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《薄井シンシアさん&木下紫乃さん対談》年を重ねても捨てたくないものは「好奇心」「体力」「老後のスリル」

紫乃ママ「シンシアさんは欲望のかたまり。あきらめなくていい」

――残っている闘争心を消化できますか?

シンシアさん:今は専業主婦になった時と同じ状況です。あの時も「両立すればできるけど、両立したら、どこかにしわ寄せが来る」と思いました。今もすっごく燃えているエネルギーのままで働けば、絶対にどこかへしわ寄せが来る。

薄井シンシア
シンシアさん「今もすっごく燃えているエネルギーのままで働けば、絶対にどこかへしわ寄せが来る」
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紫乃ママ:そこは、さすがに学ばれたのね。でも、あきらめなくていいと思います。だって健康を維持したいのも、仕事のスリルが欲しいのも、どちらも欲望でしょう? シンシアさんは欲望のかたまりなわけ。それをやめる、やめないと考えるのは、ポートフォリオを変えるだけで、どっちも欲しいものなんです。

紫乃ママ「途中にもう一段、階段をつくってもいい」

――気持ちと体のバランスをどう取るつもりですか?

シンシアさん:今、どうやって自分を説得するのかを模索しています。

紫乃ママ:途中にもう一段ぐらい階段をつくってもいいのに、シンシアさんには階段がないんですね。すべての時間とマインドを仕事に注ぎたいし、マインドを注ぐことを変えられないなら、時間を短縮して、その中で同じ成果を出すことに挑戦するのはどうですか?

木下紫乃さん
紫乃ママ「途中にもう一段ぐらい階段をつくってもいい」
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シンシアさん:今は運動が楽しくないことに苦労しているんです。47歳から運動しているけれど、まったく楽しくない。

紫乃ママ:成果が見えづらいしね。

シンシアさん:いや、コレステロール値は運動で下がりました。でも楽しくない。

シンシアさん「人のために、ただエネルギーを使いたい」

シンシアさん:紫乃さん、一緒に何かをしようよ。そこで成果が出れば、無駄にはならないでしょう?

紫乃ママ:今だって、いろんな人たちがシンシアさんによって救われているんだから、人のためになっていますよ。

――誰かに伴走して、もう少しやり遂げたい?

シンシアさん:そういう気持ちは無い。ただエネルギーを使いたい。エネルギーがもったいないから一緒にやりたいけど、手伝った相手が成長しても見返りは求めません。私のエネルギーを使ってもらえて良かった。それだけ。

――「親切をしたい」というエネルギーに、タダ乗りしたい若い女性はたくさんいるのでは?

シンシアさん:私は「誰でも来てね」と思っています。

薄井シンシア
シンシアさん「私は誰でも来てねと思っています」
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――でも、つまらない?

シンシアさん:しょうがないけど、受け止めるしかない。他の人がそれで良くなるなら、私が少々つまらなくてもいいじゃないですか。

紫乃ママ:それでいいじゃないですか、シンシアさん!

紫乃ママ「NPOはシンシアさんにとってストレッチ」

――シンシアさんはシングルマザー支援のNPOを手伝うにあたって「組織を大きくしたい」と話しました。でも、NPO側がそれを求めているとは限らないのでは?

シンシアさん:組織を変えたくないと感じる人はいると思います。でも大きく目立つことをしないと、企業からの寄付は来ない。だから今、辛抱しています。日本人はいきなり変われないから、そういう人たちを、どう変えていくかが私のチャレンジ。

紫乃ママ:その辛抱するってこともシンシアさんにとって、すごいストレッチじゃないですか。

シンシアさん:でも正直なところ、私の能力やツールからすれば、すごく簡単。頑張らなくてもできるから物足りません。ただ、満足しなくちゃいけないと思っています。

紫乃ママ:非営利団体を大きくするとか、稼いでいくというのは、普通の企業でそれをやるよりずっと難しくてストレッチが大きいことですよ。そこでシンシアさんがファンドレイズ(資金調達)に成功したら、ほかにも伝播できるんじゃない?

紫乃ママ「シンシアさんみたいな人はNPOにいないから、やってほしい」

紫乃ママ:世界にはたくさんの課題があるけれど、今までの非営利団体の古いやり方ではうまくいかないことも多い。私も今年、ビジネスの世界にいる人達と福祉の世界を繋げたいなあと思って、社会福祉士の資格を取りました。シンシアさんは、もうスタートしているのだから、ファンドレイズを広げていきましょうよ。

薄井シンシアさん、木下紫乃さん
紫乃ママ「ビジネスの世界にいる人達と福祉の世界を繋げたい」
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シンシアさん:でも、そのために大した努力をしていないし、私の能力は、ほとんど使っていません。

紫乃ママ:日本流の非営利団体をグローバルで通用する組織に変えることは、簡単にできません。それが、やりたいことじゃないですか?

シンシアさん:私は先の先までは見ていません。

紫乃ママ:NPOにいる人たちは心優しく、お金を稼ぐより人の支援という人が多くて、シンシアさんみたいな人はいません。いや、ごめん、シンシアさんも心は優しいけれど、お金を作っていくやり方も知っている。私はシンシアさんに、その世界で何かをやってほしいな。年齢を重ねて良かったこともあるんじゃないですか?

シンシアさん:いや、無いね。

紫乃ママ:そこまで言い切る?

シンシアさん:だって、しわしわになるわ、耳は聞こえなくなるわ…。紫乃さん、一緒になんかやろうよ。

紫乃ママ:一緒にスナックをやりますか?

木下紫乃さん、薄井シンシア
紫乃ママ「一緒にスナックをやりますか?」
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シンシアさん:企業のセミナーをやりましょうよ。

紫乃ママ:やりますか? 女性活躍?

シンシアさん:なんでもいい。私がスナックに立つなら何曜日がいい?後で条件を教えてね。

◆薄井シンシアさん

1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社。65歳からはGIVEのフェーズに。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia

◆木下紫乃さん

和歌山県出身。慶應義塾大学卒業後、リクルート入社。数社の転職を経て、45歳で大学院に入学。2016年に中高年のキャリアデザイン支援の人材育成会社「ヒキダシ」を設立。2017年、東京・麻布十番に週1回営業する「スナックひきだし」を開店し、2020年に赤坂へ移転。スナックのママとして、のべ3000人以上の人生相談を聞く傍ら、55歳で社会福祉士の資格を取得。現在は毎週木曜日14時〜18時に在店。離婚2回、家出2回、再婚3回。キャッチフレーズは「どこに出しても恥ずかしい人生」。近著に『昼スナックママが教える 45歳からの「やりたくないこと」をやめる勇気』(日経BP)。@Shinochan6809

撮影/小山志麻 構成/藤森かもめ

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