不調改善

《30秒でOK》「うんこ座り」と「正座」が健康寿命を延ばすのに効果的? 専門家が解説する座り方

ヨガマットの上で正座している女性の胸から下
30秒正座では、両足に均等に体重をのせることを意識(写真/PIXTA)
写真5枚

日本人の伝統的な礼儀作法である「正座」と、かつて“不良のシンボル”だった「うんこ座り」。いま、それらが“体の痛みを取り、健康寿命を延ばすのに役立つ健康法”として、海外でも注目されているのをご存じだろうか。体の不調をみるみる改善するに「寿命を伸ばす座り方」をぜひ、マスターしてほしい。

腰痛のある人はない人と比べて死亡率が高い?

人生100年時代の至上命題は、いかに健康に年を重ねるか。そのカギを握る1つの重要な要素が「いかに腰痛を改善するか」だ。

緑のあるところで、両手を広げ深呼吸しているシニア夫婦
寿命を縮める痛みを取ることが、健康寿命を延ばす秘訣に(写真/PIXTA)
写真5枚

日本整形外科学会が推計した「腰痛に悩む人数」は全国で約3000万人。もはや国民病ともいえるが、さまざまな対症療法はあっても特効薬はなく、マッサージに通ったり、湿布を貼り続けたりしても、何年も改善しない人は少なくない。

慢性的な痛みで外出や運動に消極的になると、筋力の低下やメンタルの落ち込みといった心身への影響で、QOLは格段に落ちる。デンマークの70才以上の約4400人を対象にした研究では、腰痛のある人はそうでない人と比べて死亡率が13%も高くなった。

寿命を縮める痛みを正しく素早く取る「最強メソッド」を知ることが、健康寿命を延ばす秘訣になる。

足首の硬さが腰痛を呼ぶ

痛みと無縁の「長生きする体」をつくるためには、まず痛みの原因を正しく知る必要がある。戸田整形外科リウマチ科クリニック院長の戸田佳孝さんは「多くの患者さんが勘違いしていますが、腰痛の原因は“腰の筋肉の痛み”ではありません」と指摘する。

「腰痛の約8割は『非特異的腰痛症』といって、腰の筋肉の『こり』を知覚神経が痛みと捉えることで起こります。知覚神経が痛みを捉えると交感神経が刺激されて毛細血管を収縮させ、それによって筋肉に送られる酸素量が減り、こりと痛みが悪化する悪循環が生まれます」(戸田さん・以下同)

こりの主な原因は、長時間座りっぱなしでいること。本来なら座っているときは骨盤が自然に前傾するが、骨盤まわりの筋肉が硬いとうまく動かず、負担がかかって筋肉がこるようになる。

「パソコン作業や、いすに腰掛けてひざに本を置いての読書、ハンドルに寄りかかるような前傾姿勢での運転など、前かがみになる姿勢を続けていると、骨盤まわりの筋肉がこり固まって、痛みが増すことになります。

また、足首をはじめ、ひざや股関節の柔軟性も、腰痛と深い関係があります。関節がやわらかければ、動いたときに足腰にかかる負担を分散でき、腰やひざの痛みを予防できるうえ、転倒のリスクも減らせます」

関節が硬いと腰痛や転倒による骨折のリスクだけでなく、扁平足や巻き爪、さらに“第二の心臓”ともいわれるふくらはぎの筋肉量が低下して下半身の血流が悪くなり、むくみや冷えにもつながりやすくなる。

「うんこ座り」で腰痛リスクがわかる

腰のこりを取り、関節の柔軟性を取り戻すために戸田さんが推奨するのが「うんこ座り」だ。

うんこ座りしている不良のシルエットイラスト
かつて“不良のシンボル”だった「うんこ座り」が健康法に!?(イラスト/PIXTA)
写真5枚

「欧米では健康にいい『アジアン・スクワット』として知られており、関節の柔軟性のチェックから腰の筋肉を鍛えるストレッチまで、うんこ座り1つで実践できます」

まず、立った状態で左右のひざをつけ、かかとからつま先までを平行にそろえる。そのままかかとが床から離れないようにしゃがみ込むことで、関節の柔軟性がチェックできる。ここで、両手を背中で握り合い、その姿勢を5秒間キープできれば合格だ。

アメリカ人はわずか13.5%の人しかできないといわれ、さらにそのうち9%は日本や中国、韓国などアジア系の血統を持っているとされる。

「和式トイレなど、アジアでは排泄のたびにしゃがむ動作があるからだと考えられています。しゃがむためには、体を前傾させて股関節を深く曲げる必要があり、日常的に関節がやわらかくストレッチされる。

ところが、生活様式が欧米化して洋式トイレが当たり前になった現代では、足首や股関節が硬く、しゃがめない日本人が増えています。事実、現代の中学2年生は4分の1がしゃがむことができず、子供の腰痛も増えてきています」

筋トレより効く「うんこ座り」

「うんこ座りストレッチ」で腰の筋肉のこりを取り、関節をやわらかくほぐすことが大切。だが、筋肉を鍛えると症状を悪化させる可能性がある。

「腰痛に悩むアスリートが少なくないことからもわかるように、いくらトレーニングで筋肉を増やしても腰痛の改善にはならず、むしろ逆効果。筋トレで鍛えられる『速筋』は、スポーツなど瞬発的に大きな力を出すために必要な筋肉で、腰痛との直接的な関係はありません。

腰痛は、立ったり座ったりといったゆるやかで持続性のある動きに使われる『遅筋』がこって硬くなることが原因なので、この遅筋をストレッチしてこりを改善することが重要なのです」

