリングを行う内科医の大西睦子さん。
「アメリカでは実業家のイーロン・マスク氏(53才)や人気女性司会者のオプラ・ウィンフリーさん(70才)らがGLP-1の使用を公表しています」(大西さん)
ファッション誌にも頻繁に登場するモデルのAさん(40才・東京都在住)は、GLP-1ダイエットで「運動なしで2か月半で6kgやせた」と明かす。
「夏は体のラインが出る服の撮影が続くので、毎年体を絞るのに苦労していました。今年は友人のすすめでこの注射を処方してもらったら、打った数日後から自然に食欲がなくなり、1人前の食事が食べられなくなった。それでも満足感は充分にあるんです。
おやつなんてもってのほかで、午後3時に友人とのつきあいでケーキを食べたら、夕飯が全然食べられなくなる。“ちょっとやせすぎたかも”と思うほど効果抜群でした」(モデルAさん)
週に1回注射を打つだけ
なぜこれほどの効果があるのか。東京・銀座にあるGクリニック院長の三島雅辰さんが、そのメカニズムを説明する。
「GLP-1は消化管ホルモンの一種で、すい臓に作用して血糖値を下げるインスリンの分泌を促進します。また、腸管からの糖の吸収を妨げる働きもあるため、体脂肪をつきにくくします。さらには、胃腸や脳にも働きかけて満腹感を感じさせ、食欲を抑制する作用があるので、大きなダイエット効果が生まれます」(三島さん)
GLP-1には注射タイプ以外に、経口タイプもある。経口タイプには「リベルサス」、注射タイプには「オゼンピック」「ビクトーザ」(別名サクセンダ)など、数種類の薬が存在する。
「なかでも芸能人の間で人気なのが、昨年4月に販売が始まった最新の『マンジャロ』という皮下注射タイプの薬。週に1回、好きなときに自分で注射するだけで効果があるので、忙しくて生活が不規則になりがちな彼らにはうってつけなのでしょう」(芸能関係者)
自由診療のため費用はクリニックによってまちまちだが、「マンジャロ」の場合、有効成分が2.5mmのタイプで1か月2万円ほどだという。
「自分で注射するのが苦手という人は、経口タイプのリベルサスを1日1回服用するなど、最終的には個人に合わせた薬を処方することになります」(前出・大西さん)
ダイエットにおける最大の壁である空腹感を感じずに、10kgやせも叶う“魔法のクスリ”となれば、チャレンジしたいと思う人も少なくないだろう。
吐き気、下痢、便秘などの副作用
しかし薬である以上、副作用を伴う可能性があることを忘れてはならない。
「最も多いのは吐き気で、薬を初めて使用した約50%の人が吐き気を経験したという報告があります。また、下痢、便秘など胃腸に関係する副作用が起こりやすいともいわれています。稀ですが、すい炎や胆のう炎、腸閉塞など、より深刻な副作用を伴うケースもあります」(前出・大西さん)
さらには美容面での副作用に悩まされる人もいるようだ。
「GLP-1ダイエットで体重を落とすと、短期間で一気にやせるためなのか、肌のハリがなくなり、皮膚にたるみができて、顔がクシャッとしわっぽくなってしまっている人をよく見ます」(ヘアメイク関係者)
さらに、そうした副作用のほかに、社会的な問題点を指摘する声もある。
「そもそもGLP-1は、糖尿病の治療薬として開発されたもの。その薬に食欲抑制という“副作用”があり、それがダイエットに効果があるということで注目を浴びた経緯があります。糖尿病でない人がダイエット目的で使うのは好ましくないという意見を持つ人もいます」(前出・三島さん)
現在、GLP-1の世界的な供給不足が続いており、糖尿病に悩む人など「届くべきところに届かない」という問題も生まれている。
一方、体重を落としにくくなったシニア女性にとって、このGLP-1が希望の星になる可能性もあるという。
「40代以降、特に50代になると女性ホルモンの分泌が減り、脂肪がつきやすくなります。血糖値の急激な上昇を抑え、脂肪を蓄えにくくし、食欲を抑えるGLP-1の作用は、50才以上のシニア層にとってもうってつけだといえます」(前出・三島さん)
※女性セブン2024年9月12日号