人生100年時代の今、長生きが当たり前になったからこそ、「老化」と向き合う時間も長くなっている。老いを実感する頻度が増えるにつれ健康への関心も強まるものだ。しかし、医療や科学の進化とともに「老化」も変化している。食生活では古く間違った情報をアップデートしないままでいると老化を進行させてしまうこともある。
老化を進行させるのは「糖化」と「酸化」シニアは「薬よりも肉」
食の欧米化によって脂質の摂りすぎが悪玉コレステロールを増やし病気のリスクを高めると指摘されてきた。だが、脂質の控えすぎもかえって悪になる。老年医学の専門家で精神科医の和田秀樹さんが言う。
「日本人の長寿の秘訣は和食や粗食にあるといわれますが、一方で肉の消費量が多い国ほど寿命が延びていったという統計データもあります。また、高齢者はたんぱく質不足や低栄養になりやすいので肉は積極的に食べた方がいい。たんぱく質は精神状態を安定的に保つセロトニンという幸せホルモンの材料です」(和田さん・以下同)
過度な糖質制限は脳を老化させる
近年の研究で、細胞の老化を引き起こす原因は「糖化」と「酸化」にあると注目が高まっている。
糖化はたんぱく質が糖と結合して劣化することで「AGEs(終末糖化産物)」という老化物質を生み糖尿病や動脈硬化などの原因になるという。酸化は体内で増えすぎた活性酸素が細胞を損傷し細胞がさびる。それらを防ぐため、ビタミンやポリフェノールなどを豊富に含んだ抗酸化作用のある食べ物の積極的な摂取や、過剰な糖質の摂りすぎを控えることが推奨されてきた。だが、和田さんは疑問を呈す。
「糖質を分解して得られるブドウ糖は脳の唯一のエネルギー源です。つまり糖質が不足すると脳の働きが阻害されます。脳の重要な栄養素であるブドウ糖は、糖質を分解して得られますから、糖質が不足すると頭がぼんやりして脳の働きが鈍くなる。
また、ブドウ糖は筋肉のエネルギー源にもなるので、不足すると筋力が低下して足腰が弱くなりけがのリスクを高めます。シニアにとって過度な糖質制限は命取りなのです」
減塩すると死亡率が上がる
糖質制限と同様に、減塩もまた老化を早める誤った食習慣だ。和田さんが言う。
「厚生労働省が定める1日当たりの塩分摂取量の目標は男性が7.5g未満、女性が6.5g未満です。一方で塩分は人間にとって必須栄養素で、日本人はむしろ塩分が足りないのではないかと思っています。世界的権威のある医学誌に掲載された大規模研究では、1日あたり10~15g摂取するのがもっとも長生きで、減塩によって死亡率が上がる可能性も提示された。塩分不足はめまいや頭痛を引き起こす低ナトリウム血症にもつながる。熱中症の危険性もありますから減塩のしすぎには注意しましょう」
取材/小山内麗香
※女性セブン2024年8月22・29日号