夏場でも腐らないつややかな卵の黄身、安価に寿司を楽しめるねぎとろ、甘いのに太らないジュース……そんな便利でおいしい一品が手を加えられた“ニセモノ”だったとしたら──巧妙に食卓に紛れ込む“ニセモノ食品”の実態に迫る。
添加物を加えて作られた「半熟卵」も
ハンバーガーにしょうが焼き、ミートソーススパゲッティ……近年、レストランやスーパーの定番総菜メニューの肉料理に「大豆ミート」を使用するケースが増えている。大豆を主原料に、食肉の味わいを再現した代替食品の一種で、環境負荷や健康の観点から世界中で注目されているのだ。
振り返れば、かにの身に似せたかまぼこである「かにかま」や「魚肉ソーセージ」など安価で栄養のある代替食品は日本の食卓を豊かに彩ってきた。
しかし一方で、コストの安さや調達のしやすさなど供給側の都合で作られた本物そっくりの“危険なニセ食品”もあふれている。ニセモノを見抜き、口に入れないための方法をお伝えする。
代表例はこの時期“旬”とも言える月見バーガーほか、カルボナーラやドリアなどに用いられている半熟卵。加工食品ジャーナリストで一般社団法人ナチュラル&ミネラル食品アドバイザー協会代表理事の中戸川貢さんが解説する。
「マクドナルドが使用しているのは正真正銘の卵ですが、そのほかの外食産業で用いられているのは鶏卵に植物油脂をはじめ、加工でんぷんや増粘多糖類などの各種添加物を加えて作る『ニセ卵』の可能性が高い。
全卵を使って近年流行りの半熟に調理すると、どうしても食中毒の危険性が出てくる。各店舗で念入りに加熱することでそのリスクは避けられますが、提供時間が遅くなったりマンパワーがかかってしまう。その点、サルモネラ菌やカンピロバクターなどとも無縁なニセ卵であれば、作り手にとって安心して使える。しかし、増粘多糖類の一部には発がん性が指摘されています」(中戸川さん・以下同)
「ぶつ切り」なら加工食品扱い
「自然のまま」であるはずの生の魚介類にも、自然のままではないものが交じっていることがある。
「まぐろなどのぶつ切りがそれにあたります。サクか刺し身状態の生食用鮮魚介類は、次亜塩素酸ナトリウムを除く添加物を使用することが禁止されていますが、『ぶつ切り』は加工食品扱いとなり、規制外。変色や乾燥を防ぐために、『pH調整剤』や植物油脂などが添加されていることが少なくありません」
“ニセ食品”が恐ろしいのは、本物に近づけるため、体にとって有害な添加物をたっぷり使っている事例があること。中戸川さんは「そうしたケースは近年増加傾向にある」と言う。
「食品の原材料費が高騰する局面において、メーカーや外食産業ではコスト削減のため、原材料の配分や加工方法の見直しが起きています。それによって“ニセ食品”が生まれる事例は少なくありません。
たとえば、大手チーズメーカーの代表商品のクリームチーズは2022年に『クリーミーポーション』という名称に変更されました。チーズと名乗るには無脂乳固形分と乳脂肪分をあわせて全量の40%以上でなければいけませんが、配分の見直しにより、それを下回ったようです」
これにより、チーズから「乳等を主要原料とする食品」になったのだ。
「原材料表示を見ると、以前にはなかった増粘剤が添加物として追加されているのも気がかりです」
“みりん風調味料”には添加物の制限なし
“まがいもの”が紛れ込んでいるのは食品ばかりではない。物価が高騰するなか、いつもより少し安い調味料を選んだところ、それが添加物まみれのニセモノだったということもある。
食品表示アドバイザーで消費者問題研究所代表の垣田達哉さんが指摘する。
「もち米や米こうじ、蒸留酒などを原料に作られる本みりんは、酒税法上の酒類として販売されており、糖類以外の添加物は認められていません。
一方、『みりん風調味料』や『みりんタイプ調味料』と呼ばれる類似品は、アルコールが含まれていないことから酒税がかからず安価ですが、添加物に制限もない。多くの場合、グルタミン酸や酸味料といった添加物が使われています」
中戸川さんは、和食の基本である「だし」に潜むリスクに注意を促す。
「めんつゆや白だしなどの表示に、『○○エキス』と書かれていたら注意が必要です。表示されていなくても発がん性リスクがある『たんぱく加水分解物』が含まれていることがあります。これらは、ともにコクやうまみを感じさせる化学調味料の一種。『かつおぶし』や『こんぶ』などエキスと書かれていない商品か、より自然に近い『有機酵母エキス』と書かれてあるものを選ぶべきです」
安価なものは原材料表示を確認
「みそ」の中にも、化学調味料や添加物が多数加えられている商品がある。
「家庭でかつおやいりこからだしを取る習慣がなくなりつつあるいま、『液みそ』や『だし入りみそ』は手軽で便利ですが、それらには化学調味料や添加物が加えられていることがほとんどです」(中戸川さん)
食品の値段が上がり続けるいま、“ニセ食品”をつかまされず、賢く選ぶためには何が必要か。垣田さんは「とにかく原材料表示を注視すべき」と言う。
「市販品の場合、使用されている添加物は原材料表示の『/(スラッシュ)』以降に書かれている。より安価な類似品を購入する場合には、よく確認することをおすすめします。
なかでも気をつけてほしいのがアスパルテームやネオテーム、スクラロース、アセスルファムカリウムといった人工甘味料。最近の健康志向のなか、見せかけのカロリーを低く抑えるために使用されていますが、最新の研究では人工甘味料は体脂肪減少など長期的な体重管理には効果がないとされているどころか、発がん性すら指摘されている。さらに人工甘味料を過剰に摂取すると、2型糖尿病発症リスクが上昇するという研究結果もあります」
添加物以外にも危険因子は存在する。冒頭の大豆ミートは、材料に使用される大豆やとうもろこしに遺伝子組み換えのものが多く見受けられること。海外では、「代替肉は添加物たっぷりの超加工食品」という見方もある。
遺伝子を操作するゲノム編集技術を活用した「ゲノム編集養殖魚」も市場で注目を浴びているが、これも近未来の技術だと手放しで喜んではいけない。飼料の利用効率が上がることや、特定の性質を持つ種を安定的に“作れる”ことがメリットとされるが、抗生物質を大量に使っていることが指摘されるなど、“不自然な成育”による健康への影響ははっきりと解明されていないのだ。
「安かろう危うかろう」という商品を手に取ってしまうことがないよう、最善の注意が必要だ。
※女性セブン2024年10月17日号