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《屋外に出る猫より完全室内飼育の猫の方が平均寿命は長い 》野良猫を保護した場合など、外飼いから移行するときのポイント「室内でも“狩り”ができる環境を」

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野良猫を保護した場合など、外飼いから移行するときのポイントとは?(写真/photoAC)
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猫は室内で飼うべきという考え方が一般的になって、ずいぶん経つ。交通事故や外敵のいない室内で、感染症のリスクも少なく、平和に暮らしていくことは猫にとって幸せなことといえるだろう。しかし、野良猫を保護した場合など、屋外の環境を知っている猫を完全室内飼育に切り替えると、外に出たがる様子が見られたりして、かわいそうにも思えてくる。こういうとき、飼い主さんはどうしてあげるのがいいのだろうか。獣医師の鳥海早紀さんに話を聞いた。

完全室内飼育の子は外に出る子より平均寿命が長い

猫を生涯、室内だけで飼育するスタイルが、この20年ほどでかなり定着してきた。環境省が2002年に告示した「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」 に「猫の屋内飼養に努めること」が盛り込まれ、獣医師会や動物愛護団体、また都道府県や市区町村も、猫は室内で飼うように、ホームページなどで呼びかけている。

一般社団法人ペットフード協会の統計によれば、日本で猫を室内だけで飼っている人の割合は約70%(2023年10月、n=475)。屋外に出ることがある飼い猫の平均寿命が14.18歳であるのに対し、完全室内飼育の猫は16.25歳だという 。なお、野良猫の場合は寿命が3~5歳とされており、猫にとって“外”がいかに過酷な環境なのかが察せられる。

鳥海さんは「猫は屋外に出ると、交通事故に遭ったり、ほかの猫とケンカになったり、感染症にかかったり、迷子になったりするリスクがあります。一方、室内にいるときは人間の食べ物や観葉植物などを誤食したり、ひも状のおもちゃなどを誤飲したりするリスクが増しますし、飼い主さんが工夫しなければ運動不足になりやすいです。室内にいれば猫は絶対に幸福で安全と言い切れるものではないですが、屋外に重大なリスクがより多いのは確かです」と話す。

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屋外に重大なリスクがより多いのは確か(Ph/イメージマート)
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「実は、私が飼っている猫も、もとは野良で、出会ったときには事故で股関節を脱臼していました。今は完全室内飼育ですが、もしあのまま外にいたら、また危険が迫ったときにうまく逃げられなかったはずで、きっと今の年齢まで生きられなかっただろうなと思います」(鳥海さん・以下同)

外に出たがっても出さないほうがいい

しかし、野良猫や多頭飼育崩壊の施設で飼われていた猫などが新しい飼い主さんに出会った場合、猫が外に出たそうなしぐさをすることがあり、猫を閉じ込めてかわいそうなことをしているような気分にもなってくる。

「確かに、病院で飼い主さんのお話を聞いていると、猫が玄関ドアや掃き出し窓が開いた瞬間に外へ飛び出した、網戸を自分で開けたり爪で破ったりして外へ出た、というような話は、元野良の子に比較的多い印象です。ですが、猫が外に出たがっているから出してあげるのがいいかというと、そうとは考えられません。先ほど述べたように、やはり外には致命的なリスクが多いからです」

例えば、犬のようにリードをつけて外を一緒に散歩すると、少しは猫のストレスも緩和されるものなのか。

「もしかしたら、ストレス緩和効果があるかもしれませんが、それを証明するデータなどを見たことはないので、なんともいえません」

キャットウォークやキャットタワーなど高さのある遊具を

鳥海先生はそれよりも、大事なことは室内環境を猫向けに整えることが重要だという。

「猫は犬と違って今も肉食の動物で、狩猟本能も色濃く残っています。安眠できる環境や食事は飼い主さんから与えやすいと思いますが、ストレスを減らすためには、狩 りに近い運動をさせてあげることも大切です。猫は高いところから獲物を狙ったりしますし、上下運動が好きなので、キャットウォークやキャットタワーなど、高さのある遊具を備え付けてあげるといいですね」

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キャットウォークやキャットタワーなど高さのある遊具を(写真/photo AC)
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さらに、レーザーポインターや猫じゃらしなどを動かして、狩りっぽい遊びを飼い主さんから仕掛けてあげると、ストレス発散になるようだ。ほかには、窓辺などにも猫が行けるようにしておくと、外を見て刺激を受けて楽しめるという。

また、猫には狭いスペース、入り組んだ場所を用意することも重要だとか。キャリーバッグの口を開けて普段から猫の生活スペースに置いておいたり、トンネル型おもちゃや猫が入れる小さな穴の開いたベンチを用意する と、潜り込んで遊んだりくつろいだり、恐怖を感じたときには逃げ込んだりすることもできる。

「私自身が猫を飼っていて、また職業柄、多くの猫を見てきて、猫は犬ほどペットとして順化していないんじゃないか という気がします。人間の脅威になるような攻撃力は持たないので、飼い主さんに従わせる必要はありませんから、猫が構われたくなさそうなときは放っておいてあげるのも、猫の快適な生活のために大事なことだと思います」

チャイルドロックを使って脱走防止

そしてもちろん、猫が外へ飛び出してしまわないように対策することも大切だ。対策グッズの代表格は、賃貸住宅でも取り付けられるペットゲート。猫用のペットゲートは高さも必要なので、1万円ほどの価格のものが多いが、脱走防止効果は高そう。また、ゲートの他にも猫の脱走防止に使えるものがある。

「赤ちゃんや小さな子どものいたずら防止用のグッズが安価に買えるので、活用されるといいと思います。網戸に取り付けるストッパーなどは 100円ショップで売っていますし、ドアノブの下に取り付けるチャイルドロックも数百円で買えます 。取り付けも簡単なので、おすすめです」

◆教えてくれたのは:獣医師・鳥海早紀さん

鳥海早紀さん
獣医師・鳥海早紀さん
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獣医師。山口大学卒業(獣医解剖学研究室)。一般診療で経験を積み、院長も経験。現在は獣医麻酔科担当としてアニコムグループの動物病院で手術麻酔を担当している。

取材・文/赤坂麻実

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