《更年期に指に不調が生じたら…》「曲がったまま戻らない」「第一関節が変形」「付け根が腫れる」は早めの適切なケアがカギ 50代以上の女性がなりやすい手指の病気の症状と治療法

更年期症状を感じている女性のうち約7割が「手指の不調」を自覚しながらも、「重症ではない」などの理由で医療機関を受診していないことがわかった(※)。放置したり、見当違いの診療科で診察を受けると、悪化して痛みや腫れが生じたり、再発したり、関節が曲がったまま戻らなくなったりすることも。そういった実際の症例と、同様のケースに陥らないために、私たちがするべき“意外な方法”を紹介する。
※大塚製薬株式会社ニュートラシューティカルズ事業部「女性の健康推進プロジェクト」が、50~64才の一般女性207名を対象にインターネットで「更年期の手指の不調に関する調査」を実施(2024年7月26日~8月7日)。
朝起きたら、右手の中指が第二関節から90度に折れたまま固まり戻らなくなった
「2年前のこと。朝起きたら、右手の中指が第二関節から90度に折れたまま固まって、戻らなくなったんです。無理やり伸ばしたら元に戻り、痛みも腫れもなかったので、そのまま仕事に向かいました」とは、東京都在住のKさん(51才)だ。寝違えたのだろうか……。不思議に思いつつもいつものようにデスクワークを始めたという。特に違和感もなく、パソコンのキーボードはいつも通りに叩けた。しかし……。
「3日後にまた同じ症状が起こり、戻してもまたすぐにカクンカクンと、ばねのように曲がるように。それでも痛みはなく、生活するのに不自由がなかったので放っておいたんです。すると2か月後、指の根元が腫れ、突き指のような痛みを感じるようになりました」
別件で皮膚科に行った際、ついでに相談すると、「腱鞘炎ではないか」と言われ、整形外科を受診した。するとここでも同じ診断。
「症状が軽いから、手を休めておけばいいでしょう」
と言われ、様子を見ることになった。昔、ピアノの先生も40代で腱鞘炎になっていたことを思い出し、自分もキーボードの打ちすぎなのだと信じ込んだ。しかしこれがいけなかった。
「痛みがひどくなっていったんです。ツボ押しがいいと聞いたのでやってみたところ、その瞬間は痛みが引くのですが、すぐにぶり返して…。別の整形外科で診てもらったところ“ばね指”と診断され、ステロイドを注射してもらいました」

中指はこれで治った。ところが1年後、左手の人差し指に同様の症状が現れた。
「すぐに前回と同じ整形外科に行きましたが、今度はいきなり手術すると言われて…。日帰りでできるとはいえ、術後10日は仕事も家事もできませんでした」
人差し指も完治したが、半年たったいま、別の指に違和感があるという。
「母も70代でばね指になりました。家事をしてきた女性は皆、年を取ったら手指の使いすぎで何らかの症状が出るのだろうと思っていました。でも40代で発症し、このまま一生つきあわないといけないとは……」
と、ため息をつくKさん。彼女の対処について、皆さんはどう思うだろうか――。
エストロゲンの減少が手指の不調の原因だった!?
Kさんのようなケースは多い、と手の外科医・平瀬雄一さんは言う。正しい知識で適切に対応すれば完治も可能というその方法とは?
女性ホルモンが減少すると手指にも影響が
手指の関節が痛い、腫れてきた――。こうした症状が出たら、まず思いつくのは、腱鞘炎や突き指ではないだろうか。Kさんの行動についてあえて指摘するなら、「放っておいたことがまずい」と言えるかもしれない。それ以外で問題は感じられないが……。
「そもそも、“使いすぎによる腱鞘炎”という診断に疑問を感じます。ピアニストや一部のスポーツ選手ならまだしも、長年パソコンのキーボードを毎日叩いたり、高齢になるまで家事を担う程度の使い方では腱鞘炎になりません」
と言うのは手の外科医・平瀬雄一さんだ。
「50代以上の女性で更年期の症状があり、かつ指に不調が生じた場合、手指の不調を専門としている手外科と婦人科を受診する、ということを覚えておいてほしいです」(平瀬さん・以下同)
というのも、女性の手指の不調は更年期症状のひとつで、女性ホルモンのエストロゲンの減少で起こることが多いという。
「エストロゲンは、髪や肌を若々しく保ったり、骨を丈夫にしたり、代謝を促して太りにくくしたりするほか、さまざまな働きをします。関節や腱、腱鞘の周囲にある滑膜に炎症を起こさないようにするのもエストロゲンの役割。しかし、更年期でエストロゲンが減少すると関節や腱などの周辺に炎症が起こりやすくなり、手指に不調が現れるのです」
よく知られる更年期症状としては、のぼせやほてり、ホットフラッシュなどが挙げられるが、手のこわばりや指の関節痛を訴える人も多い。更年期症状を感じている女性の71%が、手指の不調を自覚しているというデータもある(前出・大塚製薬調べ)。
「手指の不調については、症状があっても自覚していないケースもあり、そうした人たちを含めると、約90%の更年期女性に手指に関する症状が現れているという報告もあります」
一般的に45才から55才くらいまでを更年期とするため、この年代でホットフラッシュなどの症状とともに手指に違和感があれば、婦人科と併せて手外科へ。特に痛みや腫れがある場合は、悪化する前に手外科を受診した方がよさそうだ。
「エストロゲンと同じような働きをする大豆イソフラボン由来の成分“エクオール”配合のサプリメントをのむことで、不調が解消されることもあります」
変形した指は二度と元に戻らない
ではなぜ、一般整形外科ではだめなのか。
「だめではありません。痛みや炎症が出た場合の処置や、腫れや変形の外科的治療は整形外科が適しています。ただ、更年期の初期段階では、手指に多少の痛みが出ても、変形まではしませんから、レントゲンを撮っても異常が認められないケースがほとんど。
この段階では診断がしづらく、適切な治療ができないケースが多いのです。エストロゲンの減少と手指の症状との関連を適切に説明できる医師は手外科の専門医以外では多くはありません。
とはいえ放置すると、やがては腫れたり痛みが出るなど病状が進行したり、Kさんのように治しても別の指に症状が出たりして、最終的には、ばね指やヘバーデン結節、ブシャール結節といった病気となり、指を変形させてしまうこともあります」

