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名曲『セシル』、忍者設定のスケバン刑事…浅香唯の「破壊力ある」魅力を改めて考察

浅香唯の11thシングル『セシル』は1988年発売
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9月中旬を過ぎても気温30度を超える地点が続出するなど、全国的に厳しい残暑に見舞われた日本列島。長く続く猛暑・酷暑の日々に、涼しい秋の空気を待ち遠しく感じる人は多いはず。そんななか、ライターの田中稲さんが秋の入り口におすすめするのは、1985年にデビューし、現在も活躍する浅香唯の名曲『セシル』。その聴きどころについて、彼女独自の魅力を解き明かしつつ田中さんが綴ります。

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ある日、知人が声を弾ませ、最近聞いたラジオが楽しかった、という話をしてくれた。それは8月12日のニッポン放送「サンドウィッチマン ザ・ラジオショーサタデー」。ゲストが浅香唯さんで、お笑いが大好きだという話題になり、その語り口調がなんとも自然でリズミカルで、俄然ファンになったという。

浅香唯……! あの、神様から輝く星を両眼に与えられたような、アイドルオブアイドル! 確か同い年である。私はなんだか嬉しくなり、彼女の公式サイトを訪れた。

カネボウ夏のイメージキャラクターを務めた(写真は1988年、Ph/SHOGAKUKAN)
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出てきた画像を5度見ぐらいしてしまった。ギャンかわ……! いまだ最高にキュートではないか。何を食べているのか問い詰めたい。

そもそも、昔からビジュアルはハンパじゃなかった。大きなリボンやふんわりスカートも躊躇なく着こなして、マンガから飛び出してきたような感じである。

1988年のシングル『C-Girl』の小麦色の肌を光らせ、満面の笑みを浮かべるジャケットは今でも速攻、くっきり高画像で思い出せる。恐ろしい破壊力であった。……1988年? 今計算してひっくり返りそうになった。あの歌は35年も前の歌なのか!

1988年発売『C-Girl』は浅香唯の10枚目シングル
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が! しかし! 浅香唯さんの魅力は、このきらめくルックスだけではない。低く鼻にかかった独特な歌声がすごい。音程抜群、時折入るロックなビブラート。それらが絡み合いアイドルっぽさがありながら、3度目の人生レベルな説得力も感じるのである。

不思議な粘りがあり、てろんと耳に入ってきて、時間をかけてゆっくり溶けていくイメージだ。キャンディボイスというより、ヌガーボイス。ここちいい余韻が長く残る。

名曲『セシル』が歌い上げる「季節の変わり目のせつなさ」

『C-Girl』も名曲だが、私が推したいのは『セシル』である。今年、太陽からの殺意を感じた猛暑。もう一生夏ではないかとうんざりしたが、いやはや、秋はやってくるものだ……。そんなホッとする季節の変わり目に漂うせつなさ。この曲はそれとめっぽう相性がいいのだ。

2023年はデビュー38周年を迎えた(写真は1988年、Ph/SHOGAKUKAN)
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途中で入るクラップ。センチメンタルだけど明るい、絶妙なバランスの浅香唯さんの歌唱。そしてサビの歌詞! ぜひ皆さんハンカチ持参で聴いていただきたい。秋の夜長、寂しくなったとき、「私が、あなたのそばにいれたらいいのに」と囁いてもらえているようで、泣く。

この曲の支持層はとても広い。というのも、私個人調べではあるが、カラオケで中年男性が歌っているシーンを一度や二度ではなく、数度目撃しているからである。

しかもそのうちの一人は、沢田研二の『時の過ぎゆくままに』や、近藤真彦の『愚か者』という激シブな曲を歌った後、締めにこの曲を持ってきていた。そして目を潤ませながら「名曲だよね」と呟いた。ううむ、『セシル』という曲には、様々な苦労や経験をしてきた人に響く何かがある!

今もWarner Music JapanのYouTube公式チャンネルで動画を見ることができる。私も観て、そして改めて、この曲に目を潤ませた人の気持ちがよくわかった。

「大人になるたび弱くなる」——。「強くなれ」と励ますのではなく、ロマンチックに同意してくれる。最高にやさしいじゃないか。くっ、リピートが止まらないぞ!

(写真は2009年、Ph/SHOGAKUKAN)
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太陽の下の浅香唯もいいけれど…

さて、浅香唯さんといえば、やはり忘れてはいけないのが三代目スケバン刑事である。私は和田慎二さんの原作コミックスの大ファンなので、ドラマの設定が、原作からガンガンかけ離れていくこのドラマを、戸惑いながら観た。

三代目スケバン刑事も人気を呼んだ(写真は1988年、Ph/SHOGAKUKAN)
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斉藤由貴さん主演の第1作『スケバン刑事』はまだ原作のストーリーを踏襲していたが、南野陽子さん主演の2作目には「鉄仮面伝説」という謎の設定がついてきた。しかし、それでも刑事という設定はなんとか死守していた。

そして浅香唯さん主演の3作目。今度は忍者という設定で、「少女忍法帖伝奇」という山田風太郎フレイバーのタイトルがついてきた。原作との共通点はヨーヨーくらいだろうか。びっくりした。タイムマシンがあれば乗り、なぜこうなったのか、当時の企画会議を見てみたい。きっと深夜に会議をしたと思われる。

風間三姉妹による『Remember』は1987年発売
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しかし、そんなあり得ない設定も、浅香唯さんが力づく、いや、魅力づくでアリにした。彼女の末っ子パワーというか小動物感は、見るものを親衛隊にさせる。どんな素っ頓狂なものでも「わかった。応援する。見守る!」という気になるのだ。

おかげで、原作から遠く離れた『スケバン刑事III 少女忍法帖伝奇』を私は楽しんで見ることができた。

浅香唯さんが歌う主題歌と挿入歌も、とても良かったのだ。特に『STAR』、『瞳にSTORM』は、とてもキャッチ—で、どこかせつなくて、胸がキュンキュンする。ドラマの設定「風間三姉妹」名義でリリースされた『Remember』は、作曲を担当した来生たかおさん特有の、夕陽を思わせる哀愁が素晴らしい名曲である。ちなみに、浅香唯さんは、風間三姉妹として共演した大西結花さん、中村由真さんと今も仲がいいそうだ。なんともほっこりする。

早見優、松本伊代、香坂みゆきと(写真は2018年、Ph/SHOGAKUKAN)
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最強の末っ子の歌声は時を超え、今でも、大人になりすぎた心を励ますでもなく、説教するでもなく「そうだよね。大丈夫。私が味方になれればいいな」とそっと頷いてくれる。

太陽の下の浅香唯もいいけれど、秋の夜こそ、聴きどきだ。

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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