
更年期症状の画期的な治療法として普及しているのが、ホルモン補充療法(以下・HRT)だ。効果を得るためには守るべきことも少なくない。正しい情報を知ったうえで婦人科に相談しよう。よくあがる疑問に、女性の健康とメノポーズ協会理事長・三羽良枝さんと、産婦人科医の八田真理子さんに聞いた。
- Q.喫煙者でも受けられる?
- Q.BMI25以上のぽっちゃり体形でも受けられる?
- Q.ピルを服薬中でも切り替えられる?
- Q.高血圧の薬をのんでいても受けられる?
- Q.糖尿病の持病があっても受けられる?
- Q.子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症があっても受けられる?
- Q.HRTを始めるタイミングは?
- Q.60代・70代からでも始められる?
- Q.いつまで続けたらいい?
- Q.一度やめても再開できる?
- Q.薬をのみ忘れたり、貼り忘れたりしたら?
- Q.HRTが受けられないのはどんな人?
- Q.治療中、出血すると聞いたけど……
- Q.併用してはいけない薬は?
- 保険適用外の最新治療 アンチエイジングにも効果的な「ナチュラルホルモン補充療法」
Q.喫煙者でも受けられる?
A.絶対に受けられないわけではないが……

喫煙者=治療NGではないものの注意点がある。
「経口のエストロゲン製剤を使用した場合は、喫煙によって血液中のエストロゲンレベルが下がって効果が弱まるという報告も。治療効果を上げるためにも、まずは禁煙しましょう」(八田さん)
Q.BMI25以上のぽっちゃり体形でも受けられる?
A.受けられるが、血栓のリスクが高い
「BMI25以上の人は心血管疾患や血栓症のリスクが高い。そういう人に、HRTの経口エストロゲン製剤などを処方すると血栓のリスクがさらに高まるので、治療は医師に相談を」(三羽さん)

Q.ピルを服薬中でも切り替えられる?
A.50才をめどにHRTへの切り替えを
生理にまつわる症状の改善、避妊などを目的としたピル(低用量経口避妊薬)は、HRTで用いるエストロゲン活性よりも数倍強く、含まれる黄体ホルモンもHRTとは種類が異なる。副作用が強く出たり、静脈血栓塞栓症のリスクが高まったりもするという。
「40才を過ぎたら、平均閉経年齢とされる50.5才までにHRTへの切り替えが必須です。主治医と相談して時期を決めましょう」(三羽さん)
Q.高血圧の薬をのんでいても受けられる?
A.血圧を薬でコントロールできていればOK
「血圧の高い状態(高血圧)が続くと、動脈硬化による脳卒中のリスクが高まります。ですからHRTより前に、血圧をコントロールする治療の方が優先です。
高血圧の薬を服用し、血圧がコントロールできていれば問題はありませんが、投薬治療をしていても目標とする血圧に達していない場合は、HRTを受けられないこともあります。血圧の薬をのんでいる場合は、まず主治医に相談してみてください」(八田さん)
Q.糖尿病の持病があっても受けられる?
A.血糖コントロールができていれば可能性あり
糖尿病で注意すべきは合併症。その発症を防ぐためにも、薬で血糖コントロールをすることが最優先だという。HRTを受けるには、血糖コントロールと併せて、血圧や脂質がコントロールできているかもチェックされる。狭心症や心筋梗塞など、動脈硬化性疾患にかかっていないかも調べる必要が。糖尿病未病の場合でも、HRTを受けるなら、血糖値を安定させながら行わなければいけないことを覚えておこう。
Q.子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症があっても受けられる?
A.かかりつけ医に相談が必要
これらの病気の進行にはエストロゲンがかかわっているため、HRTを受けることで、子宮筋腫が大きくなったり、子宮内膜症が悪化したりする危険性もあるという。
「ただし、HRTの影響は人それぞれなので一概には言えません。私自身、子宮内膜症で、エストロゲンの数値が高かったため、閉経を待ってからHRTを始めました。婦人科医に相談して進めましょう」(八田さん)
Q.HRTを始めるタイミングは?
A.女性ホルモン値を目安に決める
ホットフラッシュや外陰部の乾燥、性交痛、うつ気分など複数の症状が気になりだしたら、始めるタイミング。
「閉経後早めがよいですね。血液検査で女性ホルモンの数値を調べることも。血中エストラジオールが低く(10~30pg/ml以下)、卵胞刺激ホルモン(30~40mlU/ml以上)が上昇していれば、不調も起きやすく、HRTの始めどきでしょう」(三羽さん)
ただし、診断には医療機関によって多少の差がある。
Q.60代・70代からでも始められる?
A.病気のリスクが高まるのでおすすめしない

「60代や70代になってから始めると、心血管疾患や血栓症などのリスクが高まります。60才以上で更年期症状がつらい場合は、医師に相談を。エストロゲンと似た働きをするエクオール成分含有のサプリメントなども検討して」(八田さん)
Q.いつまで続けたらいい?
A.50代で始めれば一生続けられる
高齢からの開始はおすすめできないが、更年期から始めれば、必要に応じて一生続けられる。
「HRTには骨粗しょう症の予防や、コレステロール値の上昇を抑える効果などもあるので、一生続けても問題ありません。ただし、定期的な血液検査や、乳がん検診などは必ず受けて」(八田さん)
65才を過ぎると保険適用外になるが、年齢とともに薬の量も減るうえ、窓口負担の割合が減るので、大きな負担にはならなさそうだ。
Q.一度やめても再開できる?
A.中止も再開も自由だが、必ず医師に相談を
更年期の諸症状が続く期間は、人によってさまざま。短期間で終わる人がいる一方で、長い人では10年以上続く場合もある。
「HRTはいつやめても問題ないので、一度やめたいと思ったら医師に相談してみることです。やめたものの、やはりHRTをしていた方が調子がよいと実感し、再開を希望する場合も医師に相談して問題がなければ再開できます。HRT使用期間の制限はありません」(三羽さん)
Q.薬をのみ忘れたり、貼り忘れたりしたら?
A.1日くらいなら忘れても大丈夫

