【アップデートしておきたい大腸がんに関する知識】「人工肛門になる確率はそこまで高くない」「ネギ属の野菜でリスク減」…治療に関する最新情報と予防のための食生活
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がんの部位別罹患者数が男女ともに2位の「大腸がん」。女性のがんの部位別死亡者数では大腸がんが1位だ。しかし、定期的に検診を受けていれば早期で発見しやすいうえ、早期発見できればほとんどの人が治るという。そこで、大腸がんから自分の命を守るために、知っておくべき情報を専門家に教えてもらった。【前後編の後編】
抗がん剤治療はオーダーメイド
大腸がんについて「高齢になれば治療しない方がいい」という情報もあるが、これは誤った情報だという。東邦大学大学院消化器外科学教授の島田英昭さんが言う。
「同じ80才でも、昔といまでは全身の健康状態が大きく違います。平均寿命が延びて、高齢者は昔よりはるかに健康になっている。90代でも治療をしないのはもったいないので、お元気であれば手術を行います」
「大腸がん=人工肛門(ストーマ)になる」という認識も、事実とは異なる。
「大腸がんには結腸がんと直腸がんがあり、罹患率でいえば直腸がんが全体の3~4割、残りが結腸がんです。人工肛門になる可能性があるのは肛門近くの直腸にがんができたときに限られるので、確率的にはそこまで高くない」(島田さん)
獨協医科大学下部消化管外科教授の中村隆俊さんは、「そもそも、人工肛門になったら生涯つけ続けなくてはいけない」というわけではなく、「一時的なものと永久的なものがある」と話す。
「手術の縫合不全が起きそうな人や実際に起きた人に対して、一時的に人工肛門を造設することはありますが将来的には閉じることができます。永久的な人工肛門を造るのは、肛門の近くにがんがあって肛門の温存ができない場合や腸閉塞を起こしているときです」(中村さん・以下同)
たとえ人工肛門になったとしても、つらい毎日が待っているわけではない。便が漏れにくいものや防臭性が高いものなど装具の改良も進んでおり、旅先で温泉に入ることもできる。
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一方、治療法は手術とも限らず、手術によるQOL(生活の質)の低下を防ぐために、抗がん剤と放射線治療を行う人も増えている。
「直腸がんの20~30%は抗がん剤と放射線治療によってがんが消失する可能性があります。がんが消えれば手術をせずに経過観察する『ウォッチアンドウェイト療法』が欧米を中心に広がっており、日本では臨床試験として一部の病院で行われています」
がんが完全に消失しなければ結局手術をするのだから薬物療法を受けないという判断は誤り。
「消失しなくても縮小すれば手術の切除範囲が小さくなり、人工肛門などでQOLが低下するリスクが減ります」
ただし、抗がん剤と放射線治療をメインとする治療法が必ずしも正解というわけではなく、デメリットもあるため判断は慎重に行いたい。
「がんが消えたという確証を得ることが難しいため、数か月おきに通院し、直腸指診およびPET検査や大腸内視鏡検査などを受けなければいけない。肝臓や肺などへの遠隔転移が増えるリスクもあり、がんが再度見つかり“最初から取っておけばよかった”と後悔することもある。私自身もウォッチアンドウェイト療法を行っていますが、手術が難しい状態の人や絶対に人工肛門を避けたいという人が対象です」
一般化した腹腔鏡下手術
手術法もこの10年で大きく変化した。標準治療は開腹手術だが、「腹腔鏡下手術が一般化して、ほぼ標準治療になった」と島田さんは話す。
「腹腔鏡下手術は、お腹に約5mm~1cmの傷を4~5か所ほどつけて、そこから腹腔鏡という細長いカメラを入れて、モニターを見ながら手術を行います。従来の開腹手術に比べて傷が小さく、数日で退院できるのが大きなメリットです。もっと初期で見つかれば、お腹に傷をつけずに肛門から挿入する内視鏡のみで治療することも可能です」(島田さん)
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2018年に直腸がん、2022年には結腸がんに対して「ダヴィンチ」が保険適用になるなど、手術支援ロボットの導入も進んでいる。しかし、ロボットによる手術は怖いと思う患者は多い。
「ロボットが手術するのではなく、医師がロボットを操り、より精度の高い手術を行います。腹腔鏡下手術は術者に加えて補助する助手が2人ほど必要になり、全員の技術力が求められますが、ロボット手術では少なければ2人の医師で行うことができます。
いまは治療の選択肢が広がっていますが、ロボット手術やウォッチアンドウェイト療法など施設によっては受けられない治療もあります。治療法に納得できないときは、セカンドオピニオンを取ることも大事です」(中村さん・以下同)
抗がん剤治療は副作用が出るのではないかと不安になる人も多いが、オーダーメードの治療ができる時代になった。
「がん組織や血液からがんの遺伝子を調べて、その人に合った抗がん剤や分子標的薬をチョイスすることができます。薬の組み合わせは数多くあり、ガイドラインで標準化されているので全国の病院で同じ治療を受けることができます」