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【認知症猫の介護 リアルケース】他人事だと思っていた認知症「正解を決めつけず、できることの中からベストな方法を探していった」

CAPボン(右)と兄弟猫ヤム。いつも丸まってくっついて寝ていた。ヤムはこの12月で23才になる
イラストレーター・林ユミさんの愛猫・ボン(右)と兄弟猫ヤム。いつも丸まってくっついて寝ていた。ヤムはこの12月で23才になる(C)林ユミ
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ペットの高齢化に伴い、認知症になる犬や猫が増えているという。「うちの“子”に限って…」はあり得ない。どんな犬や猫もなりうる病気について、飼い主はどう向き合い、何を知っておくべきか――。イラストレーター・林ユミさんの愛猫のボンが認知症になったのは19才のとき。3か月に及ぶ、暗中模索の介護について振り返ってもらった。

認知症なんて他人事だと思っていた

「猫も認知症になる、という話は本やインターネットなどの情報から何となく知ってはいたのですが、どこか他人事で、ボンが当事者になるとは考えてもいませんでした」

と話すのは、イラストレーターの林ユミさんだ。ところが、愛猫のボンは19才になると突然、半径1mほどの範囲をぐるぐると旋回するようになったという。

「狭い範囲をぐるぐる回っていて、明らかにいつもと様子が違う。どうやら本人はまっすぐに歩こうとしているけれど、バランスがとれずに体が左に傾き、その結果、ぐるぐる回ってしまっているようでした。

これはもしかしたらと、すぐに動物病院を受診。てんかんなどほかの病気の可能性が低いことや、シニア猫であることから“認知症”と診断されました」(林さん・以下同)

猫の19才というと人間なら約92才。認知症になってもおかしくはない。

「診断を聞いて、ボンはこれからどうなるの?ボンとの暮らしは今後どう変わるの?と変化への不安で押しつぶされそうになりました。そして、見て見ぬふりをしてきた“ボンとのお別れ”が、確実にあるものなのだと、現実を突きつけられたように感じました」

林さんは、ボンが認知症という現実を、すぐには受け入れられなかったという。

人の認知症の本が意外にも役立って

そんな林さんが、認知症との向き合い方のヒントとしたのが、人の認知症の本。

「認知症に関して正しい知識がなかった当時の私は、“認知症=何もわからなくなる”と思い込み、不安でたまらなくなりました。そこで、猫の認知症について勉強しようと思ったのですが、当時は動物の認知症の本はあまりなくて…。ならば同じ哺乳類だし、多少は共通することがあるはずだと人の認知症の本で勉強することにしました」

するとそこには、認知症患者があてもなく歩き続ける理由が書かれていた。

「徘徊などの認知症による行動は、過去の習慣や思い出などが関係していることが書かれていました。人とは違いますから、ボンには当てはまらないかもしれませんが、それでもやはり、ボンにはボンなりの理由があって、ぐるぐる回っているのだろうと思いました。ボンもきっと変化していく自分に困惑している。ボンの気持ちを大切に、ボンが安心して暮らせる日々を守っていこうと、腹をくくりました」

こうした思いは家族全員で共有したという。

家の中で行方不明!? 隙間挟まり事件

「認知症と診断されてから、“ぐるぐる歩き”に加え、家中を徘徊するようになりました。1日に何往復も、壁伝いに歩き続けるんです。そして10分ぐらい歩くと疲れて部屋の隅で倒れ込む。その姿を見てやめさせようと思うときもありましたが、もしかしたら、部屋の中をパトロールしたり日々のルーティンをこなしているのかもしれないと思い直しました。

それで、ボンの様子を見ながら、臨機応変に対応することに。疲れているのに歩こうとするときは、抱っこして休憩させるなどし、基本的には見守り、危険なときは止めに入りました」

そんなある日、ボンが家の中で行方不明になった。

「猫の体って柔らかくて、頭さえ入ればどこでも通れてしまうんです。ある日、ボンの姿が見えないと思ったら、ゴミ箱とゴミ箱の間に挟まって身動きがとれなくなっていました。壁に沿って歩いているうちに、隙間に挟まってしまったようです。認知症になると、後ずさりができなくなるので、隙間に入ると出られなくなってしまうんです」

