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《薄井シンシアさん&木下紫乃さん対談》他人への頼み事「助けは喜んで受けるけど、私が頼むまで待たないで」「忖度して声をかけないとチャンスを逃す」

左から木下紫乃さん、薄井シンシアさん
左から木下紫乃さん、薄井シンシアさん
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17年の専業主婦を経て、日本法人の社長までキャリアを築いた薄井シンシアさんと、赤坂で昼スナック「ひきだし」を営み、ミドル世代のキャリア支援のプロでもある紫乃ママこと木下紫乃さん。対談の3回目は「ミドル世代が手放した方が良いもの」の続きから。「頼み事」について、シンシアさんは「自分からは頼めないけど、助けは喜んで受ける。でも、私が頼むまで待たないでほしい」と過去の経験を語り始めました。「忖度なんてつまらない」と応じる紫乃ママとの白熱した掛け合いが続きます。

紫乃ママ「人に手を借りる年齢になったら『ごめん』と頼む」

――他人に頼み事ができますか?

紫乃ママ:私は人の手を借りる時期が来たら、みんなに言い散らかして面倒を見てもらおうと思っています。周りの手伝ってくれそうな人に「ごめん、頼むわ」っていうしかない。その代わりに恩を売るわけでは無いけれど、今、助けを求めてる人がいたら、できるだけ手伝いができたらとは思っています。

シンシアさん:私にはできない。人のために何かをしたい気持ちはあるけれど、自分から人には頼めない。

薄井シンシアさん
「人に頼みたくないし、頼めない」というシンシアさん
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――弱みを見せたくないのですか?

シンシアさん:そうではありません。これまで弱みも話してきたでしょう?

――迷惑をかけたくない?

シンシアさん:人に頼みたくないし、頼めない。

――格好悪くなりたくない?

シンシアさん:そうではなくて、人の生活を邪魔したくない。

木下紫乃さん
シンシアさんの考えに興味津々の木下さん
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紫乃ママ:すごく潔いですね。 私は甘えているんです。

シンシアさん「助けは喜んで受ける。でも、私から頼ませないで」

シンシアさん:私も助けてもらえるなら喜んで受けます。でも、こちらから頼むのは嫌。自分からは言いません。

――シンシアさんに頼まれたら、うれしい人もいるのでは?

シンシアさん:もしうれしいなら、私が頼むまで待たないでほしい。なんで私の口から言わせるの?

紫乃ママ:シンシアさんらしい。面白すぎる。

左から木下紫乃さん、薄井シンシアさん
木下さんは「シンシアさんらしい。面白すぎる」
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シンシアさん:私は人のために何かをする時、相手から頼まれる前に手を挙げます。例えば外交官夫人時代はバザーなど、やらなくてはいけないイベントがたくさんありました。そういう時は上司の夫人に頼まれる前に、自分から「やらせてください」「ここは私がやるので、ほかをお願いできますか?」と手を挙げました。だって上から頼まれたら断れないでしょう? 上は頼みにくいと思います。

もし私のために何かをしたいなら、なぜ私の口から言わせるの? 私のためにすることがうれしいなら、なんで私が頼むまで待つの? と思います。

紫乃ママ:でも、人の願いってわからないじゃないですか? シンシアさんが何をしてほしいのか、周りにはわからない。

薄井シンシアさん
「これをしてあげたいけど、どうですか?」と聞くという
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シンシアさん:それなら「これ、いりますか?」って聞けばいい。私なら「これをしてあげたいけど、どうですか?」と聞きます。

シンシアさん「日本人の『そっとしておく』という考えは冷たい」

シンシアさん:外交官夫人として海外に住んでいた時、ある人が若くして大病をしました。その時、日本人は職場の上司が「〇〇さんの家はいま大変だから、そっとしておきましょう」と言って、何も動きませんでした。でもアメリカ人たちは「子どもを預かるよ」「ご飯を持ってきたよ」と一斉に具体的な行動を取りました。

紫乃ママ:それはわかります。日本人は「何かあったら、言ってください」と言いますよね。

木下紫乃さん
木下さんもシンシアさんの考えに「それはわかります」
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シンシアさん:日本人は本当に冷たい。私たちが東南アジアに赴任していた時、ある日本人の家族が旅先で災害にあい、旦那さんと子どもが亡くなって、奥さんが一人で戻ってきたことがありました。奥さんは、家族が最後に触れたものを動かしたくないから、ずっと家から出られない。そういう時、日本人は「そっとしておきましょう」なんです。でも彼女は家で、ずっと一人。私は日本人じゃないので積極的に彼女を訪ねて外に誘い出しました。彼女は、まだ子どもと一緒にいる気持ちだったので、彼女とホテルへ食事に行った時は、店に頼んで、子どもの席を用意してもらいました。「〇〇の食事も頼もうね」と、子どもの分の料理も注文しました。

学校も一丸となって彼女を守ったけれど、日本人は学校から職場まで誰も彼女と関わらなかった。関わると、自分たちが居心地が悪い思いをするからだと思います。私は日本人の「そっとしておきましょう」という考え方がまったく理解できません。

だから私は、人に何かをしてあげたい時は、相手が頼むのを待たずに自分から声をかけます。だから、私のために何かをしたいと思う人がいるなら、なぜ私が頼むまで待つの? と思います。

紫乃ママ「忖度はつまらないし、チャンスを逃す」

――シンシアさんを誘いたくても「忙しいかもしれない」と遠慮する?

