
「マツダといえばロータリーエンジンのスポーツカーを昔買ったなぁ。人から“車、かっこいいね”なんて言われることはあまりなかったのに、あの車に乗っていた時にはよく声をかけられてね。買うのにすごい順番待ちで、中古でも買値と同じ額で売れたほど人気が高かったんです。もう免許は返納したけれど、こうしてスポーツカーを見るとまた乗りたくなっちゃうね」
歌手で俳優の杉良太郎は1月23日に広島県の自動車メーカー・マツダ本社を訪れ、エントランスに展示されている歴代『ロードスター』を見つけると懐かしそうにかつての愛車を語った。マツダ車とは他にも縁があり、1980年に放送された杉主演の刑事ドラマ『大捜査線』(フジテレビ系)では同社の車両が活躍。杉がライフワークとする社会福祉や慈善活動でもまた、深くかかわりがあったと明かした。
「1980年代にハワイ・ホノルル市警察署の署員勤務専用車として、マツダのボンゴを寄贈していただきました。中国やベトナムへはワンボックスカーを寄贈していただき、救急車のなかった国々で大変役立った。海外への協力に賛同してくれる企業は、まだほとんどなかった時代です。ベトナム政府は今でも、当時の恩を忘れていません。本日はまず、そのお礼を伝えたい」
杉はそう、しみじみと振り返った。杉は地道な啓発活動を通じて健康行政に多大に貢献しており、肝炎対策国民運動特別参与、健康行政特別参与を経て、昨夏には厚生労働省「特別健康対策監」に任命された。この日は同省「知って、肝炎プロジェクト」の一環としてマツダを訪れており、冒頭で医療の分野にまつわる同社への感謝を述べた。
「企業の理念を見た」
訪問には「知って、肝炎プロジェクト」スペシャルサポーターを務める瀬川瑛子と山本譲二も参加し、本社に隣接する「マツダ病院」の健診センターを視察。病院長の田村徹さんや健診事務リーダーの森康晴さんから説明を受けた。
マツダ病院は地域の中核病院であるというだけでなく、マツダ従業員の健康を支える存在でもある。健診センターは健康診断と予防接種を二本柱としており、2024年度の健診では関連会社を含む従業員やその家族、地域住民に対し、のべ約3万7000人が受診する見込みだという。企業病院として従業員の健診は退職した後まで「OB健診」としてフォローしている。
病院施設の充実やマツダの取り組みに触れ、杉は「働く人たちの健康を第一に守る、企業の理念を見た」と感心しきり。マツダの執行役員兼最高人事責任者であり、安全・病院担当の竹内都美子さんとの対談に臨むと、熱く意見を交わした。
マツダ病院はマツダの実質的な創業者・松田重次郎さんが1938年に立ち上げた医務室を前身に、1941年に付属病院としてスタート。三輪トラック製造と病院医療の両輪で、地元広島の戦後の復興にも貢献してきた。
竹内さんによると、30年ほど前までは病院を持つ企業が全国に100社ほどあったものの、今では20社前後にまで減少している。それだけ病院を運営するのは大変ということだが、マツダ社内には「企業がいかなる経営状況でも病院の経営をサポートしてほしい、という創業者の思いが代々伝えられている」という。

健康は“生モノ”
杉は、企業が率先して従業員の健康に配慮するケースに初めて出合ったと、大きな関心を寄せた。
「いくら財産や地位を築こうと、健康を害した時にすべてを失う。健康は“生モノ”であり、病気は決して他人事ではない。いつどのように変化するか、わかりません。その“気付き”が大切なんです。病原を見落とさないためには自分の体と向き合う集中力が必要で、年齢を重ねたら、再検査のひとつやふたつあって当たり前という意識で健診に臨むべき。恵まれた環境にいるとそれが当たり前に感じられて、その気付きになかなか行き当たらない。どんな気持ちで企業が自分たちを見ているのかと、従業員の皆さんは立ち止まり考えてみることも大事ですね」
杉の言葉を受け、竹内さんも自身の体験として近年の健診で病原が発見されたことを明かし、「そこで初めて、ありがたさがわかりました。健診のお知らせが届いても仕事が忙しいと後回しになっていて、企業側の気持ちは理解できていなかった」と打ち明けた。
「実際に体験した人にしかわからないその気持ちを社内報などで、皆さんと共有するといいですよ。厚労省の啓発活動は今年で13年目ですが、肝炎ウイルス検査への理解が進み、治療薬も進歩した今、『がん』『マイコプラズマ肺炎』『流行の感染症』などまで視野を広げて健康対策に取り組めるようになりました。女性で心配なのは大腸がんも多いけれど、乳がん、子宮頸がん、卵巣がんも非常に注意が必要なんです。でも恥ずかしがって婦人科系の検査をしない人が多い。自分の命なのだから、健診をどうかおろそかにしないでほしいと願っています」(杉)
マツダでは毎月給与支給日を「健康づくりの日」として、全社へ向けて健康情報を定期発信している。
「健康推進センターからの通信に加え、職場ごとに話し合いの場を設けるようにもしています。作業中の熱中症予防や季節的な感染症予防など健康について話し合う場で、自分ひとりでなくチームで健康を考える機会となっています。社としても、今春から健康経営により力を注ぐ方針です」(竹内さん)
ちょっと我慢したりして
対談後はマツダの従業員約400人に向け「一緒に考えよう あなたと家族の健康のこと」と題した啓発が行われ、「知って、肝炎プロジェクト」の催しとしてマツダ病院の消化器内科部長・長沖祐子さんも加わった。手話の同時通訳も入り、健康の取り組みに対する同社の並ならぬ熱意が伝わってきた。
長沖さんは時代の変化と共に肝臓がんのリスクが広がっていることを指摘。C型肝炎が撲滅できる病気となった一方で、生活習慣病を背景とする非アルコール性脂肪肝炎(代謝機能障害関連脂肪肝炎に病名変更)から肝臓がんを発症するケースがあるとし、食生活の改善や運動習慣など、日常での対策を呼びかけた。杉もイベント終盤に登壇すると、近年は脂肪肝やアルコール性肝炎への啓発が課題になっているとして、こう語った。
「厄介なことで“飲むな、食べるな”といくら言っても、なかなか聞いていただけない。健康はひとたび害してしまうと、“これから気をつけよう”と自覚する頃には大きなダメージを受けています。そうならないために、日頃からちょっと我慢したりしてほしい」
自分の命は自分にしか守れない。健康を“自分事”として考えて最後まで健やかに過ごしてほしい。杉は啓発に込めた思いを訴えた。



