加齢とともに如実に老化症状が現れるのが「目」。視力低下や老眼、眼瞼下垂などさまざまな症状が現れ、放っておけば健康寿命を縮めることになりかねない。近年、スマホの使用が悪化させる「スマホ老眼」も問題視されているが、いまじわじわと増えつつあるのが「スマホ斜視」だ。誰しもがリスクを抱える新たな現代病について、原因から対処法、治療について徹底調査。
右と左で“違うものを見てしまう”「斜視」のメカニズム
「斜視」とは片方の目は正面を向いていても、もう一方の目が異なる方向を向いている状態を指す。左右の視点にずれが生じるため、ものが正しく見えなかったり、立体感や奥行きを感じるのが難しいというのが主な症状で、原因は遺伝や、筋肉・神経の異常などさまざまある。香川県済生会病院眼科部長の杉田江妙子さんが言う。
「斜視には外斜視や上下斜視などいくつかの症状があり、それぞれ先天性のものもあれば後天性のものもあります。恒常的な斜視だと自覚症状が出やすいのですが、症状が一時的に出る間欠性外斜視も見られます。寝起きや疲れを感じたときなどに出るため、眼精疲労などと混同され気づきにくいことも多いのです」(杉田さん・以下同)
斜視は「若者」と「シニア」に多い。診療報酬情報を集約する国のデータベースから「斜視」に分類される約80の病気で生存する患者数(2009年4月~2020年9月)を調査し、人口統計から有病率を算出(出典/京都大学)
斜視になると、日常生活にどのような支障が出るのか。
「内斜視だと、どちらかの目が内側に寄っている状態で、ものが2つ見える『複視』という症状を起こします。複視が長く続くと、片方の目で見ているものを脳が消してしまう。するとだんだん複視の症状はなくなるのですが、それは“片目だけでものを見ている”という状態になる。視覚的には困らないのですが、立体的に見られなくなったり、遠近感が得られなくなります。斜視には『混乱視』という症状もあり、これは2つの異なるものが重なって見えるので、読書や車の運転に支障をきたします」
なかでも、近年注目されているのが、「急性後天性共同性内斜視」。スマホなどデジタル機器使用による、いわゆる“スマホ斜視”だ。
「“スマホ斜視”の報告が増えるようになったのは、2016年頃からです。スマホの普及が全世代に定着し、見る時間が長くなってきたことが原因と考えられています」
スマホ斜視の症状はこれ!
画面を見るときに、眼球を内側に寄せる「寄り目」になり、戻らなくなってしまう。「先天性」もあれば「疲れたときに出てくる」人も。
正常な目
左右の視線、視点が一致している。ひとつのものを左右同時に見ることで、奥行きや立体感もしっかり捉えられる状態にある。
外斜視
左右どちらかが外側に向いている。常にこの状態である「恒常性外斜視」と、疲れたときなどに一時的に症状の出る「間欠性外斜視」がある。
内斜視
左右どちらかが内側に向いている。斜視の中でも比較的多く見られ、遺伝や筋肉・視神経の異常、遠視に由来するものなど原因はさまざま。
上下斜視
左右どちらかが上下に向いている。筋肉や神経、眼球の周りの骨の異常などで起こり、内斜視や外斜視に合併して発症することが多いとされる。横を向いたときに内側にある方の目だけが上を向いてしまう「下斜筋過動」は、原因となる代表的な疾患。
斜視の見え方
3タイプの斜視の見え方を紹介。
正常
左右両方の視線が同じ方向を向いていて、両目でものを認識している。両目の視力が異なるとブレが生じることもあるが、重複して見えるなどということはなく、奥行きや立体感もある。
複視
右目と左目が違う方向を向いて視線がずれることでものが2つに見えてしまう。この状態が続くと、次第に脳は片方の目で見えているものを消してしまい、奥行きなどを感じにくくなる。
混乱視
左右の目の視線が異なることで、2つのものが重なって見えてしまう。読書をしていて、読んでいるはずの部分とは違う箇所の文字が重なって見えるなど、生活に支障をきたすことも多い。
「スマホ斜視」を招くNG習慣と病気のリスク
長い時間「寄り目」が続くことで、目の筋肉が硬直!原因は「画面と目の距離感」にあった。
スマホ斜視は筋肉の緊張も一因に
眼球は6つの筋肉が伸び縮みすることによって動く。
「スマホなどを長時間見ることで目を寄せた状態が続くと、なんらかのきっかけで眼球を外側に向ける(遠くを見る)筋肉が作用しなくなり、内斜視になるのではないかと考えられています。スマホが直接の原因ではなく、老化とともに筋力が衰えたり、近視の影響で寄り目になることが多いなど複合的な要因で発症するとも指摘されます」
