健康・医療

「曲げると痛い」「立ち上がると痛い」ひざの悩みに理学療法士が教える“ひざ皿ほぐしマッサージ”のやり方

ひざを押さえて痛がっている腰掛けた女性の首から下
ひざ痛解消のカギは“ひざの皿”に(写真/Photo AC)
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加齢に伴うひざの痛みは、ある日突然痛み出すというより、何となく痛みを感じるようになる人が多いため、「年をとったら、ひざの痛みはしかたがない」とあきらめがち。だが、鈍い痛みはひざの皿をほぐせば改善できるという。「どうせ老化だし」と思って放っておいたあなた、必読ですよ。

ひざ痛解消のカギは“ひざの皿”にある

ひざの痛みというと、加齢で軟骨がすり減るからとはよくいわれるが、「そもそも軟骨には神経がないので、すり減っても直接的に痛みを感じることはありません」と話すのは、理学療法士の土屋元明さん。

右足を内側から見た状態の膝の構造の図
ひざの構造※イラストは右足を内側から見た状態(イラスト/鈴木みゆき)
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「ひざ痛の原因はさまざまで、変形性膝関節症、半月板やひざのじん帯の損傷、炎症などがあげられます。

関節軟骨が老化によって弾力性を失い、使いすぎてすり減ったことで関節が変形してしまう変形性膝関節症は、確かに高齢になるほど罹患率が高まります。ただ、その前段階として“何となく違和感がある”“鈍い痛みがある”と訴える人が多いんです。

これは、軟骨というより、ひざの皿(膝蓋骨)の周りにある脂肪体などの組織が硬くなり、皿が動かなくなって痛みが生じている可能性が高いのです。ひざの皿をほぐして脂肪体の柔軟性を取り戻し、皿を動くようにすれば痛みも消え、症状が劇的に改善します」(土屋さん・以下同)

ひざの痛みの初期症状4つ

痛みの初期症状は、【1】歩き始めが痛い、【2】歩いていると痛くなる、【3】曲げると痛い、【4】伸ばすと痛い、の4つが考えられるという。

右膝を推している女性のイラスト
親指と人差し指で皿をつかんで上下左右に動かす(イラスト/鈴木みゆき)
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「痛みの自覚がない場合も、まずは足を伸ばしてひざの力を抜き、手指の腹でひざの皿をつかんで上下左右に動かしてみてください(イラスト参照)。このときスムーズに動くか、動かしにくいのはどの方向か、違和感や痛みがあるかをチェックしましょう」

ひざの皿を上から下に動かす場合は、両手の親指を皿の上に添えて真下に、下から上へ動かす場合は、皿のとがった部分の脇に人差し指を引っかけて上に引き上げるようにするとうまく動かせる。この要領で1日に1回、ひざの皿を上下・左右・斜めに各10回ずつ動かして脂肪体をほぐし、皿が自由に動くようにすれば、ひざ痛が改善するのだ。

「さらに効果を高めるには、症状に応じたひざ皿ほぐしがあります。【立ち上がるときや動き始めが痛い】というケースは、血行不良が原因なので、ひざ周囲の血行を改善するひざ皿ほぐしが有効。

【動いていると痛みが強くなってくる】ケースは、ひざのねじれによる負担が原因の可能性が高いので、内側広筋という太ももの内側の筋肉を働かせるためのひざ皿ほぐしが必要です。

どちらも椅子に座ってひざを曲げた状態で皿を固定し、ひざ下を動かしてください。ひざの周りの表層にある筋膜→中層の筋肉→深層の脂肪体の順にほぐすのが基本です」

変形性膝関節症を発症している人や、ひざに鋭い痛みがある場合は、軟骨や半月板に損傷があり、熱や腫れがあれば炎症が起きている可能性があるため、整形外科を受診しよう。

ひざがゆるめば若さを取り戻せる

ひざを曲げ伸ばしたときに痛みが生じるケース【3】と【4】は、皿まわりの脂肪組織が硬くなって動きにくくなっている可能性が高い。どちらも痛みの出ないギリギリのところでひざの皿を固定してひざを動かすことで、少しずつ柔軟性を取り戻し、痛みも取れてくる。土屋さんがわかりやすく解説する。

「症状がある場合は当てはまるところから、ない場合はどのひざ皿ほぐしから行っても構いません。ケース【3】と【4】の皿ほぐしはひざの柔軟性を保つ効果があり、ひざ痛予防におすすめです」

最初はひざがコキコキと鳴るかもしれないが、痛みが強くならなければそのまま続けても問題ない。

「30秒続けると、痛みが劇的に軽減されます。痛みが気になってひざも皿も動かしにくい場合は、お風呂の中で温まった状態で行いましょう。私はトイレの前後や一息ついたときなど、機会を見つけて行っています。毎日コツコツ行うことでひざの若さが保て、長く自分の足で歩けるひざになりますよ。

