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《倉田真由美さんが語る最愛夫の死後の大問題3》「夫が浮気していないわけがない」「怖いのは一周忌が終わった後のこと」

数々の思い出を語ってくれた漫画家の倉田真由美さん
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今年2月16日、最愛の夫・叶井俊太郎さんを自宅で看取った漫画家の倉田真由美さん。叶井さんといえば、映画プロデューサーとして「アメリ」など数々のヒット作に関わりながらも、離婚歴が3回、女性経験人数は600人以上、自己破産も経験するという破天荒な生き様でも知られた。 

そんな叶井さんのことを、倉田さんは「最高の夫」と語り、漫画やDVD、スマートフォンまで、思い出の品物を大切にしていると話す。まもなく、叶井さん亡き後に初めて迎えるクリスマス、そして年末年始が近づいてくる。思い出から夫婦観、そして葬儀とお金に関する話題まで、語り尽くす。 【全3回の最終回】

夫と感覚が似ているのが良かった 

――叶井さんは死ぬのは怖くないと言いながらも、『ベルセルク』など、好きな漫画の最終回が読めなくなるのが残念だと言っていました。 

倉田:そうそう。いま読んでいる漫画が、全部終わってくれないかなと言っていました。「最終回が見たいから」ってね。 

夫の叶井俊太郎さんとは感覚が似ていた
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――叶井さんの好きな漫画トップ3を挙げるとしたら、なんでしょうか。 

倉田:そういう質問はよくあって、タイミングによってちょくちょく変わるんだけれど、最後に答えたのは『寄生獣』『ブラック・ジャック』『闇金ウシジマくん』でした。この3作品は私も大好きで、やっぱり夫とは趣味が合っていたんだなと思います。 

棚には叶井俊太郎さんが好きなマンガが並ぶ
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――夫婦生活は、違うタイプの人と付き合ったほうがうまくいくという意見もありますが、どう思われますか。 

倉田:違ったら違ったで面白いかもしれないけれど、私は夫と感覚が似ているからよかったと思います。好みが似るというのは、考えが近いということだし、感受性も近いから揉めにくい気がしました。以前、まったく感覚が合わない彼氏と付き合ったことがあります。デートで映画館に行ったとき、彼は邦画のコメディを選びました。見てみたらまあまあ面白くて、自分が普段見ないものを見る楽しさはあると思ったけれど、それって継続しないんですよ。また次もコメディを見ようかな、とはならなかった。やっぱり私は洋画やホラー、サスペンス、アクションが好きですからね。 

一度もけんかをしたことがない 

――叶井さんとけんかをしたことはあるんですか。 

倉田:結婚してから一度もけんかしませんでした。ちょっとイラッとしたことはあったかもしれないけれど、声を荒げることはありませんでしたね。もちろん夫が子供とけんかしたこともありませんし。今思えば、夫婦生活で揉めることはなかったし、何一つ我慢しなくて済みました。家の中にストレスがないって、すごくいいことだと思います。 

夫婦生活で一度も揉めることはなかった
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――それは、倉田さんが叶井さんのすべてを受け入れていたから、なのでしょうか。 

倉田:夫はダメなところもたくさんありますよ。遺産20万とかね(笑い)。お金のことで言えば、家にお金を3万円しか入れていないこともあったし。でも、そこは許せたんです。それよりも、私は自由を束縛されるほうが嫌なんだろうな。それに、結婚生活のなかで、浮気している可能性だってあったかもしれない。夫の性格的に、浮気がないこと自体が考えにくいですからね。

でも、浮気がショックかというと、私にはショックでもなんでもないんです。だって、そういう人だとわかっているんだもん。浮気がバレたところで想定の範囲でしかなかったから、私の愛情が変わるわけないし、夫も離婚して別の人と一緒になろうとは思わなかったはずです。もともと何百人切りとかで有名だったわけでしょ。結婚してから急に女性と関係を持たなくなるなんて、むしろそっちのほうがおかしいじゃない。 

――逆に、絶対に許せないことはなんですか。 

倉田:キレて怒鳴ったり、暴力を振るわれることですね。私は浮気よりも殴られるほうが嫌だし、自由を制限するほうがはるかに許せないんです。 

――世の中の夫婦関係のトラブルは、お金と女性関係が9割以上という説もあります。 

倉田:うちは、そういうところは気にしなかったですね。私は夫の給料は知らないし、夫が家に入れてくれるお金もまちまちで、家賃も光熱費も私が払っていました。夫は臨時収入があってもポーンと何か買ってしまうから、私が知らないところでお金が右から左に流れている。でも、最初から夫にお金のことは期待していないし、そこを求めていたら結婚していなかったですね。 

夫がいないクリスマスを迎えるのが寂しい 

――叶井さん亡き後、初めて迎えるクリスマスや年末年始が近づいています。 

倉田:夫はイベントにこだわる人だったんですよ。私の誕生日にはこだわっていなかったけれどね(笑い)。例えば、クリスマスには絶対にケーキを食べたいという人でした。昨年のイヴに、「イヴのケーキっていまいちだし、ずらして食べる?」と聞いたら、「ケーキはイヴに食べたいんだよ」と言われたので買いました。イベントを大事にする人だし、考えてみたらそうだよなと納得しましたね。でも、そのときはこれが最後のクリスマスになるとは思っていなかったし、最後になるならもっと喜ばせることを考えてもよかったと思います。

今年の元旦は娘と3人で初詣に行きました。自転車で近くの神社に行ったら、長蛇の列。お参りするのに1時間半かかると聞こえてきたので、帰ってしまいましたけれどね。その前の正月は近所のスーパーで、つくだ煮とか、黒豆とか、伊達巻といった夫が好きな甘いものを買いましたね。伊達巻といえば、私が作ったときに「ママの伊達巻は好きじゃない」と言われて以来、既製品を買っていたんだけれど(笑い)。 

家族で行った唯一の海外旅行がグアムだった
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――せっかくの奥さんの手料理なのに。 

倉田:夫は、私の料理はあんまり好みではなかったみたいですね。これも、女性によってはキレるポイントかもしれない。「ママのご飯は味が薄いんだよ」と言われたことがあるし、特に私が作ったスイーツは味が薄くて好みではないらしく、一度も食べませんでした。夫はマックやケンタやファミチキみたいな、ジャンクでギトギトしたものが好きだから、低糖質で高たんぱくなスイーツは舌に合わなかったみたいです。 

――夫婦生活では、奥さんが作る料理にはおいしいと言わなきゃいけない雰囲気って、ありますよね。倉田さんは気にならなかったんですか。 

倉田:まったく腹が立ちませんでした。仕方ないじゃん、舌に合わないんだから。無理においしいよと言われるより、私はそのほうが楽ちんですね。料理は私のキレポイントではまったくなかったんです。そういうところも含めて、夫と相性が良かったんですよ。

――新しい年を迎えたら、一周忌が控えています。 

倉田:怖いのは、いまだと毎日のように、去年の今頃は夫がいたなと思えるわけ。でも、一周忌を過ぎちゃうと、去年の今頃……と振り返ることができなくなるのが悲しいですね。余命宣告も何度も裏切ったから、いまでも、もっと生きると思っていたけれどな、と感じてしまいます。そう思えるのも、やはり私にとって最高の夫だったからだと思います。

取材・文/山内貴範

叶井俊太郎さんのスマホは、いまも契約を継続している
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叶井俊太郎さん皿を洗うときに愛用していた魚型のスポンジ
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