紫乃ママ:それは日本人的な発想。私はおせっかいだから結構、声をかけます。だって忙しければ「忙しい」と言うだろうから、断られたら「タイミングが今じゃない」と思えばいいだけでしょう? 私は日本人だけど、自分で勝手に忖度しても結局相手の気持ちなんてわからないし、自分のチャンスを逃すことだと思います。

シンシアさんは「思い立ったその時に声をかけた方がいい」と語る
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自分だって、例えばその相手といつでも変わらずお茶を飲みたいわけではないじゃないですか? 「ああ、あの人とお茶が飲みたいな」と思ったら、今しかない。タイミングを逃せば、次はいつになるのかわからない。特に私たちは後ろが短いから、いま自分が健康でも、明日は交通事故に遭って、もう会えないかもしれない。だから、思い立ったその時に声をかけた方がいいと思います。

紫乃ママ「言っちゃって、やっちゃって、ダメなら向こうが断るだけ」

紫乃ママ:シンシアさんの「そっとしておこう」じゃないけれど、考えすぎて忖度する人は、すごく多い。それってどうなの? 私は言っちゃって、やっちゃって、ダメなら向こうが断るだけ、の話だと思います。

以前、大学院へ進学するかどうかを迷っていた40代の女性に相談を受けたことがありました。彼女は進学準備までして迷っていたから、私は「行けばいいじゃん」と言いました。すると彼女が「学びたい先生がいるけれど、その先生にメールを出していいかどうか迷っている」と言うんですね。正直「え、そこから迷うの?」って思ったんですが、「出せばいいんじゃない?」と私が言うと、彼女は「失礼じゃないですかね? 返事が来なかったらどうしよう」と。

木下紫乃さん
「返事が来なければ、それまで」という
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失礼かどうかは相手が決めることだし、返事が来なければ、それまで。もしどうしても返事が欲しければ、もう1回メールを出せばいいだけの話でしょう?「自分なりに失礼にならない内容で送ればいいんじゃない?もし、それを相手が失礼だと思えば、そういう相性だったと思うしかないよ」と言いました。相手の気持ちなんてわからないものをずっと考えてても答えはでないし時間がいくらあっても足りない。

シンシアさん「なんで、それで傷つくの?」

紫乃ママ:断られる嫌さを味わいたくない。メールを出すならちゃんと返事をもらいたいと思っているんでしょうね。一発目からうまくいくかはわからない。押しても駄目なら引いてみろ、ですよ。もし返事が来なければ、もっと緊急性を出すとか、「私がゼミに入ったら、こんな風に役立ちます」ぐらいの話を盛って伝えればいい。欲しいものがあるなら、手を変え品を変えて全力で取りに行かなきゃ。でも多くの人は結構ナイーブというか、一度でも断られると「やっぱりダメだ」と考える女性がすごく多い。私からすると、「なんでこんなことで傷つくの?」「そんなことで傷つかないでよ」と思ってしまいます。

シンシアさん:なんで、それで傷つくんでしょうね? 今まで、すべてを用意してもらっていたのかな?

薄井シンシアさん
木下さんとの対談は大いに盛り上がった
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紫乃ママ:断られたりすると「自分が認められない」と思っちゃうんでしょうね。普段から、自分にはあまり価値がないと思っているのかもしれない。

シンシアさん:最近、街中で声をかけられますが、みんな30代。今の30代はとても元気だから、上の世代とはちょっと違うかも。

紫乃ママ:45歳ぐらいから上の世代は、古い価値観からなかなか脱却できないけれど、世の中は変わってきていますよね。というか、若い人たちはそこについていくのがちょっと難しくなっている。

シンシアさん:こちらをチラチラッと見て「シンシアさんですよね?」と話しかけてくるのは、みんな娘と同じ30代です。

左から木下紫乃さん、薄井シンシアさん
左から木下紫乃さん、薄井シンシアさん
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◆薄井シンシアさん

1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社。65歳からはGIVEのフェーズに。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia

◆木下紫乃さん

和歌山県出身。慶應義塾大学卒業後、リクルート入社。数社の転職を経て、45歳で大学院に入学。2016年に中高年のキャリアデザイン支援の人材育成会社「ヒキダシ」を設立。2017年、東京・麻布十番に週1回営業する「スナックひきだし」を開店し、2020年に赤坂へ移転。スナックのママとして、のべ3000人以上の人生相談を聞く傍ら、55歳で社会福祉士の資格を取得。現在は毎週木曜日14時〜18時に在店。離婚2回、家出2回、再婚3回。キャッチフレーズは「どこに出しても恥ずかしい人生」。近著に『昼スナックママが教える 45歳からの「やりたくないこと」をやめる勇気』(日経BP)。@Shinochan6809

撮影/小山志麻 構成/藤森かもめ

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