【ケース1】立ち上がるときや動き始めが痛い

動き始めに痛みを感じるが、動いているうちに痛みが軽くなる場合は、血行不良を改善すると痛みがなくなるケースが多いという。「ひざの皿を固定した状態でひざ皿ほぐしを行えば、痛みも改善します」(土屋さん)。ひざが痛む場合は1日3回が目安。痛くない場合も1日1回行い、柔軟性をキープしよう。

表層の血行改善

椅子に座り、痛む方の足のひざを上げ、片手を痛む場所に、もう片方の手は皿の上に置き、皮膚を股関節方向に少しずら女性のイラスト
(イラスト/鈴木みゆき)
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【1】椅子に座り、痛む方の足のひざを上げ、片手を痛む場所に、もう片方の手は皿の上に置き、皮膚を股関節方向に少しずらして固定する。【2】その状態でひざを深めに曲げ、ひざから下をぶらぶらと揺らしてひざの曲げ伸ばしを30秒くらい行う。

中層の血行改善

椅子に座って痛む方のひざの皿を両手のひらで包み、皿の上の皮膚にしわがよるくらいの強さで圧迫する女性のイラスト
(イラスト/鈴木みゆき)
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【1】椅子に座って痛む方のひざの皿を両手のひらで包み、皿の上の皮膚にしわがよるくらいの強さで圧迫する。【2】そのまま、ひざ下をぶらぶらと揺らし、ひざの曲げ伸ばしを30秒くらい行う。

深層の血行改善

椅子に座り、痛みのある足のひざを軽く伸ばし、かかとを床につける女性のイラスト
(イラスト/鈴木みゆき)
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【1】椅子に座り、痛みのある足のひざを軽く伸ばし、かかとを床につける。両手の親指と人差し指で皿を上下左右に動かし、皿の下の膝蓋下脂肪体を刺激する。【2】かかとを床につけたまま、両手の人差し指を皿の下に入れ込むようにして、皿を上にずらした状態で、リズミカルにひざの曲げ伸ばしを30秒くらい行う。

【ケース2】動いていると痛みが強くなってくる

ふだんはひざの違和感はほとんどないが、歩行中に痛みを感じたり、階段の上り下りで痛みが生じる場合は、体の使い方でひざにねじれが生じたことで負担がかかっている可能性が。ねじれを助長させないように、痛くない範囲で、ひざにつながる筋肉をほぐそう。

筋膜の柔軟性を高める

骨盤をなるべく立て腰を丸めないように椅子に座り膝を揺らしている女性のイラスト
(イラスト/鈴木みゆき)
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【1】骨盤をなるべく立て腰を丸めないように椅子に座る。右ひざが痛む場合は左手を太ももの内側に、右手を皿の上に置く(左ひざが痛む場合は手を逆に)。【2】両手に力を入れ、ひざから下をぶらぶらと揺らし、30秒くらいひざを曲げ伸ばす。

側広筋をほぐしてねじれを取る

椅子に座り、痛い方の足の内側広筋(太ももの内側の筋肉)の上に手を置き、指先を小刻みに動かす女性のイラスト
(イラスト/鈴木みゆき)
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【1】椅子に座り、痛い方の足の内側広筋(太ももの内側の筋肉)の上に手を置き、指先を小刻みに動かして10秒マッサージする。【2】次に、片手を太ももの前に、もう片方の手を内側(少し後ろ)に置き、内側広筋を挟んで圧迫する。【3】そのままの状態で、ひざをしっかり伸ばして太ももに力を3秒間入れ、ひざを曲げて力を抜く。これを10回繰り返す。

脂肪体の柔軟性を高める

椅子に座って痛みのある方の足を軽く曲げ、両手の親指と人差し指で皿を上下左右に動かし、皿の下の膝蓋下脂肪体を刺激する女性のイラスト
(イラスト/鈴木みゆき)
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【1】椅子に座って痛みのある方の足を軽く曲げ、両手の親指と人差し指で皿を上下左右に動かし、皿の下の膝蓋下脂肪体を刺激する。【2】人差し指を皿の下に入れ込むようにして上に動かした状態で、ひざをまっすぐ伸ばし、親指で皿が上に動くのを感じたら、脱力するようにひざを曲げる。これをゆっくり10回繰り返す。

