
健康な体のために、自分自身でできる取り組みといえば日々の食事の工夫だ。特に、健康診断で“異常な数値”が出てしまったら、減塩やカロリー制限、糖質制限などに気を配る人は多いだろう。
塩分や糖分を減らしすぎるリスク
しかし、精神科医の和田秀樹さんは「やりすぎはかえって寿命を縮めかねない」と警鐘を鳴らす。
「塩分は高血圧の敵とみなされ、過剰摂取は禁物という風潮ですが、体にとっては必須栄養素。世界的に権威のある医学誌『NEJM』では、摂取食塩ベースが10~15g(1日あたり)の人の死亡率がもっとも低いという研究結果が報告されました。それどころか、それより少ない塩分量だと死亡率が急増することが明らかになった。減らしすぎると、低ナトリウム血症になって、頭痛や倦怠感などの症状が出ることもあり、健康を損なう可能性があります」
糖分過剰摂取を避けようと、「低糖質」「糖質オフ」を標榜する食品を選ぶ人も増えているが、ここにも落とし穴がある。
「低糖質や糖質オフの食品や飲料の多くは、砂糖の代わりに人工甘味料が使用されています。砂糖に比べて極めて少ない量で甘みが出ますが、WHO(世界保健機関)の傘下であるIARC(国際がん研究機関)は2023年に『人工甘味料のひとつであるアスパルテームに発がん性の可能性がある』と示しました。ブドウ糖が不足すると、脳の働きが鈍り認知症リスクも高まります」(和田さん)
怖い糖質制限
もはや一過性のブームではなく、健康習慣の“定番”となりつつある糖質制限にも危険がつきまとう。ハーバード大学が約1万5000人を対象に25年間追跡調査したところ、食事に占める炭水化物の割合が3割以下と低い人は、もっとも死亡率が高いという結果となった。

2021年11月には、国立がん研究センターが「低炭水化物食でがん罹患リスクが上昇する」という調査結果を発表した。これは、がん既往歴のない約9万人を対象に17年間にわたる追跡調査を実施したもので、1日のエネルギー摂取量のうち炭水化物が占める割合が低い人ほど、胃がんを除くすべての部位のがん罹患リスクが高まることが明らかになったという。
ギリシャ・アテネ大学医学部も、糖質摂取量が1日あたり20g減るごとに、心臓病や動脈硬化をはじめとした血管病リスクが4%ずつ上昇することを報告するなど、世界中で糖質制限によるデメリットが明らかになっている。
コレステロール値を気にして「卵は1日1個まで」とするのも時代遅れかもしれない。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんはこう話す。
「卵に多量のコレステロールが含まれているのは間違いありませんが、食品で摂取することが血中の値の上昇に直結するわけではない。アメリカ政府は2015年に改定した食生活指針からコレステロールの摂取基準を撤廃しました」(室井さん)
健康のために肉より魚という考えも改めるべき、シニアこそ肉を
肉の脂にはLDLコレステロールを増やす動物性脂肪が多く含まれているからと避けるのも間違い。
「コレステロール値を下げると免疫力が低下するため、がんリスクが上昇します。また、脳内の神経伝達物質で『幸せホルモン』と呼ばれるセロトニンが減少し、うつ病などにかかりやすくなるとも指摘されている」(和田さん・以下同)
健康のために、肉より魚という考えも改めた方がよさそうだ。

