
人間が病気で感じる痛みのなかで最大級のものが尿管結石症だという説は比較的よく聞く。突然に強い痛みに襲われるので「刺すような痛み」「激痛」だとされる。猫の場合はどうなのだろうか。尿管結石を含め、猫の尿路結石症について、獣医師の鳥海早紀さんに病気の症状や予防法について聞いた。
尿の変化、排尿行動の変化が尿石症のサイン
尿路結石症(以下、尿石症)は、何らかの理由で尿のミネラル濃度が高まり、腎臓、尿管、膀胱、尿道という尿の通り道で、尿中のミネラル成分が結晶化したり石になったりする病気だ。石が尿路の内側を刺激して炎症を起こしたり、膀胱内で細菌が繁殖する原因になって2次的に膀胱炎になったり、場合によっては尿の通り道をふさいでしまったりする。
結石で尿路がふさがって排尿できなくなって時間が経つと、血液中に老廃物が増える尿毒症になることも。尿毒症は体内に毒素を貯め込み、全身の臓器に悪影響を及ぼす、命にかかわる病気だ。
結晶化するのは尿に含まれるリン、カルシウム、マグネシウムなど。特に猫では、尿がアルカリ性に傾くことでできるリン酸アンモニウムマグネシウム結石(ストラバイト結石)が多いという。
人間の尿管結石症なら、大の大人が悶絶する病気だ。猫が感じる痛みはどれほどなのだろうか。鳥海さんは「猫に聞いてみても答えてくれるわけではないので難しい」と話す。
「動物病院へ尿石症の猫ちゃんを連れて来られた飼い主さんの多くが、『“ナー!”と鳴きながらおしっこをしていて、そのおしっこに血が混じっていた。痛そうに見えた』といった訴えをされます。炎症なので、痛みもあるのかなとは思いますが、鳴いたのが痛いからか、単に違和感があるからなのか、確かなことは分かりません」(鳥海さん・以下同じ)
猫が大変な激痛に見舞われていないことを願いたい。排尿時に鳴くという以外に、主な症状として挙げられるのが、尿の変化だ。
「尿の臭いが強くなったり、血尿もそうですし、尿が濁ったりします。石まではいかない小さな結晶が尿に混じって出てくることもあって、ペットシートにキラキラしたものが見えるという話も聞きます。しょっちゅうトイレに行くわりに尿が少ししか出ないというのも、尿石症の代表的な症状ですね」

尿石症の予防、まずは水をしっかり飲ませる
尿石症の治療では、結石のできた位置や大きさ、症状などに合わせて、内科的治療と外科的治療を組み合わせる。
「閉塞しているなら、とにかく閉塞を解消するのが第一。外科手術で結石を取り除きます。閉塞がなければ原則、投薬や、ミネラルを抑えた療法食などの内科治療を行います。生活の中でしっかり水を飲ませてあげることも大事です。軽度の尿石症なら、飲水量を増やすことで治ることもありますよ」
そもそも、尿石症になる原因の一つが、飲水量の少なさ。尿が濃縮されると結晶や石ができやすくなる。水をたくさん飲むと、排尿の頻度も増えて、膀胱内に尿が長時間とどまらないので、ミネラル成分の結晶化や細菌の増殖を避けられる可能性が上がる。
「猫が自発的に飲む以上に、水分を摂取させようと思うと、なかなか難しく、工夫が必要です。水を飲める場所を増やす、飲み水をいつでも新鮮な状態にしておく、水をちょろちょろ出したりして動きをつける、冬場は少し温める、フードに水を混ぜる、水においしそうな匂いや味をちょっとつける――などなど、種々の工夫を試してみるといいですね」
お魚系おやつのあげすぎ注意
ミネラル成分を摂り過ぎないことも重要だ。ミネラル成分は、猫にとっても必要なもので、市販のキャットフードには適量含まれているはずだが、それ以外に追加で摂取すると過剰になってしまう。
「にぼしとかかつおぶしとか、お魚系のおやつにはカルシウムやマグネシウムが多く含まれているので、フードと別に、この系統のおやつをよく与えていると、ミネラルを過剰摂取することになります。体質によって、ミネラルを多く摂っても健康被害に至らない子もいるのですが、被害が出る子もいるので、飼い主さんがバランスに気を付けてあげてください」

もう一つ、尿石症の予防になるのが、肥満防止だ。
「太っていると動くのがおっくうになって、水飲み場やトイレに行く回数が減りがちです。飲水量が減ったり、排尿回数が減ったりすると、尿石症のリスクが増してしまいます。ここは飼い主さんが気を付けてあげられる部分なので、猫ちゃんの体重管理に努めましょう。特に避妊・去勢済みの子は太りやすいので要注意です」