健康・医療

薬が体に害を及ぼすことも…「糖尿病薬で血栓」「降圧剤で血流低下による酸素不足」「コレステロールを下げる薬ががんリスクに」 服用前に知っておくべきこと

薬が体に害を及ぼすこともある(写真/PIXTA)
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薬の歴史は古く、日本では縄文時代の住居跡から薬として使用されたと思われる植物が見つかった。薬草や昆虫、鉱物、ひいては医食同源として食事を薬とした時代を経て、いま私たちが口にする薬はその多くが化学物質だ。自然由来ではないその一錠、一包はかえってあなたの体に不都合な事態を招いているかもしれない──。

3000品目以上が手に入りづらい状態

この秋、マイコプラズマ肺炎が類を見ないペースで流行し、過去最多の患者数となるなか、薬の供給不足が問題となっている。もっとも逼迫しているのは咳止め薬だが、ほかにも高血圧の薬など、およそ3000品目以上の医薬品が手に入りづらい状態が続いている。背景には、感染症の流行に加え、ジェネリック医薬品の出荷制限・停止などがある。これを機に「薬の見直し」をしたと話すのは、東京都の主婦・Aさん(47才)だ。

薬をやめてから体調のよさを感じた(写真/PIXTA)
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「昔から体調が悪くなるとすぐに薬に頼るタイプで、頭痛や生理痛、便秘、胃痛など、処方薬から市販薬まであらゆる薬を“お守り”にして持っていました。でも、少し前からいくつかの常備薬が手に入りにくくなったんです。ないなら仕方がないと、薬をのまずにやり過ごしていたら、これまでにない体調のよさを感じ始めました。

多剤併用のデメリットより、目の前の痛みをとることが大事と思っていましたが、薬をやめてみて初めて、いかに自分が薬によって“体調を崩していたか”がわかったんです」

インスリンが発生させる活性酵素

加齢とともに、薬の種類が増える人は少なくなく、その目的はもちろん「不調や病気を治す」ことにある。特に、糖尿病や高血圧など命にかかわる病気については、健康診断などで異常値となった場合、「まずは投薬治療」と薬を処方されるケースがほとんどだ。

しかし、内科医の水野雅登さんは、薬がかえって体に害を及ぼすことがあると指摘する。

「糖尿病の薬にはいくつかの種類がありますが、インスリン注射やインスリンの分泌を増やす『SU薬』には注意が必要です。インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンで、体に必要最低限なくてはならないものですが、人類の歴史上、この薬ができるまではインスリンが体内にドバドバ存在することはありませんでした。インスリン投与や投薬によって、必要以上に体内に存在すれば、問題が起きます」

薬を多用することで、インスリン分泌力が低下し薬が効かなくなるケースもある(写真/PIXTA)
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それは、インスリンが作用するステップに起因すると水野さんは続ける。

「インスリンは作用するときに多くの段階を経ますが、その各段階で細胞内に活性酸素を発生させます。通常であれば活性酸素は細胞にとって“毒”なので、体は活性酸素を除去するように動きますが、インスリンが働いているとそのシステムが停止する。活性酸素は細胞にダメージを与えるばかりか、血管を傷つける。そこにコレステロールなどがくっつくので血栓の原因になります」

活性酸素の発生で、糖尿病に起因する合併症も起こしやすくなる。

「細胞の酸化が、失明リスクのある糖尿病性網膜症や人工透析が必要となる糖尿病性腎症などの原因になると考えられています。漫然とした投与は体に害を及ぼす恐れがあるということ。実際に、高インスリン血症が大腸がんリスクなどの上昇に関係している、とする研究もあります。

SU薬は24時間、インスリンを出し続けるので、低血糖になり意識低下などのリスクがある。また、血糖値が下がって空腹感を覚えやすくなり、食欲過多で糖尿病を悪化させることすらあります」(水野さん)

薬剤師の長澤育弘さんは、恒常性の観点からインスリンの過剰投与のリスクをこう解説する。

「人間の体には『恒常性』という能力があり、体のバランスを一定に保っています。たとえば、体の中にインスリンが10あるとして、それが適切な状態だとしたら、インスリンを投与しすぎることでバランスが崩れ、細胞が“もうインスリンは分泌しなくていい”と判断することもある。結果的に自分の体が持つインスリン能力が下がり、糖耐性が下がって病状を悪化させることが危惧されています」

ほかの薬から受ける影響にも注意したい。

「咳止め薬の中には、多量の糖分が含まれているものがあり、注意が必要です。また、ステロイド薬には血糖値を上昇させる働きがあり、炎症を抑えるために一時的に使うのはともかく、糖尿病もしくは血糖値が高いという人は服用しない方がいい。骨折などでステロイド薬が避けられない場合は、必ず医師に相談しましょう」(長澤さん)

降圧剤をのむ前に考えるべきこと

いまや国民病となった高血圧も、すぐに降圧剤が処方されるケースが見受けられるが安易な服薬は避けるべき。

「そもそも、なぜ高血圧なのかをはっきりさせてから薬をのんで」と言うのは、長澤さんだ。

血圧は測る時間や場所によって数値が異なることもあるので、薬の服用は慎重に判断して(写真/PIXTA)
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「高齢になると、関節の痛みなどで鎮痛剤を服用するかたは多い。最近の研究で、鎮痛剤は血圧を上げるリスクがあることがわかってきました。まずは鎮痛剤を減らすことで、高血圧が改善するケースもあります。

