健康増進を目的に毎日の生活で心がけられるのが、運動習慣だろう。「運動は億劫だけど、健康のために……」と自分を奮い立たせている人もいるかもしれない。しかし、これも正しい知識がなければ、ただつらい思いをするだけになってしまう。
ラジオ体操、ヨガは慎重に行うべき
ナビタスクリニック理事長で内科医の谷本哲也さんはこう話す。
「過度な運動は、関節に負担をかけて痛めてしまうなどマイナスに働くこともあります。そもそも、ハードな運動は活性酸素を過剰に生成させ、老化を促し、生活習慣病や心筋梗塞、脳卒中など命にかかわる病気のリスクを高めてしまうことにもなりかねません。推奨される運動のひとつにウオーキングがありますが、これも“1日1万歩”という時代ではない。最近の研究では、7000~8000歩以上は効果は変わらないといわれています」(谷本さん)
医療経済ジャーナリストの室井一辰さんも無理な長距離走には懐疑的だ。
「複数の研究から、活性酸素が増えて老化につながることが指摘されています。アメリカでは、20分程度でできる筋トレや短距離走などがメジャーです」
シニアにこそおすすめと提唱されるラジオ体操も、慎重に行いたい。
「ジャンプやステップなど、足腰に負荷がかかる動きもあるため、靱帯や腱の損傷には注意しましょう。まずは、いすに座ってできる動きをやるだけでも充分です」(谷本さん)
激しくない運動だからとヨガを選ぶのも早計だ。
「特に気をつけてほしいのはホットヨガです。効率的に汗をかけるといいますが、心臓への負荷がかなりかかるうえに脱水の不安もあります。脂質異常症(高脂血症)や高血圧といった持病がある人は、血管が細くなっているので心筋梗塞や脳梗塞リスクに直結する。近年のサウナブームも、同様の理由で慎重になった方がいいでしょう。健康効果を得るために“ととのう”必要はない」(谷本さん)
湯船は危険地帯
湯船につかる入浴習慣は、温活効果やむくみ解消などいくつもの健康効果があげられている。しかし、お湯の温度を間違えれば一気に逆効果となる。老年医学に詳しい精神科医の和田秀樹さんは言う。
「浴室は高齢者にとって“危険地帯”といっても過言ではありません。交通事故での死者の6倍以上といわれる、年間約1万9000人もの人が入浴中に亡くなっていて、その約90%は65才以上です。
死因としては脳卒中や心臓発作が大半を占めており、ヒートショックによるものと推察されます。入浴による死のリスクを避けるには、ぬるめのお湯に短時間入ること。38~40℃ほどが適温で、42℃以上は厳禁。また、ぬるめといっても湯船につかる前にはかけ湯をすることをおすすめします」(和田さん)
熱すぎるお湯は、心臓や血管に負荷をかけるだけでなく、皮膚の油分も奪ってしまうため炎症や乾燥の原因になることも。体に必要な常在菌を殺さないためにも、体を洗うときはゴシゴシ力を入れすぎないことも心がけたい。
二度寝をすることで認知機能の低下も
質のいい睡眠も健康長寿の要となるが、年をとればとるほど不眠や眠りの浅さなど、睡眠の悩みを抱えている。しかしそれも、「22時~翌2時がゴールデンタイム」「8時間以上の睡眠」など“古い常識”にとらわれているからかもしれない。RESM新東京スリープメディカルケアクリニック副院長の下浦雄大さんが言う。
「睡眠時間が長すぎると、脳の血管に負担がかかり、死亡率が高くなるという研究があります。良質な睡眠とは、睡眠時間の長さではなく、睡眠時間とベッドにいる時間の睡眠割合が高いことが大事。ゴールデンタイムにこだわらず、眠気を感じたらすぐに眠りにつくことが、質のいい睡眠につながります」
また、近年の研究では、二度寝をすることで認知機能低下やストレス耐性低下が指摘されている。「睡眠時間を確保しなければ」と、朝早くに目覚めても二度寝している人はいますぐやめた方がいい。
体だけでなく、脳の健康も保つための習慣としてあげられるのが、認知症対策の脳トレ。だがこれも、果たしてどれほどの意味があるのか。
「いわゆる脳トレといわれるものにはパズルや数独、計算などいくつもの種類がありますが、認知症予防はほぼ期待できません。国際的な科学誌『ネイチャー』や、アメリカの医学誌『JAMA』でも、脳トレの効果にまつわる大規模調査の結果が発表されています。
そのうちのひとつ、アラバマ大学のカーリーン・ボール博士による2832人の高齢者に対する研究では与えられた課題を反復すれば、その課題はできるようになっても、脳全体の活性化にはつながらないことが明らかになりました」(和田さん)
健康のことを思っているその行動が、少しずつ体を不健康の道へと導いているとしたら──あふれる情報に惑わされず、効果やデメリットについてまずはしっかり調べること。それが健康への着実な一歩だ。
※女性セブン2025年1月16・23日号