小さなスマホの画面で文字を読もうとすると、どうしても画面との距離が近くなり寄り目がちになってしまう。また画面が小さいので、ほとんど目が動くことはない。
スマホに比べると読書は顔との距離が保たれ、文字を追うことで目にも動きがある。とはいえ、読書をする際にも、顔に本を近づけすぎないよう注意が必要。
「寝る前」に「ベッドの中」でスマホ操作は“最悪習慣”
スマホ斜視のリスクを高めるNG習慣として挙げられるのが、まずは「スマホの長時間使用」だ。その際に、「同じ姿勢で画面を見続ける」ことは目だけではなく首や肩への負担も重く、痛みを生じさせることもある。二本松眼科病院副院長で眼科専門医の平松類さんが言う。
「スマホ斜視には複合的な要素があり、眼精疲労によっても症状が出やすくなります。度の合わない眼鏡やコンタクトレンズも目にかかる負担は大きくなるため、定期的な検診をおすすめします」
寝る前のスマホもいますぐやめるべき習慣だ。
「暗がりでスマホを見ると、画面との距離はさらに近くなる。睡眠の質も妨げるなど百害あって一利なしです」(平松さん・以下同)
「見えづらいだけ」と侮ると重大な病気を見逃す危険も
症状がそこまでひどくない場合や、恒常的に症状が出ているわけではない場合、「少し休憩すれば元に戻る」「少し見えにくいだけだから大丈夫」と放っておく人も少なくない。しかし、そこには大きなリスクが隠されているかもしれない。
「いちばん怖いのは動脈瘤など、脳の病気が隠れていることです。脳の血管にこぶができて神経が圧迫されるほか、脳腫瘍や脳出血などでも斜視の症状が出ることもあるので、“スマホの使いすぎ”と見過ごすのは早計です。
また、女性に多いのは甲状腺眼症。首の甲状腺のホルモンを分泌するところの異常で、目の筋肉に沈着物がくっついて、目の位置がずれてしまうことがあります。ほかにも糖尿病が原因で目の位置がずれることもある。日常生活に支障を来さずとも、見えづらさを感じたら医師に相談してください」
予防と改善7つのメソッド
大切なのは、日常的に「目の筋肉」の動きを意識すること!スマホをよく使う人は今日からやってみて。改善が感じられなければ医療に頼ろう。
光の進路を曲げる「プリズム眼鏡」でズレを矯正
「光を曲げて目の中に入れることで複視を防ぎ、視線のズレを矯正します。度数は調整可能で、眼鏡のレンズに貼付するタイプもある。視線のズレが和らぐことで眼精疲労改善にもつながります」(杉田さん・以下同)
1日の中で積極的な「デジタルデトックス」を
「スマホやタブレットを30分見たら、必ず休憩時間をとる習慣をつけましょう。その際には、遠くの景色を見ることを意識してください。毛様体筋や外眼筋を緩め、眼精疲労を和らげる効果もあります」
スマホやタブレットとは「30cm」の距離を保って
「寄り目になることを防ぐため、画面は30cm以上離しましょう。これは、ゲーム機や本、新聞でも同じです。また、画面が広い方が目の負担を軽減できるので、動画視聴などはスマホよりタブレットをおすすめします」
ボトックスで筋肉をまひさせ視線をまっすぐにする
「筋肉の緊張を和らげ、しわ・たるみ改善にも効果があるボトックスを外眼筋に注射します。斜視状態で固まった筋肉をまひさせ、目の位置を戻すことが期待されます。効果は3か月程度持続し、繰り返し注射することで治癒することも」
子供も大人も施術可能「外科手術」で筋肉を動かす
「生活習慣の改善や眼鏡の矯正でも治らず、日常生活に支障を感じる場合は、筋肉を動かす手術を行う方法もある。内斜視の角度を確認したうえで、外眼筋を動かし目(視線)の位置を正します」
眼位トレーニング【1】両目をまっすぐの位置に固定する
「両目の位置を正しく固定する練習が斜視改善には効果的です。片目ずつ、動いていることを実感すればずれにくくなる。朝晩行ってみましょう」(平松さん)
【1】右目を隠して、しばらくしたらはずす。右目が動くのを実感する。
【2】左目を隠して、しばらくしたらはずす。左目が動くのを実感する。
眼位トレーニング【2】眼球運動で目の筋肉をスムーズに動かす
「目を動かし、“目の筋トレ”をすることで斜視の状態を少しでも整えられます。ただし、飛蚊症など目の調子が悪い人は避けてください」(平松さん)
【1】まずは「上を見て→下を見る」を10回繰り返す。
【2】「右を見て→左を見る」を10回繰り返す。
【3】さらに「右上を見て、左下を見る」を10回繰り返し、最後に「左上を見て、右下を見る」を10回繰り返す。
※女性セブン2024年9月265日・10月3日号