健康・医療

秋は「肺」に負担がかかる季節 肺を守る習慣や取り入れたい食べ物を漢方医学から学ぶ

胸に手を当てる女性
秋は肺の健康に注意!
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秋は過ごしやすい気候だが、気温の低下や空気の乾燥などによって体調を崩しやすい時期でもある。そんな秋を健やかに過ごすために薬剤師の山形ゆかりさんから、秋の養生に取り入れたい食べ物と漢方薬について教えてもらった。

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漢方医学において「肺」に負担がかかる秋

漢方医学における「肺」は単なる呼吸器官ではなく、呼吸と全身の気(エネルギー)をつかさどり、体に潤いを与えるという重要な役割を担っています。

秋は「燥(そう)」の季節であり、空気の乾燥が強まり「肺」を痛めやすい季節だと漢方医学では考えます。

秋に鼻づまりや咳、のどの痛み、肌のかゆみ、かさつきなどのトラブルが生じやすくなるのは、秋特有の気温低下や乾燥によって「肺」がダメージを受けるためです。これらの不調をもたらす要因を、漢方医学では「燥邪(そうじゃ)」と呼び、燥邪に侵されると口や鼻の乾燥による炎症や、呼吸機能や免疫機能の低下などを招きます。

紅葉した葉
空気の乾燥が強まり、日照時間が短くなることも影響
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また、漢方医学では肺は悲しみや孤独感などの感情もつかさどるとされています。秋になると夏よりも日照時間が減り、寒暖差が激しくなることから、物悲しさや憂鬱さを感じやすくなり、こうしたネガティブな感情は気を消耗させて肺に負担をかけるのです。さらに、自律神経のバランスを崩し、内臓の機能の低下などを引き起こすことで、気の不足や巡りの悪化にもつながります。

自然の変化に寄り添いながら心身のバランスを整えるために、季節に合わせた養生法を取り入れることで、秋特有の体調変化にも対応しやすくなります。

「肺」を守る秋の過ごし方

秋を健康に過ごすためには、水分補給、加湿、呼吸、早寝早起き、運動、食事の6つのポイントを意識した、肺をいたわる生活を送りましょう。

乾燥を予防する

燥邪を防ぐには、体の表面を保護して外から邪気が入らないようにすることが大切です。そのため、空気の通り道であるのどへの刺激を避けつつ乾燥を予防しましょう。

秋は夏に比べて汗をかくことは減っても、呼吸などによって気づかないうちに水分は失われています。のどの渇きを感じる前にこまめに水分補給をしましょう。ただし、冷たい飲み物はのどを刺激するため、常温や温かい飲み物がおすすめです。

また、のどの粘膜を守るために加湿器で部屋の湿度を50~60%に保って室内の乾燥を防いだり、口呼吸を避けて鼻呼吸を意識したりすることも大切です。

さらに、深呼吸をくりかえすと、副交感神経が優位になることで自律神経のバランスが整い、秋特有のメンタル不調に対処できます。

グラスに水を注いでいる
水分補給など、乾燥対策を
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早寝早起きで「気」の巡りをよくする

中国最古の医学書と呼ばれ、漢方医学の根本となる『黄帝内経(こうていだいけい)』という古典では「秋はニワトリの寝起きのように早寝早起きをするとよい」とされています。これは、寝過ぎると気の巡りが悪くなることから、早寝早起きをする規則正しい生活が推奨されているということです。

秋は、夏の暑さなどによって気を消耗したことによる疲れが出やすくなります。適度な睡眠で気を回復し、巡りを整えることで不調の解消や予防につながります。

適度な運動で体を温める

さらに、適度な運動には体が温まり血行が促進され、自律神経を整える効果もあります。激しい運動は気を過度に消費してしまうため、ウォーキングやストレッチなどの運動をむりなく取り入れてみましょう。