降圧剤によって血圧を下げすぎると、脳への血流が低下して酸素不足となるリスクも指摘されています」

水野さんも続ける。

「高血圧という診断自体をまずは疑ってみるべきでしょう。経験上、高血圧患者の8割くらいは薬が不要だと考えています。

降圧剤のひとつにカルシウム拮抗剤というものがあり、これは血管の筋肉にカルシウムが入らないようにして血圧を下げます。しかしこれは、実はマグネシウムの持つ働きと同じ。ですから、食事などからマグネシウムをしっかり摂ることで血圧が下がる可能性は大いにある。

血流が滞り血管が詰まる、ふらついて転倒するなど、『低血圧』による負の影響も懸念されます」

高血圧という診断自体を疑ってみるべき(写真/PIXTA)
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高血圧の場合、体内の水分量を減らして血圧を下げるために利尿剤が処方されることもあるが、ここにも落とし穴がある。

「排尿が促進され、体から水分がどんどん出ていきます。すると今度は、たとえば痛風の原因となる尿酸の濃度が上がる可能性が高まる。また、結石や腎障害の危険性が増すことになります。さらには体内のカルシウムも一緒に排出してしまうため、長期で使い続けるとカルシウムが欠乏し、骨粗しょう症になる恐れも指摘されています」(長澤さん)

コレステロールの薬で細胞が暴走することも

女性ホルモンの減少に伴い40代以降、特に更年期前後から女性を悩ませるのがコレステロール値だ。“悪玉”といわれるLDLコレステロール値が上昇するため、抑えるための薬が処方される。

「LDLコレステロール値が高い=健康リスクが高い、ということ自体が医療界では疑問視する声があります。コレステロールは、体の必須成分だからこそ肝臓で生成されていて、脳の神経を正しく機能するようコーティングしたり、細胞膜など細胞の材料として必要です。

体内の“運搬役”として細胞に材料を運ぶ役目もある。コレステロール値を下げるスタチン系製剤は、肝臓の働きを阻止しコレステロールの生成や機能を阻害してしまいますが、そうすると脳の働きが不安定になったり、細胞が暴走してがんのリスクが高まる可能性があります」(水野さん)

群星沖縄臨床研修センター長の徳田安春さんは、気をつけるべき副作用について警鐘を鳴らす。

コレステロール値を下げるスタチン系製剤はがんのリスクが高まったり腎不全につながることがある(写真/イメージマート)
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「スタチンには筋肉の細胞を壊してしまう副作用が見られることがあります。筋肉が溶けて痛みが出る横紋筋融解症は代表例です。

ほかにも体に力が入りにくい、筋肉痛が起きるなどのほか、筋肉をつくるたんぱく質が破壊され血中に出ることで腎不全につながることもあります」

ただし、遺伝性の家族性高コレステロール血症の場合は医師との相談が必要だ。

「遺伝性の場合、血栓を起こすリスクが高いのですが、実は血小板の異常も同時に遺伝しているという説もある。この説によれば、コレステロール自体は高くても体に悪さをしないということになる。そればかりか、高コレステロールの人ほど、免疫力が高い、がんになりにくいといった報告もあります」(水野さん・以下同)

更年期以降のホルモン変化で女性を悩ませるのは骨粗しょう症も同じ。しかし、安易に薬に頼るのも考えものだ。

「骨を丈夫にするのは、活性型ビタミンD3製剤です。これは、カルシウムの吸収を高めますが、同時にカルシウム濃度の上昇とマグネシウム不足が起きる。特に処方薬は、紫外線が当たって活性化した後のビタミンDなので強力にカルシウムの吸収を高める一方で、カルシウムが過剰になるというデメリットがあります。

マグネシウムが不足しやすく、前述の通り糖尿病を悪化させる可能性や、がんリスクが上がるともいわれています。カルシウム過剰で溶けきれないカルシウムが体のあちこちにくっつくと、関節痛や動脈硬化を引き起こす恐れもあります」

花粉症薬で意識レベルが急激に低下

処方薬で治す病気だけでなく、市販薬によって症状を改善・予防する病気についても気は抜けない。女性を悩ませる便秘では、薬を手放せなくなる人が多いが、恒常的に服用することによるリスクは小さくない。

「刺激性の下剤は、長期にわたってのみ続けると大腸メラノーシスを引き起こすとされています。大腸メラノーシスは大腸の粘膜が変色したり機能が低下したりする状態で、便秘がより悪化してしまうケースが見受けられます」(長澤さん・以下同)

まずは自分がいまのんでいる薬の整理から始めよう(写真/PIXTA)
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これからの季節で注意したいのは花粉症の薬。

「花粉症の薬の一部には、ヒスタミンという脳内の神経伝達物質を抑える効果がある。これが、うつ病の薬と同じ作用で、意識レベルが急激に下がって起き上がれなくなったり、場合によっては精神状態が不安になり、うつ病を罹患している場合にはそれが悪化するケースもあります」

胃もたれや胃の痛みを感じ、やわらげようと薬を手にする人は多いだろう。しかしそれも、慢性化すれば体にとっては大きなダメージとなりうる。

「胃薬には、効果が弱めのH2ブロッカーと、効果が強いプロトポンプ阻害薬の2つのタイプがある。このうち、プロトポンプ阻害薬には、長期間の服用でいくつものリスクが増えることが複数の論文で明らかになっています。

具体的には、胃のポリープや胃がん、認知症、腎臓病、心筋梗塞、脳卒中など命にかかわる重篤な疾患もある。とはいえ、急に服薬をやめると、“リバウンド”で胃酸が強く出すぎることもあるので服用が長くなっている人は医師や薬剤師に相談して減薬を心がけましょう」(水野さん)

症状をやわらげ、体をよくするどころか、時に死に至らしめるほどのリスクがある薬。自分にその一錠が本当に必要か、じっくり考えることが重要だ。

※女性セブン2024年12月19日号

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