
花粉症は日本人の「5人に2人」が発症するといわれる“シン・国民病”。「花粉の症状は毎年のことだから……」と、例年通りに市販薬や目薬だけでやり過ごそうとしているなら問題かもしれない。あらゆる感染症が猛威をふるう中、1か月も早く訪れた花粉シーズンでその両方をダブル発症したらどんなリスクがありうるのか。
全国的な飛散量は例年の約3倍
朝起きた瞬間から、くしゃみと鼻水が止まらない。外に出ると、目が充血してかゆい……今年も、花粉症の季節が近づいてきた。だが、今年の花粉はひと味違う。全国的な飛散量は例年の約3倍で、地域によっては“過去10年で最多”の飛散量になるともいわれる。
日本気象協会によると特に西日本での飛散量が多く、関東甲信が前年のおよそ1.6倍ほどなのに対し、近畿は3.8倍、九州は2.7倍、四国はなんと8.4倍とも予想されている。
花粉の飛散量が増えることで、症状や患者数にどれほどの影響があるのか。医療ガバナンス研究所理事長で医師の上昌広さんが言う。

「経験則として、飛散量が多いからといって、花粉症が重症化すると感じたことはあまりありません。ただし、飛散量が多い年は患者の数が増えて、発症期間が長くなりやすいと実感しています。
中には、1~5月までの半年近くスギ花粉に苦しむ患者や、6月以降もブタクサやイネによって、一年中花粉症薬を手放せない患者もいます」
さらに拍車をかけるのが、今年の花粉シーズンのスタートが早いこと。例年は2月上旬から中旬にかけて飛び始めるスギ花粉が、東京都ではなんと1月8日から飛散し始めている。
「例年より、花粉症患者の来院が早いと感じています。1月時点の外来では、インフルエンザより花粉症の患者が圧倒的に多い状況です」(上さん)
新たな花粉症患者を増やしながら、約1か月も早まった花粉シーズン。いまもなお全国的に猛威をふるっているインフルエンザや新型コロナをはじめとするさまざまな感染症との“ダブル流行”が起きているのだ。関西国際大学客員教授で医師の長尾和宏さんが言う。
「流行する時期が近いため、以前から“感染症なのか、花粉症なのかわかりにくい”というケースはありました。初期のかぜなど、微熱と鼻水程度の症状では花粉症と見分けがつきにくいこともあります。
意外と多いのが、それまで花粉症と無縁だった中高年が、かぜだと思って病院に行くと花粉症を発症していたというケースです」
花粉症だと思っていたらコロナに感染
反対に、「花粉症だと思っていたらコロナに感染していた」という人も珍しくない。発熱がない場合や、微熱程度の場合、より見分けがつきにくくなるのだ。ワクチンを接種していても100%感染を防げるわけではないため、“自称・花粉症のコロナ患者”が増えれば、そこからさらなる感染爆発もありえる。過去10年で最悪とされる花粉飛散量で新規花粉症患者が増えればなおさらだ。
「医学的に直接の関連性はありませんが、花粉症を発症していると目や鼻の粘膜が傷ついていることが多く、そこからウイルスが入り込み、感染症を発症するリスクが上がる可能性がある。
また、目をかいたり鼻をかんだりして粘膜に触れる機会が増えるため、接触感染しやすくなると考えられます」(上さん)