家具などの隙間に挟まるのは認知症の典型的な症状。後ずさりができなくなるため、ハマると自力では出てこられない。林ユミ著『吾輩は認知症ねこである』(小学館)より抜粋
家具などの隙間に挟まるのは認知症の典型的な症状。後ずさりができなくなるため、ハマると自力では出てこられない。林ユミ著『吾輩は認知症ねこである』(小学館)より抜粋
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鳴いて知らせることもできないため、飼い主が見つけない限り長時間身動きがとれないままになってしまう。そうならないよう、認知症のペットがいる場合、家の中にある“ハマりそうな隙間”は、段ボールをコの字型に折って埋めたり、家にあってすぐ使え、紙より破れにくいペットシーツなどを貼ってふさいだ方がいいと、林さんは言う。

表情が乏しくなっても触れると喜んでくれた

認知症の進行とともに、表情の変化も、林さんは気になったという。

「目元がうつろなことが増えて、どこかいつもぽわ~んと視線が宙をさまよっていることが多くなりました。怪人二十面相ぐらい豊かな表情を見せてくれていたのが、三面相くらいになった感じです。いろんな表情を知っているからこそ、ちょっぴり寂しい気持ちもありましたが、体に触れるとリラックスしてくれているのが伝わってきました。表情は変わっても、触れれば心は通じ合えることを再確認でき、安心しました」

おむつ交換が幸せな触れ合いの時間に

前述の今西さんは愛犬・未来のトイレ問題に悩んでいたが、猫の場合はどうなのだろうか。

「猫も犬と同じです。ボンもおしっこの粗相が増えましたね。洗ったばかりのラグにおしっこをされたりして困りました。でも、おむつをすることでボンのストレスにならないか心配で…。迷った結果、嫌がったら外せばいいかと、試しにおむつをはかせてみたら、拍子抜けするほど、すんなり受け入れてくれたんです。なんだ、もっと早くおむつデビューすればよかったってホッとしましたね(笑い)。

かぶれないように、おしっこをしたらすぐにおむつを外し、蒸しタオルで拭いていました。ボンもじわ~と温かいのが心地よいのか、気持ちよさそうにしていましたね。こういう認知症ならではのスキンシップは、私たちにとっても満たされる時間でした」

初めは赤ちゃん用のおしり拭きで体中を拭いていたが、心地よさも考え、蒸しタオルに変更した。林ユミ著『吾輩は認知症ねこである』(小学館)より抜粋
初めは赤ちゃん用のおしり拭きで体中を拭いていたが、心地よさも考え、蒸しタオルに変更した。林ユミ著『吾輩は認知症ねこである』(小学館)より抜粋
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介護に正解はない 相談してできることを

ボンが認知症と診断され、介護した期間は約3か月。その間は常に緊張状態にあったと振り返る。

「裏を返せば、緊張感があったからできたとも言えます。ご飯は1日8~10回、シリンジ(注射筒)で少しずつ与えていました。夜中でも一度起きてあげていたので、寝不足になりましたが、私がそうしてあげたかったんですよね。でもこの生活が3か月以上続いていたら、もう少し力の抜けた方法を模索していけたと思います。

介護って正解がわからない。手探りの状態で進めていかないといけない。たとえば、おむつかぶれ対策として、おしっこをしたら拭いて新しいおむつに替えてあげるのが理想だと思います。でも、日中外で働いている人は難しいですよね。ちゃんとしてあげようと思えば思うほど、介護する側がつぶれてしまう。だから、正解なんて決めつけず、できることの中からベストな方法を探していけばいいんだと思いました」

林さんは、介護は不安と孤独との闘いでもあると続ける。

「私は獣医師をはじめとする動物病院の関係者、家族や友人など、相談できる相手がいたことには助けられました。SNSでも高齢猫と暮らしているかたの発信はありがたかったです。介護方法などの情報が得られるし、皆もがんばっているとわかると、自分もがんばろうと前を向けました。

周りに助けてくれる人がいない場合も、高齢猫と暮らすかたのSNSが頼れる味方になってくれると思います」

何度でも言おう。人の介護と同様に、ペットの介護もひとりで抱えてはいけないのだ。

認知症になってからかかった費用
認知症になってからかかった費用
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◆教えてくれたのは:イラストレーター・林ユミさん

『よのなかルールブック』(日本図書センター)など、児童書を中心に多数の本のイラストを担当。主な著書に、認知症になった猫の“ボン”との日常を綴ったコミックエッセイ『吾輩は認知症ねこである』(小学館)がある。

取材・文/鳥居優美

※女性セブン2024年10月10日号

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