家事や仕事、介護に忙しい更年期世代。うっかり服薬を忘れることもあるだろう。
「1日なら忘れても問題ありません。気がついた時点で摂取を。数日間だと出血することがあるので、医師に相談して」(三羽さん)。
Q.HRTが受けられないのはどんな人?
A.乳がん、心筋梗塞、脳卒中などの経験者

HRTで乳がんのリスクは上がらないが、乳がんの治療中の人や経過観察中の人、過去にかかった人は受けられないという。狭心症や心筋梗塞、脳卒中、深部静脈血栓症などを過去に患ったことのある人も不可となる。
「経口エストロゲン製剤が、このような病気の再発リスクを高めるとされているからです。経皮エストロゲン製剤にはそのような報告はないのですが、積極的におすすめはしていません」(八田さん)
Q.治療中、出血すると聞いたけど……
A.不安な場合は医師に相談を

HRTには「周期的併用療法」と「持続的併用療法」がある。どちらも子宮のある女性に向けた治療法で、「周期的併用療法」は、エストロゲン製剤を毎日、黄体ホルモン製剤を10~14日間併用する。
「持続的併用療法」は、エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤を毎日使用する。前者が出血を伴うのに対し、後者は出血が起きないとされるが、最初の数か月間は出血する可能性もある。不安な場合は療法や薬量を変えれば調整できるので医師に相談して。
Q.併用してはいけない薬は?
A.エストロゲンに影響を与える薬は不可
エストロゲンは体内に吸収されると肝臓内で「チトクロームP-450 3A4」という酵素によって分解されるため、酵素の働きに影響を与える薬は、血液中のエストロゲンの濃度に影響を及ぼす。その結果、HRTの効果を弱めたり、強めたりするので、併用して薬をのむ場合は医師や薬剤師に相談しよう。
エストロゲンの効果を亢進する可能性のある薬
HIVプロテアーゼ(抗HIV薬)
マクロライド系抗生物質
イミダゾール系抗真菌剤
トリアゾール系真菌剤 など
エストロゲンの効果を弱める可能性のある薬
リファンピシン(抗結核剤)
バルビツール酸系製剤(睡眠薬、鎮静薬)
カルマバゼピン(てんかん、三叉神経痛治療薬)
セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート/サプリメント)含有食品 など
保険適用外の最新治療 アンチエイジングにも効果的な「ナチュラルホルモン補充療法」
更年期の諸症状を改善するための一般的なHRTとは別に、自然由来の成分が原料のホルモン製剤を使用した最新の治療法がある。それが、「ナチュラルホルモン補充療法」だ。
「一般的なHRTに用いられているのは合成ホルモンで、これは化学構造が人体のそれとは異なります。ナチュラルホルモン補充療法は、いもやオリーブオイルなどの植物を原料に、人体に存在するホルモンとまったく同じ化学式の“ナチュラルホルモン”を取り入れます」(渋谷セントラルクリニック院長・河村優子さん)

更年期に減るのは、エストロゲンや黄体ホルモンといった女性ホルモンだけではない。グラフにあるように、テストステロン、成長ホルモン、DHEA、メラトニンといったさまざまなホルモンが減少する。ナチュラルホルモン補充療法では、こういった女性ホルモン以外のホルモンもバランスよく補充するという。
「体全体のホルモン量を整える治療法と考えてください」(河村さん)
これにより、更年期症状の改善だけでなく、生活習慣病の予防やアンチエイジングも期待できるという。診療には食事指導なども含まれ、費用は1か月に3万~5万円ほど(保険適用外)。50代からの不調を改善・予防する方法のひとつとして知っておきたい。
◆教えてくれたのは:公益社団法人女性の健康とメノポーズ協会理事長・三羽良枝さん
1996年、現協会の前身となるボランティア団体「メノポーズを考える会」を設立。以後、国内外で健康調査などの活動を展開し、女性の生涯を通した健康作りとよりよい働き方の啓発とサポート活動を実施。女性の健康とメノポーズ協会https://www.meno-sg.net
◆教えてくれたのは:聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田理事長・院長・八田真理子さん
順天堂大学、千葉大学医学部附属病院、松戸市立総合医療センターなどを経て1998年、現クリニックを開業。著書に『自分でできる! 女性ホルモン高めかた講座』(PHP研究所)、『産婦人科医が教えるオトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)など多数。聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田 http://juno-vesta-clinic-hatta.net/
◆教えてくれたのは:渋谷セントラルクリニック院長・河村優子さん
2009年、医師の大友博之さんと共同で新しいエイジング治療を目指す渋谷セントラルクリニックを設立。日本抗加齢医学会専門医、日本麻酔科学会専門医、日本女性医学会会員。渋谷セントラルクリニックhttps://doctors-gym.com
参考資料/最新版『ホルモン補充療法(HRT)ガイドライン2017年度版』
取材・文/上村久留美
※女性セブン2024年11月21日号