「うんこ座りストレッチ」は、「遅筋」に作用する。

「両足を肩幅くらいに開いて立ち、ひざと股関節をしっかり曲げることを意識して腰を落とし、そのまま10秒間キープ。その状態でできるだけ背筋を伸ばし、左右の拳の指関節の骨を使って、ウエストからお尻にかけて、上から下に20回さすり下ろしてください」

こする力が強すぎないように、痛気持ちいいと感じるくらいがベスト。約20秒間で20回こするのを目安に行い、朝起きてすぐ、朝食後、昼食後、夕食後、就寝前の1日5回行うのを習慣にしてみてほしい。

「腰痛がひどいときや、関節が硬すぎてうまくしゃがめない場合は、無理にしゃがまなくても大丈夫。いすに座ったまま拳で背筋をこするだけでも同様の効果が得られます。続けていくうちに腰のこりが改善していきます。こりが改善したことで地面を強く踏みしめられるようになるので、思わぬ“副反応”として、ゴルフが飛躍的に上達したかたもいました」

やればやるほどラクになる「うんこ座りストレッチ」のやり方

「うんこ座りストレッチ」のやり方は以下の通りだ。

うんこ座りストレッチを解説したイラスト
うんこ座りストレッチ(イラスト/勝山英幸)
写真5枚

【1】左右の足を肩幅くらいに開き、お尻を落としてしゃがみ込み、10秒間キープする。腰が伸びるように少し前かがみになると◎。

【2】左右の手を握り、ウエストのくびれの辺りからお尻の割れ目のきわにかけて上から下に、背骨の両側を軽く圧迫しながら20秒間を目安に20回こする。

「朝の正座」で内臓機能まで向上!

もう1つ、朝の習慣として取り入れてほしいのが、聖和整骨院院長で柔道整復師の金聖一さんがおすすめする起き抜けの「30秒正座」。

「腰痛の原因は、日常的なクセによる体のゆがみである場合も多く、その代表例が左右の足の使い方です。

人間には地面を蹴り出す『利き足』と、体を支えて踏ん張る『軸足』があり、利き手にかかわらずほとんどの人が“右利き、左軸”で、あぐらをかいたときは右足が上になります。

この小さな左右差が積み重なって骨格にゆがみが生じた結果、筋肉が緊張して血流が滞り、腰に負担がかかって痛みが出るのです」

ゆがみ由来の痛みに効果的なのが、一般的な正座とは少し違う“腰痛治療のための正座”だという。

「一般的な正座では足の親指を重ねますが、この姿勢では左右のひざの間に隙間ができ、下になっている方の脚に重心がのって、腰痛の一因である体のゆがみを招きます。30秒正座では、両足に均等に体重をのせることを意識してください。

ポイントは、正座をする前に左右のひざ、ふくらはぎ、かかとをできるだけぴったりとくっつけた状態でひざ立ちしてから、かかとにお尻を下ろすこと。左右の親指の間は1cm開けてください。これにより、不均等になった関節や筋肉、頸椎のカーブを元に戻すことができます」(金さん・以下同)

きっかり30秒間、この姿勢を維持すること。一定時間同じ姿勢を保つことで、脳は「この姿勢で筋肉をゆるめてもいい」と指令を出すため、無理のないストレッチになる。

「痛みがひどくて正座が難しい場合は、湯船の中で、浮力を借りて行いましょう。正座したときにお湯がおへその少し上あたりにくるように湯量を調節すると、ひざへの負担を減らせます。半年ほど続ければお風呂の外でもできるようになるはずです」

続けることでゆがみが取れ、足の内側の筋肉が鍛えられるだけでなく、姿勢がよくなることで内臓のねじれが取れて機能が向上する。また、ふくらはぎにバランスよく体重がかかることで足の血流改善にもなり、中には一度実践しただけでO脚が改善した例もある。

「正座は交感神経を刺激するため、朝一番で行うと頭がスッキリして活動的になれます。座り仕事や、保育士や介護士など重いものを持つ仕事の人は体に左右差が出やすいため、早く効果が実感できるでしょう」

朝一番30秒間の「正座ストレッチ」のやり方

「正座ストレッチ」のやり方は次の通りだ。

起き抜けの「正座ストレッチ」を解説したイラスト
起き抜けの「正座ストレッチ」(イラスト/勝山英幸)
写真5枚

ひざ立ちになって左右のひざ頭、ふくらはぎ、かかとをくっつけてから、かかとの上にお尻を下ろし、30秒間キープする。このとき、足の両親指の間1cmほど開けておく。

もし、「うんこ座り」と「正座」を3か月以上続けても痛みが改善しない場合は、迷わず医療機関を受診してほしいと、戸田さんは言う。

「日本人は痛みをがまんしがちですが、3か月以上続く痛みは大きな病気が隠れている可能性があります。

また、長引く痛みは自律神経のバランスを乱し、眠れなくなったり小さな痛みを大きく感じたりしてしまう『自律神経失調症』を招きかねません。

“早くこりをほぐさないといけない”と過剰に意識しすぎるのもストレスになり、かえって悪化しかねない。ストレッチ以外にも、散歩やウオーキングをして意識を痛みから逸らすことも大切です。朝日を浴びながら歩くと、幸せホルモンのセロトニンが分泌され、痛みの緩和にもつながります」(戸田さん)

100才まで元気に歩くためには、足と腰の健康が要。100年腰のために「座るだけストレッチ」を始めてみよう。

※女性セブン2024年10月10日号

関連キーワード

価格表示に関するお知らせ