広島県因島出身の2人組、ボーカル・岡野昭仁とギター・新藤晴一によるロックバンド「ポルノグラフィティ」が、今年、メジャーデビュー25周年を迎えた。ライターの田中稲氏が、デビュー曲『アポロ』の衝撃から、音楽にほぼ興味がないという実母の意外なエピソードを絡め、「なぜポルノの楽曲は魅力的なのか」を考察する。
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デビュー曲『アポロ』の衝撃
あれからもう25年なのか——。私は遠い目になった。ポルノグラフィティのデビュー曲『アポロ』を初めてテレビで聴いた時の衝撃は忘れない。第一印象は「ヘンな歌!」であった。
時は1999年の世紀末、J-POP全盛期。いつものように歌番組をルンルンと観ていたら、いきなり、ものすごい滑舌の良いエエ声で「アポロ11号が月に行った」という世界史的なフレーズを歌う若者が登場しビックリ仰天。
私自身、アポロ11号が月に行ったのと同じ年、1969年生まれなので、「僕らの生まれてくるずっとずっと前」という歌詞に、ジェネレーションギャップのトンカチでガツンと殴られた気もした。そうか、1969年は「ずっと」が2回繰り返されるほど昔なのか。「へいへいごめんよ、ずっとずっと前に生まれたオバハンですよ……」と思ったものである。
楽曲もすごかったが、バンド名を見ると「ポルノグラフィティ」とあり、二度ビックリである。ド直球エロス! 売れても略して「ポルノ」とか呼べないなあと思っていたが、今やすっかり呼んでいる。それどころか「ポルノ」といえば、エロスよりも彼らの歌のほうを先に思い浮かべるようになった。
実力が奇抜さを上回り、新たなスタンダードとなる。すごいな、ポルノグラフィティ! あのとき「ヘンな歌」と思った『アポロ』は、ずっと脳にビタッとくっついて離れない。今も無意識的に歌う、マイ・鼻歌ベストテンに入っている。
母がポルノグラフィティを好きな理由を本気出して考えてみた
ポルノグラフィティの大きな特徴の一つが、ボーカル・岡野昭仁さんの、ブレない音程と滑舌。声から黄金比の図形というか、美しい結晶が“見える”。聴くだけでは気がおさまらず、飛んできた彼の声をワッシャとつかみ取り、プレパラートに乗せ、性能バリバリの顕微鏡で見たくなるくらい整った声だ。
超個人的ながら、彼の声の魅力のすごさを物語るエピソードがある。
80半ばの私の母は、「いい歌ね」くらいの反応はあるのだが、歌にほぼ興味がない。「若い子の曲は分からんわ」というジジババの定型句を繰り返すのはもちろん、自分の世代の歌もあまり聴かない。カラオケも歌わない、なかなかの音楽度薄めな人生である。
私が知る範囲で、そんな母に「CDがほしい」とまで言わしめたアーティストは、ちあきなおみさん、徳永英明さん、尾崎豊さん、X JAPANのToshiさん、そしてポルノグラフィティの5アーティストのみである。
初めて「ポルノ好きだわ」と言われたときには、ポルノグラフィティが思い浮かばず、また、母と「ポルノ」という響きが合わな過ぎて、「突然何のカミングアウト??」と飲んでいるビールを吹き出したものだが……。
不思議なことに、ポルノグラフィティの歌を聴くとき彼女は、むっくと起き上がる。寝ていてもソファに座り、両手の指を口元で組む碇ゲンドウポーズで、画面をじっと観ながら聴くのである。
特別ルックスが好みというわけではないらしい。それなのになぜか『サウダージ』『アゲハ蝶』を歌う彼らを凝視するオカン——。
なぜ彼らが好きなのか。なぜ、ポルノグラフィティは特別なのか?
「日本語がはっきり聞こえる」「声が明るくて切なくていい」「歌詞がきれい」。本人はそういった感想しか言わないが、私は思うのだ。音楽はあまり興味のない母だが、本が大好き。活字に埋もれ青春を過ごした読書乙女であった。母はポルノグラフィティの歌やメロディーを、ページをめくるように、物語として読んでいるのではないだろうか、と。
一言一句読み取れるストーリー。それほどに、彼らの音楽は、輪郭がはっきり見える。だから聴くだけでなく、体を起こして受け止めたくなるのも、なんとも納得できるのだ。