【ケース3】ひざを曲げると痛い

正座などひざを深く曲げる際、正常であればひざの皿は約8cm下に動くが、運動不足などで皿の動きが悪くなると、曲げにくくなり、痛みも感じるようになる。この際、痛む寸前までひざを曲げた状態でひざ皿ほぐしをすると、少しずつひざが曲げられるようになり、痛みも取れてくる。痛みのない人が行えば、ひざの柔軟性を保つ予防に。

筋膜をほぐす

片手をひざの痛い場所に、もう片方を皿の上に置き、皿の上の皮膚を股関節方向に押し上げて固定する女性のイラスト
(イラスト/鈴木みゆき)
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【1】痛い方のひざを伸ばして床に座る(反対側の足は、楽な形に)。片手をひざの痛い場所に、もう片方を皿の上に置き、皿の上の皮膚を股関節方向に押し上げて固定する。【2】1の状態からひざの曲げ伸ばしをリズミカルに30秒間行う。痛くない範囲で行おう。

大腿四頭筋を刺激する

ひざの横から皿を包むように挟み、皿の上の皮膚にしわがよるくらいの強さで圧迫する女性のイラスト
(イラスト/鈴木みゆき)
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【1】痛む方のひざを伸ばして床に座り、ひざの横から皿を包むように挟み、皿の上の皮膚にしわがよるくらいの強さで圧迫する。【2】1の状態からひざを2~3cm体に寄せ、皿がつま先方向に動くのを感じたら、痛みのない範囲でリズミカルにひざを30秒間曲げ伸ばす。

脂肪体の柔軟性を高める

床に足を伸ばして座り、痛むひざをゆっくりと曲げてい女性のイラスト
(イラスト/鈴木みゆき)
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【1】床に足を伸ばして座り、痛むひざをゆっくりと曲げていき、痛みが出たら、痛みが出ない角度に戻し、足裏を床につけて固定する。【2】ひざの皿に両手のひらを重ねて当て、皿を足先の方向、斜め下(外)、斜め下(内)に、それぞれ10回ずつ押す。

【ケース4】ひざを伸ばそうとすると痛い

ひざを伸ばして座ったとき、本来であればひざ裏は床につくが、床につかない場合は、皿の周囲が硬くなっている可能性が高い。やわらかなひざを取り戻すひざ皿ほぐしを行えば、痛みのあるひざの柔軟性も劇的に改善する。変形性膝関節症が進行するとひざが伸びなくなるため、シニアは特に予防や痛み対策として行おう。

筋膜を伸ばす

ひざの下に2~4つ折りにしたタオルを入れる(痛みのない高さに)。片方の手をひざの痛い場所に、もう片方を皿の上に置き、皮膚を足先方向にずらしている女性のイラスト
(イラスト/鈴木みゆき)
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【1】痛い方のひざを伸ばして床に座り、ひざの下に2~4つ折りにしたタオルを入れる(痛みのない高さに)。片方の手をひざの痛い場所に、もう片方を皿の上に置き、皮膚を足先方向にずらして固定する。【2】そのまま痛みのない範囲でひざに力を入れて伸ばし、ひざ裏をタオルに押し付け、力をゆるめてひざを曲げる。これを30秒間繰り返す。

大腿四頭筋を伸ばす

ひざの下に2~4つ折りにしたタオルを入れる。皿を両手のひらで包み、皿の上の皮膚にしわがよるくらいの力で股関節方向に動かす女性のイラスト
(イラスト/鈴木みゆき)
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【1】痛い方のひざを伸ばして床に座り、ひざの下に2~4つ折りにしたタオルを入れる。皿を両手のひらで包み、皿の上の皮膚にしわがよるくらいの力で股関節方向に動かして固定。【2】そのままの状態からひざを伸ばし、ひざ裏をタオルに押し付けたら、力をゆるめてひざを曲げる。これを30秒間繰り返す。

ひざのしなりを取り戻す

皿の下の膝蓋下脂肪体を刺激する女性のイラスト
(イラスト/鈴木みゆき)
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【1】痛みのある方のひざを伸ばして床に座り、両手の親指と人差し指で皿を上下左右に動かし、皿の下の膝蓋下脂肪体を刺激する。【2】人差し指を皿の下側に引っかけて上に押した状態で皿を固定し、足を伸ばしてひざ裏を床につけ、力をゆるめてひざを曲げる。これを30秒間繰り返す。

※イラストは右ひざが痛い場合の例です。

◆教えてくれたのは:理学療法士・土屋元明さん

理学療法士・土屋元明さん
理学療法士・土屋元明さん
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「動きのこだわりテーション」代表。施術を行うとともに、回復に向かう暮らし方やセルフケアを提案。著書に『1日90秒、皿をほぐすだけで、ひざ痛は治る!』(方丈社)など。

※女性セブン2025年2月6日号

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