一度変形してしまった手指は痛みを取ったり手術をしたりしても元には戻らない。だからこそ、早めに適切なケアをすることが重要なのだ。
朝15分のこわばりを軽視しないこと!
手指のケアや治療は早ければ早いほどいいが、どの段階から始めたらよいのだろうか。
「たとえば40代半ば以降で、朝起きたときに手指にこわばりなどの違和感が15分ほど続く、手指が痛む日もあれば痛まない日もある、といった症状が出たときに手外科を受診すれば、不調は解消され、重症化を避けられるはずです。近くの手外科専門医は、日本手外科学会のホームページから検索できます」
また、血流の悪さが症状を悪化させるため、日頃から就寝時に手を冷やさないように手袋をしたり、血行を改善するビタミンEのサプリメントを摂ったりするセルフケアは、症状の有無に関係なく早めに行っておくのがおすすめだという。
年齢は手に出やすいともいわれる。早めのケアと正しい治療で、健康で美しい手指を維持したい。
初期はエクオールで改善!50代以上の女性がなりやすい手指の病気
50代以上の女性がなりやすい手指の病気の症状と治療法を紹介する。初期はエクオールで改善できることが多い。
ばね指

症状:腱と腱鞘の間で炎症が起こり、指が曲がったまま伸びにくくなる。進行すると指を伸ばそうとしたときに引っ掛かり、ばねのように急に伸びる。
治療法:初期はエクオールで改善するが、一般的に腱鞘内にステロイド注射をする。注射ができるのは3回まで。その後は腱鞘の一部を切る手術を。
ヘバーデン結節

症状:指の第一関節の軟骨が摩耗することで、そこが腫れてこぶのようになって曲がる。強い痛みがあり、水ぶくれのような粘液嚢腫が生じることも。
治療法:初期はエクオールを服用し、テーピングをして薬物療法、アイシングなどを行う。痛い場合は関節内にステロイド注射。悪化したら手術も。
ブシャール結節

症状:第二関節の軟骨が摩耗することで、そこが腫れてこぶのようになって曲がる。ペンや箸をうまく使えないなど日常生活に不便さを感じることも。
治療法:初期はエクオールを服用しつつ、関節内にステロイド注射をする。悪化したら、腱の一部を切除する手術や人工関節を入れる手術などを行う。
手根管症候群

症状:手首にある手根管を通る正中神経が圧迫されて神経まひを起こす。進行すると上図の斜線部に痛みやしびれを感じ、ペンや箸を使うのが困難に。
治療法:2~3か月おきに手根管にステロイド注射を行う。改善が見られない場合は手術で、神経を圧迫している靱帯を切開してまひを解消する。
ドケルバン病

症状:短母指伸筋腱と長母指外転筋腱が腱鞘部分で炎症を起こし、腱の動きが悪くなる。親指の付け根あたりが腫れて痛み、親指が伸ばしにくくなる。
治療法:腱鞘内へのステロイド注射を行う。改善しない場合は腱鞘を切って、2本の腱を開放する手術をする。傷は小さくて済み、10分程度で終わる。
母指CM関節症

症状:母指CM関節を支える靱帯がゆるくなったり、関節が変形してズレたりすると、親指の付け根が腫れて痛み、瓶の蓋などが開けられなくなる。
治療法:関節を保護する装具を装着。痛みがある場合は、関節内にステロイド注射を行う。痛みが取れない、変形がひどい場合は手術をする。
◆教えてくれたのは:四谷メディカルキューブ 手の外科・マイクロサージャリーセンター・平瀬雄一さん
米国デービスメディカルセンター客員教授、慈恵医大柏病院形成外科医長、埼玉成恵会病院形成外科部長を経て、現クリニックのセンター長に就任。著書に『私の手はなぜ痛いのか、しびれるのか、曲がっているのか』(幻冬舎)など。
取材・文/上村久留美
※女性セブン2024年12月5日号