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飼っている犬や猫が明日をも知れない状態で何も食べられなくなったとき、飼い主さんはどうするべきなのか――。「最後だからとステーキを食べさせたら元気になって今も隣にいる」「アイスクリームを食べてくれて胸が熱くなった」など、飼い主さんの体験談がSNSに上がっている一方、それに対する批判的なコメントもある。獣医師の鳥海早紀さんに見解を聞いた。
状況が違えば答えも変わる
ペットが自発的に食事できなくなったとき、飼い主としては、食べてくれるものをなんでも与えていいのか、容体が急激に悪化しそうなものは避けるべきなのか、そもそも食べたがらない子に無理に食べさせるべきではないのか――。
SNSでは議論になりがちな看取り期の食べ物問題。飼い主さんは“できることならなんでもしてあげたい”という気持ちでいるからこそ、その選択が「正しくない」と批判やバッシングを受けると深く傷つくことも。獣医師の口から語れる指針のようなものはあるのだろうか。
鳥海さんは「残念ながら、どのケースにも当てはまるような“正解”はありません」と話す。
「食欲不振で元気がなくて、もう長くないかもしれないという状況にもいろいろな理由があると思うんですよ。老衰なのか、病気なのか。病気はどの臓器にかかわるものなのか。状態もいろいろで、治る可能性が少しはあるのか、可能性が限りなく低いのか。それによって有力な選択肢が変わってきます」(鳥海さん・以下同)
一口に“食べられなくなった”といってもあまりに多種多様
一口に“食べられなくなった”といってもあまりに多種多様なので、一般化するのは難しいという。ただし、老衰の場合であれば、「好きなものを食べさせてあげていいのではないでしょうか」と鳥海さんは言う。
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「老衰は、病気のように特定のどこかが悪いとか、明確な原因があるわけではありません。食べ物の消化吸収に関わる臓器は胃腸や食道、肝臓、膵臓などがありますが、これらに一時的に負担が増したからといって、それで老衰がさらに進むとか状態が悪化するとか、そういうデータはないわけです。だったら、食べさせてあげたい気持ちを優先していいと私は思います」
たんぱく質を取ると腎臓には負担だけど……
一方で、病気の場合はどのような疾患かによって、考慮すべきことがある。
「例えば、衰弱している理由が腎臓病だったりする場合。たんぱく質を取れば取るほど腎臓に負担がかかるのは医学的に明らかですから、お肉を食べさせてあげるとなると、病気の治療とは相反することになりますね。ただ、病気を治すには体力も大事で、体力がないといくらいい治療をしても思うような効果が上がらないことがあります。今が体力を優先するべきときなのか、治療を優先するときなのか、その見極めによって、食べていいか、食べさせないほうがいいかは変わってきます」
胃腸や肝臓、膵臓の病気で衰弱している場合も、当然、食べ物に受ける影響は大きい。消化にいいものにしたほうが、身体は楽かもしれない。
「かといって、消化にいいものを与えても、その子が食べないなら意味がないんですよね。病気ごとに、この病気ならこういう食事が望ましいというのは簡単に分かるけれど、それを食べてくれないから皆さん悩んでいらっしゃる。多少、身体に負担がかかっても、食べてくれるものを食べさせて体力をつけるしかないときもあると思います」
病気が治らない見込みのときに、飼い主さんと愛犬や愛猫との間で思い出をつくるという考え方も、やはりあるだろう。
獣医師に相談して選択肢を増やす
「『一概には言えない』という答えになってしまって恐縮ですが、一つ言えることは、二元論的というか究極の選択みたいなところに自分を追い込んでしまうと飼い主さんも辛いので、かかりつけの獣医師さんに聞いてみるといいと思います。折衷案みたいな方法や、第三の方法があるかもしれない。例えば、食欲増進剤がうまく効いてくれるかもしれないですよね」
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その第三の方法には、例えば、点滴を使って静脈経由で栄養を補給するようなことも含まれるのだろうか。
「点滴で栄養が取れるというのは、実は誤解だといわざるをえません」と鳥海さんは答える。
「輸液製剤に入る栄養素というと、水分、ミネラル、ビタミンぐらいで、エネルギーになるたんぱく質や糖分はほぼ入らないんです。特に、たんぱく質は難しい。血中のたんぱく質が減ってしまったのを補うために入れることはできますが、それは血中のたんぱく量を正しい状態に戻すための措置で、そこからちゃんと栄養として使える状態に変えられるわけではないんです。
脂質は入れられますが、首などの太い静脈から入れることになるので、患者さんは痛いし、手技が難しいので入院になります。そうまでしても、経口摂取に優るものはないので、それなら自宅で飼い主さんから食べられる物を少量でも与えてもらったほうが、ワンちゃん猫ちゃんにとっても幸せかもしれません」