そうして感染症にかかった花粉症患者が、そうとは知らず不遠慮にくしゃみをすれば、感染がさらに広がることは想像に難くない。日本医科大学耳鼻咽喉科教授の大久保公裕さんが話す。
「コロナ禍では花粉症患者数が減少したことから〝感染症にかかると花粉症にならない〟と思っている人もいますが、これは間違い。花粉症はアレルギー症状で外出の有無とはそこまで関連性がないものの、感染症については誰もがマスクを着用し、外出を控えていたことで、症状が目立たなかっただけ。
つまり、花粉症のほか、あらゆる感染症が流行している現状では、コロナとインフルエンザの同時感染のほか、それらの感染症と花粉症の同時発症も充分にありえるのです」(大久保さん・以下同)
「ダブル発症」するといつまでも治らない
では、感染症と花粉症がダブルで発症するとどうなるのか。
「感染症は、診断上は治っていても不調が長引く場合がある。そこに花粉が組み合わさると、花粉症の症状がひどくなったように感じることがあります。例えば、コロナの後遺症で鼻の奥がヒリヒリしているときに花粉症を発症してくしゃみや鼻水が出ると、鼻はいつまでも痛いままで、なかなか治らないでしょう」
感染症に加えて花粉症による炎症が重なると、鼻水や微熱が長引いて、いつまでも不調が続く。そうなると、抱えている不調が感染症なのか、花粉症なのか、自分ではわからなくなってくる。そうしてまた別の感染症にかかってもすぐに気づけないため、知らず知らずの間に悪化したり、人にうつしてしまうことも増えるかもしれない。
「感染症か花粉症か見分けがつかないときは、自己判断せずに病院を受診しましょう。熱がないか低ければ耳鼻咽喉科、高ければ内科に行ってください。熱があれば、まずコロナなどの感染症の検査をしてくれるはずです」
手洗い・うがいよりマスクと加湿
これから本格化する花粉シーズンに重症化を防ぎ、感染症を広げないために何をすればいいのか。有効なのが、マスクの着用だ。
「マスクを着用すれば、少なくとも自分が飛沫を飛ばすことは防げるため、ただの花粉症だと思い込んで、人に感染症をうつしてしまったという事態は防げます。あなたのくしゃみが花粉症なのか、感染症なのか、他人には見分けがつかないため、くしゃみなどの症状があるときはエチケットとして着用しましょう」

花粉は不織布マスクを通ることはできないため、花粉症予防には高い効果が期待できる。だが、ウイルスの侵入を防ぐのは難しい。そこで有効なのが部屋の加湿だ。空気が乾燥しているとウイルスだけでなく花粉も飛散しやすくなるため、この時期は湿度を50~60%ほどに保とう。部屋だけでなく、のどの保湿も効果が期待できる。
「粘膜が乾燥していると、ウイルスに感染しやすくなります。こまめに水を飲むほか、のどスプレーやのど飴なども活用し、意識的にのどを潤してください」(長尾さん)
一方、花粉対策用のゴーグルはあまり効果が期待できない。
「いくら目を守っても、花粉が鼻や口から入ってくれば体はアレルギー反応を起こすため、意味がありません」(上さん)
「花粉の季節は鼻をかんだり、涙が出るのでメイクをしない」という人もいるが、これも逆効果。
「ノーメイクで外に出ると、花粉が直接皮膚につくことで、吸い込みやすくなります。花粉症の人ほどしっかり化粧をして、肌が花粉に触れないようにしましょう。目や鼻の周りにワセリンを塗っておくのもおすすめ。花粉を吸着し、吸い込むのをある程度防げます。 また、髪の毛は花粉がつきやすいので、この時期はヘアアイロンで巻いたりせず、ストレートのまま、まとめるのがベスト。帰宅したら上着はできれば玄関先で脱いで、できるだけすぐに手だけでなく髪や顔を洗うことも大切です」(大久保さん)
食生活の改善が効果的
帰宅後の手洗い、うがいは感染症予防においても基本だが、それ以上に大切なのはやはり、免疫力を整えること。
「感染症は免疫力の低下、花粉症は免疫力の偏りが根本的な原因なので、食事や睡眠、運動で免疫力を整えるのがもっとも効果的です。日本人は世界でもっとも睡眠時間が短いといわれているので、最低でも1日7時間以上の睡眠を確保しましょう」(上さん)
長尾さんは、感染症にも花粉症にも、食生活の改善が効果的だと語る。
「砂糖を摂りすぎると肥満細胞からアレルギー物質のヒスタミンが出ることで免疫システムが乱れ、花粉症になりやすくなります。まずは甘いものを控え、適度に太陽光を浴びて体内のビタミンDを増やすこと。
生活習慣を正して免疫力を整えれば感染症にかかるリスクを減らせるだけでなく、花粉症も年単位で治っていく可能性があります」(長尾さん)
恐れすぎずに正しく対処することも心がけたい。
「確かに、花粉の飛散量は全国的に増えていますが、前年の数倍になる地域もあれば、北海道など中には前年より少なくなる地域もあります。
飛散量は地域によって異なるうえ、天候にも左右されます。全国平均だけではなく、自分の住んでいる地域の花粉情報をこまめにチェックしてください」(大久保さん)
近年稀に見る“最悪のシーズン”は、もう始まっている。毎年花粉に苦しめられている人も、そうでない人も今年はリスクと隣り合わせ。用心深く立ち向かおう。

※女性セブン2025年2月20・27日号