「肉に含まれるコレステロールの量は魚に比べて圧倒的に多い。加齢とともに、コレステロール不足による体力低下や脳神経の働きの鈍化が顕著になるため、シニアこそ肉を食べるべきです」
もちろん、魚に含まれる栄養素も必要だ。特に青魚などに多く含まれるDHAやEPAには血液をサラサラにして血栓を予防する作用や、老化や発がんを抑制する抗酸化作用がある。しかし、それをサプリメントで補おうとするのは大間違い。新潟大学名誉教授の岡田正彦さんが言う。
「2009年にアメリカの研究者が複数の医学論文を分析し、『DHAやEPAのサプリメントを摂取した人と、していない人では健康状態に差がなかった』と結論づけました。
2007年には世界的に権威のある医学誌『ランセット』で、EPA成分を多く含む医薬品を服用した人の死亡率は3.1%と、非服用者の2.8%に比べてわずかに高いという研究結果も論じられた。血液がサラサラになりすぎると脳出血を起こすリスクも高まりますし、サプリメントによる安易な過剰摂取はかえって“毒”になりかねません」(岡田さん)
マルチビタミンには“ほとんど効果がない”との海外の研究
2024年は紅麹問題でサプリメントに対する不安が急激に広がったが、効果に疑問符がつくのはDHAやEPAばかりではない。
「マルチビタミンは海外の研究で“ほとんど効果がない”と否定されています。2024年6月にはアメリカ医師会が発行する医学誌で『アメリカの健康な成人約40万人を20年以上追跡した大規模解析の結果、マルチビタミンと死亡リスク低下との間に関連は見られなかった』との研究結果が発表されました」(室井さん)

岡田さんが続ける。
「足腰や関節の痛みを改善したいとグルコサミンやコンドロイチンといった成分を含むサプリメントを習慣にするシニアのかたは多いですが、それらが痛みに効果があるというエビデンスは示されていません。また、コラーゲンやヒアルロン酸についても経口摂取による有用性を示した充分なデータがないのが実情です。ブルーベリーに含まれるアントシアニンが視力回復に効果があるというのも、たしかなエビデンスはありません」
加齢とともに薬の量も増え、近年は多剤併用による害も指摘されているが、注意すべきは「のみすぎ」だけではない。2024年10月から、先発品を選んだ場合は自己負担が増えることとなった。
その一方、11月には日本製薬団体連合会が「ジェネリック医薬品を取り扱う全172社の対象品目の4割で、製造や品質検査について定めた書類との相違が見つかった」と公表し、大きな話題となった。薬価を下げればそれだけ製造費にはコストがかけられなくなり、ずさんな管理体制のもとでつくられる薬が増える可能性がある。
1日1杯の牛乳で卵巣がんリスク増
健康にいいとされている食べ物でも、摂り方次第では、なんの意味をなさないばかりか体にダメージを与えることがある。ナビタスクリニック理事長で内科医の谷本哲也さんは、大豆や牛乳に注意してほしいと話す。

「骨を強くしようと牛乳を日常的に飲む人は多いと思いますが、乳糖不耐症など体質に合わないと、お腹を下してしまうこともあります。また、大豆についても、イソフラボンの過剰摂取はホルモンバランスを乱すため適量がいい」
2006年にスウェーデン・カロリンスカ研究所が発表した研究では、1日コップ1杯の牛乳を摂取する人は、卵巣がんのリスクが13%高まる可能性があると指摘された。腸活食材の代表格であるヨーグルトも、糖分が入っているものを選んでしまうと糖質過多となり、腸内環境改善どころか生活習慣病リスクを上げかねない。消化器内科が専門で内臓脂肪に詳しい栗原クリニック東京・日本橋院長の栗原毅さんは、“果物の罠”について言及する。

「果糖は糖類の中でいちばん小さい単位のため、ほとんど分解されることなく吸収されます。すると、血糖値を急速に上げ、中性脂肪となって蓄積され、ひいては脂肪肝になる恐れがある。
朝の果物や、スムージーなどフレッシュジュースが健康のカギと思う人は少なくありませんが、生の果物に比べてジュースは咀嚼する必要もなくごくごく飲めてしまうので、知らないうちに糖質の過剰摂取に陥ってしまうことがある。固形物に比べ、吸収率も高いため、血糖値も上昇しやすくなり糖尿病リスクが高まります」
野菜不足を補うために野菜ジュースを飲んでいるという場合も、気づかぬうちに大量の糖質や人工甘味料を摂取しているかもしれない。
※女性セブン2025年1月16・23日号