マネー

《主婦年金廃止議論の核心》「主婦だけが“ひいき”されている」「働けば年金が増える」はまやかし…隠されているのは、女性と高齢者を“有効活用”しようとする国の思惑

「働けば将来の年金額が増える」のまやかし

国はこの「財源確保計画」について、「パート主婦でも厚生年金に加入できるようになる」「働いて厚生年金に加入すれば、将来の年金額が増える」などと喧伝するが、そんなものはまやかしに過ぎない。

「多くの人が厚生年金に加入できるようになったからといって、必ずしも国民のためになるとは限りません。確かに、将来の年金額は上乗せされますが、いまの財政をみれば、そう遠くない将来、年金は減らさざるを得なくなるでしょう。最悪の場合、あと5~10年後には、払った保険料より受け取る年金額の方が下回る可能性もゼロではありません。

現時点でも、働いて払った保険料の元を取るには、40代くらいから、最低でも20年間、厚生年金に加入している必要があるのです」(蒲島さん)

そもそも、これまで働いた経験の少ない50代、60代女性が、いまから充分に年金を増やせるほどの仕事に就くことは、そう簡単ではない。

「厚生年金の支給額は、保険料の納付月数と収入で変わります。ごく一般的なパート・アルバイト業務では、厚生年金額が劇的に増えることは考えられません。

年収の壁で変わる手取り金額と年金受給額
写真4枚

例えば、年収100万円で1年間働いたとしても、将来の厚生年金額は年間でわずか5500円程度しか増えません。その際の社会保険料を年間9万円とすると、“毎年9万円かけて、5500円増やしている”ということになる。元が取れるようになるには16年以上かかる計算です。充分な給与で働ける人も、厚生年金の受給額を充分に増やせる人も、限られているとしか言いようがない」(北村さん・以下同)

北村さんの試算によれば、従業員51人以上の事業所で働く人で、住民税、所得税、社会保険料がかかるようになる「106万円の壁」を超えている場合、年収が125万円でも、手取りはわずか105万円になり、“壁を超えなかった”年収105万円の人と、ほぼ変わらない。文字通り“働き損”になってしまうのだ。

年金も、手取りも増えず、国に納めるお金と労働時間だけが増える。これこそが、主婦年金実質廃止のカラクリなのだ。

厚生年金加入で手取りは激減

現在国会では、所得税控除のボーダーラインとなる「103万円の壁」の引き上げに向けて税制改正を進める方針だ。しかし、それに先んじて、撤廃が決まったのが前出の「106万円の壁」だ。撤廃時期は2026年10月頃とされているが、これが実現すれば、週20時間以上働く人は厚生年金への加入が必要となる。

国は「手取りは減るが、将来的な年金受給額が増える」とメリットを主張するが、手取りの減少額は上表の通り、決して小さい額ではない。「103万円の壁」の議論の盛り上がりをめくらましに、国民にとって極めて不利になるような決断がひそかになされていたのだ。

「“103万円の壁を178万円に引き上げ”などと言いますが、額面で178万円稼いだとしても、社会保険料が引かれて手取りは大きく減るため、厚生年金加入前よりマイナスになる人は少なくないでしょう。

それどころか、夫の手取りにも大打撃。大企業などは年間24万~36万円もの扶養手当が受けられる場合もあります。ところが、妻が社会保険に加入すると、それを全額失うことになりかねないのです」

働いたところで年金はわずかしか増えないうえ、手取りまで減らされる。北村さんは、「2026年まで厚生年金に加入しない働き方を選ぶなら、iDeCoや国民年金基金で運用すべき」とアドバイスする。

「106万円の壁を超えて手取りを増やそうとすれば、所得税がかかる。iDeCoなら、掛け金が所得控除の対象となります。2024年は新NISAがなにかと話題になりましたが、運用益が出なければメリットはない。まずはiDeCoで節税しながら『じぶん年金』をつくり、その上で余裕資金があれば新NISAを始めましょう」

「主婦年金は不公平」──そんな分断の裏に隠された思惑に気づかなければ、私たちはこれからも搾取され続けることになってしまう。  

税・社会保険料がかかる年収の基準額
写真4枚

※女性セブン2025年1月16・23日号

関連キーワード