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67歳オバ記者を悩ませていた“人と会いたくない病”、お礼の一文さえも億劫に 忌まわしき過去を吹き飛ばした「茨城から届いたいちご」

オバ記者
いちご柄の布地を買いに生地屋さんへ
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2025年となり、ライター歴46年を迎えたオバ記者こと野原広子(67歳)。先日、地元・茨城の知人から「いちご」が届いたという。おいしさに感動するとともに、忌まわしき過去さえも吹き飛ばしたという。一体どういうことか。

* * *

茨城から絶品のいちごが届いた!

つい先日、茨城の知人Nさんから「明日の午前中着でいちごを送ります。気遣いなしの着払いで1020円用意してね」とLINEが来た。わあああ、こうしちゃいられないぞと、ベッドから飛び起きた私。Nさんから送られてくるいちごはそんじょそこらのものではない。完熟したものを箱詰めするから賞味期限はせいぜい2日、3日だ。待ったなし!

で、翌日は朝からスマホと睨めっこして宅配便がどこまで来ているか確認だ。この機能ができてから宅急便で煩わされることがなくなった、とはいえよ。届いてみればさあ、この4パック、どうするよ。

オバ記者
茨城の知人Nさんから届いたいちご!
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一粒口の中に放り込んだ。もうもう、どうしよう。この甘さと酸味と香りの絶妙なバランスは人間が作ったものではない。神技だ。あ、いや、前に昨今のいちごは水耕栽培で肥料と日照時間を完璧にコントロールして作っていると聞いたことがあるから、ま、バイオテクノロジーの力だ、とかなんとか取り乱した私。頭の中は大忙しよ。いちご農家と親戚?のNさんからいちごを送られてきたのは何度目かだけど今回はその数段上だわ。

恩を返すまたとないチャンス

と、思い至ったときひとりの友人の顔が浮かんだの。会うたびに美味しいものをご馳走してくれる仕事仲間のMちゃんだ。彼女は私と違って甲斐性があるんだね。世界中の美味しいものを食べていて、しかも大のいちご好きだ。さらに言えば私は不義理のしっぱなしだから恩を返すにはまたとないチャンス!

オバ記者
アイスをのせて贅沢にいただきます
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さっそく「茨城からいちごが届いたんだけどいる?」とLINEをしたら「いる」という二文字ですっ飛んできた。そして翌日、「いちご、めちゃ甘かった。ありがとう」とLINEしてきた。また欲しいそうな。そしてその日のうちに仲良しのAちゃんに駅のホームで渡したら「素晴らしすぎます!」だって。と、まぁ、今回は四方八方、大ハッピーの“いちご騒動”だったけれど、こうはいかないこともある。

財布がひっくり返っている…

たとえば去年の秋、お米を送ってくれるという茨城のNさんに「送料着払いでお礼なしでいいならいただく」と返信した私。お米の値段が高くなる前とはいえ、どうしたらそんな失礼なことが言えるのよとお叱りを受けそうだけど、まぁ、聞いて。

ありがたい。それはそう。でもこっちにも都合があるのよ。あんまり大きな声では言いたくないけれど諸般の事情でしばらく前から手元不如意でね。早い話、かまどのフタが開かない。財布がひっくり返っている。財政難。ならお米の贈り物はこれ以上ない天からの恵みじゃないのと言われそうだけど、私とて大人の端くれ、てか、アラコキ。

オバ記者
ありがたいはずの贈り物。お返しのことを考えると単純には喜べない
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人様から頂き物をして、「ありがと」で済ませられるとは思っていない。それなりのお返しをしたい。でも、事情が許さない。さあ、どうすると、勝手に自分で自分に追い込みをかけた挙句、捻り出したのが「送料着払い、お礼なし」なの。古い仲のNさんなら全部話したところで何てことないのは百も承知だけど、問題は薄皮一枚で突っ張っている私の気持ちなんだよね。

誰にも会いたくない時がある。お礼の一文を考えるのもおっくう。私の場合、そうは見えないと言われるが実はこんな時がたびたびあるんだわ。それはお財布事情と密接に絡み合っているのは確かで、ちょっと現金が入ってくるとまさに現金。台風一過の空のようにカラッと爽やかになるんだけど、現金薬が効かないことだってある。

両親がもってきた野菜を…自業自得の忌まわしい過去

そんな時に田舎からの到来ものは諸刃の刃でね。生前、私がどこに住もうがお米を持って追いかけてきた両親が米と一緒に運んできたのが白菜4玉とかじゃがいも大袋にいっぱいとか。それを細い体の義父がエレベーターなしの4階のわが家まで肩に担いで階段をよじ登ってくるわけよ。40代でギャンブル依存症の私は、気持ちの表層では「悪いな」とか「ありがたいな」と思っているけど、本心は違う。「もっと薄くて軽くて四角い紙を数枚の方がずっと嬉しいのに」と思っていたの。さすがにそれは口にしなかったけれど、やっかいなのは両親が田舎に帰ってからよ。

オバ記者の母親
昔は両親が持ってくる野菜より現金が欲しかったよね(写真は元気な頃の母ちゃん)
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「白菜、こんなにたくさん、ひとりでどうするんだよ」と言うと母親は「誰にやってもいいべな」と言うけど人に会いたくない病の真っ最中だ。今日こそ、明日こそともらってくれそうな人の顔を思い浮かべては消えているうちに白菜は台所の隅で鮮度を失っていく。米の袋から虫が大量にわきだしたこともある。家の前の畑で収穫した母親自慢のジャガイモは芽が出て茎が現れ、別の生物になった。そのたびに罪悪感に押しつぶされそうになるけどそれでも動けない。そんな自業自得な忌まわしい過去を、今回のいちごはすっかり吹き飛ばしてくれた。

で、調子に乗った私はいちご柄の布地が欲しくなって久しぶりに布地の聖地、日暮里まで足を伸ばしたついでに駅前の中華店『馬賊』へ。日暮里に通い出して約20年、入れなかった店なの。二の足を踏んだのは見るからに本格派だったから。日暮里に行くときは1メーター100円でどれだけ価値ある布地を見つけるかということしか考えていなくて“本格派”は逆に邪道に思えたのね。

「日暮里に行くたびにここでラーメンを食べた」と今は山梨県に住む渋谷生まれのM子から何度か聞かされて、今回、思い切ったんだけど、麺は手打ちでシコシコ、ツルツル。挽肉たっぷりの餃子も、ああ、何を考えて私は20年も前を通り過ぎていたのかしら。

オバ記者
美味しい! もっと早く食べれば良かった
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と思えば、長い間、私を悩ませてきた人に会いたくない病も私の単なる思い込みだったのかもな。そうだよ。これからは今までやったことないことをやろうっと。外は木枯らしだけど、春は着実にそこまで来てるもんね。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

オバ記者イラスト
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1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。

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