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《健康的な食事とはどんなもの?》ヒントは「昭和50年代」 目指すは伝統的な和食を基本に肉料理や洋食を取り入れる「ほどよい和洋折衷」

《健康的な食事とはどんなもの?》ヒントは「昭和50年代」
《健康的な食事とはどんなもの?》ヒントは「昭和50年代」(写真/PIXTA)
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健康的なイメージがある和食だが、気をつけるべき点もある。たとえば、和食は塩分が多く、日本人の塩分摂取量は世界的にみても高い。さらに、水田で栽培される米は、土壌から「無機ヒ素」という化合物を吸収するとされており、この「無機ヒ素」についてWHO傘下の国際がん研究機関であるIARCが発がんリスクがあると指摘しているのだ。和食と健康にまつわる危険な関係。その“真実”とは──。【前後編の後編。前編を読む】

豆腐よりも納豆を食べた方がいい

塩分と主食を減らせばがんを遠ざけることができるのかといえば、話はそう簡単ではない。カルシウムやポリフェノールが豊富で近年“美容食材”としても注目を集めているひじきも玄米同様、無機ヒ素を含んでいるとされ、2004年にはイギリスの食品規格庁が自国民に向けて「ひじきを食べないように」と勧告。日本の厚労省はWHOの基準に照らして「日本人の通常の食生活で、毎日4.7g以上食べなければ健康上の問題はない」と提言しているが、他国が「NO」を突きつけたのは歴然とした事実だ。

さらに驚くべきことに、和食の代表的な“健康食材”として知られる大豆製品には、すい臓がんリスクを高める可能性があることが示唆されている。大豆は、ポリフェノールの一種「イソフラボン」が体内で女性ホルモンの「エストロゲン」に近い働きをすることで更年期障害のほか骨粗しょう症、乳がん、前立腺がんなどの予防に役立つことがわかっているが、その一方で、食べすぎるとかえって発がんリスクを高める可能性があるのだ。医学博士でAGE牧田クリニック院長の牧田善二さんが言う。

「国立がん研究センターが1995年と1998年に全国10地区に住む45〜74才の男女約9万人を追跡調査したところ、豆腐や油揚げ、豆乳といった大豆製品の摂取量が多い人ほどすい臓がんの罹患リスクが上がるという結果が出ました。

その理由はまだ解明されていませんが、おそらく大豆製品は消化に時間がかかるため、過剰に摂取することですい臓に負担がかかるのではないかと推測されます。一方、みそや納豆といった発酵性の大豆製品ではリスクは上がらなかったため、日常的に大豆製品を食べるなら、発酵食品を選べばリスクの上昇にはつながらないでしょう」

大豆の食品
日常的に大豆製品を食べるなら、発酵食品を選んで(Ph/photoAC)
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伝統的な和食より「ちょい洋食」を

米も干物も、漬けものも大豆製品も、がんリスクを上げる──これまで日本人が信じてきた“和食健康神話”が崩壊しつつある。だが日本に住んでいる以上、和食文化を避けることは不可能に近い。私たちはいったい、何をどう食べればいいのか。ヒントは「昭和50年代」、すなわち1975年頃の食事モデルにある。

東北大学大学院農学研究科・医学研究科が2016年に発表した研究結果によると、現代人の一般的な食事と1975年型の食事を1日3食、28日間食べ続けたグループでは、後者の方がBMIや体重、腹囲、ストレス指数、悪玉コレステロール値、ヘモグロビン、糖尿病の指標であるA1cが明らかに減少。さらに善玉コレステロール値や運動能力の上昇までみられた。

1960年代の食事はおかずが少なすぎる上に塩分過多、一方で1990年代以降の現代食は糖質・脂質が多すぎるといった理由から、1975年頃の食事が理想だとされる。東京大学医学部附属病院放射線科特任教授の中川恵一さんが言う。

「当時のメニューは品目数が多く、肉、魚、大豆製品、野菜などがバランスよくメニューに組み込まれており、現代人に特に不足しがちな食物繊維とたんぱく質も豊富でした」(中川さん)

1975年当時と比べると、糖尿病患者の数は10倍近い差がある。

「多くの人が“理想的な和食”を食べていた1975〜1980年頃は、糖尿病患者は100万人もいませんでした。ところが現在、日本には約950万人もの患者がおり、予備軍まで含めれば2050万人にもなると推計されています。確かに日本人の食卓は豊かになりましたが、豊かさと引き換えに『おいしいもの=糖質』ばかり食べるようになったことが皮肉な結果を招いたといえるでしょう」(牧田さん)

では、現代を生きる私たちが当時の食事を取り入れるには、どうすればいいのか。キーワードは「ほどよい和洋折衷」だ。基本は誰もがイメージする伝統的な和食でいいが、時々豚のしょうが焼きなどの肉料理やシチューなどの洋食を取り入れる。具だくさんのスパゲッティナポリタンにほうれん草のおひたしとみそ汁など、和洋折衷の献立にすることで品目数を増やすことができ、栄養バランスを整えやすくなる。

洋食
ほどよい和洋折衷を(写真/PIXTA)
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卵、野菜、きのこ類なども積極的に取り入れ、できれば2品以上の副菜をつけたい。脂質を摂りすぎないよう、揚げ物や炒め物よりも煮物や焼き物を中心に。そして和食の“欠点”である塩分過多をカバーするために、カリウムを含む食材を積極的に取り入れよう。管理栄養士の麻生れいみさんが言う。

「カリウムには利尿作用があり、体内の塩分の排出を助けます。ほうれん草やブロッコリー、なす、トマト、きゅうり、海藻類などに豊富です。また、塩辛い漬けものは水で軽く洗ってから食べれば、塩分量を抑えられるほか、卓上のしょうゆ差しをスプレータイプにすればかけすぎを防げます。血糖値の急上昇を防ぐため、野菜から先に食べる『ベジファースト』もおすすめです」(麻生さん・以下同)

近年の研究で抗がん作用が明らかになった食材を取り入れるのもいい。

「ブロッコリースプラウトはカリウムが豊富なだけでなく、ファイトケミカルの一種『スルフォラファン』に抗がん作用が期待できるとされ、注目されています。またアメリカ国立がん研究所は『1日1片のにんにく』をすすめています。2、3枚のにんにくスライスをお湯に入れた『にんにく水』をポトフや豚汁などに加えると、うまみやコクもアップします」

中川さんは「すべての食べ物にはリスクがある」と語る。

「毎日同じものを食べ続けるということは、その食材に含まれる小さなリスクを体の中に積み重ねているということ。どんな食材であっても“健康によさそうだから”という理由で毎日食べ続けるのはおすすめできません。塩分、糖質、脂質などを摂りすぎないように気をつけつつ、日々できるだけ多くの品目を食べることが“食のリスク分散”になり、がん予防にもつながるのです」(中川さん)

(了。前編から読む)

※女性セブン2024年8月1日号

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