食事面での養生法については、次に解説します。

秋の食養生にとり入れたい食材

食養生では体質や症状などにあわせた食材を取り入れることが大切です。旬の食材には、その季節ごとに起こりやすい不調に効果的なものが豊富にあります。とくに取り入れたい、白い食材と気を補う食材について漢方医学の観点で紹介します。

白い食材

漢方医学では、色の白い食材は体に潤いを与えるものが多いといわれています。たとえば、れんこんやかぶ、白ごま、梨、白きくらげ、ゆり根などが秋の白い食材の代表例です。

れんこんは免疫機能を高めるビタミンCを多く含むので、燥邪による免疫機能の低下予防としても取り入れたい食材です。

かぶは消化を助ける消化酵素を豊富に含み、夏バテした胃腸の調子を整えることで、不足した気を補います。

また、漢方医学では肺は皮膚ともつながっていると考えられているため、肌の乾燥防止には肺を潤して皮膚の乾燥を防ぐ効果が期待できる白ごまが効果的です。

和梨
秋が旬のなしもおすすめ
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梨には肺を潤し乾燥を防ぐ「潤肺(じゅんぱい)」という働きがあります。水分が豊富なため直接のどを潤します。冷え症気味な人はコンポートなど加熱調理することで、体の熱を冷ます作用を抑えることができます。

白きくらげも潤肺効果が高い食べ物で、ビタミンやミネラルが豊富なゆり根と一緒にスープにするのもおすすめです。

これらの食材を日々の食事に取り入れることが、呼吸器や肌の状態を維持することにつながります。のどを刺激しないよう、スープや煮物など、温かい料理にして食べるのがおすすめです。

気を補う食材

秋は、夏の間に消耗した気を補う食材を意識的に摂取して、体力や気力を高めましょう。

気(エネルギー)を補う食材としては、しいたけやさつまいも、山芋などが挙げられます。しいたけはビタミンD、ビタミンB群が豊富で、疲労回復におすすめです。乾燥させると、水分が抜けるため、グラムあたりの栄養価が高まります。

さつまいもは食物繊維やビタミンC、カリウムをたっぷり含み、腸内環境を整えたり、むくみを解消したりする働きが期待できます。山芋は、消化吸収を助けて胃腸の働きを整える消化酵素が豊富です。消化酵素は熱に弱いので、とろろや和え物など生で食べるのがおすすめです。

しいたけとさつまいもの煮物や、しいたけと山芋の炒め物など、複数の食材を組み合わせて日々の食事に取り入れてみましょう。

秋の養生には漢方薬も役立つ

秋の養生には、健康維持を目的とする漢方薬を服用するのもおすすめです。具体的には、「水分の循環をよくして肺に潤いをあたえる」「消化・吸収機能を改善して体の内側から心を元気にする」などの働きを持つ漢方薬を選びます。

小皿などにのった生薬
秋の養生に役立つ漢方薬を紹介
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おすすめの漢方薬

・麦門冬湯(ばくもんどうとう)

胃の働きを整えて呼吸器系や消化器系で不足している潤いを補い、のどや気管などの呼吸粘膜を潤し、唾液の分泌も促します。のどの乾燥や、乾いた咳が気になる人におすすめです。

・補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

気を増やして胃腸の調子を整え、必要なところに栄養を届けます。疲労感、倦怠感、食欲不振、疲れすぎて眠れない、寝汗が気になるなど、季節の変わり目に起きる不調が気になる人におすすめです。

→補中益気湯について詳しく知る

漢方薬を始める際の注意点

漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。

ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。

◆教えてくれたのは:薬剤師・山形ゆかりさん

白衣の女性
薬剤師の山形ゆかりさん
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やまがた・ゆかり。薬剤師・薬膳アドバイザー・フードコーディネーター。病院薬剤師を経て食養生の大切さに気付き、薬膳アドバイザーとしても活動する。牛角・吉野家他薬膳レストラン等15社以上のメニューを開発。そのほか、症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp)で薬剤師を務めている。

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