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《闇営業から6年》カラテカ入江「今を知ってもらいたいんです」友達5000人の人気芸人が「どん底で見た風景」

清掃業に足を踏み入れたころを振り返るカラテカ入江慎也
写真2枚

もう芸人には戻れないんだ

東京に戻った入江は、気持ちを整理することに努めたという。

「もう芸人には戻れないんだ、ということを自分に言い聞かせるように、衣装や台本などを処分したんです。過去にしがみつかないために。ごみを捨て、床を磨き上げると、部屋が広々するのと同時に心もスッキリして気持ちよかった。それが清掃の仕事をしようと思った“原点”です。新しく仕事を探すならと、自分で決めていた3つ条件である『なくならない仕事』『人脈が活かせる仕事』『手に職になる仕事』に合致していたことも後押ししてくれました」

ネットで求人を出していた掃除会社に電話し、入江は40才過ぎのセカンドキャリアをアルバイトからスタートさせた。

「その面接で、何を血迷ったか僕はこう言ってしまったんです。『掃除の基礎を覚えて2か月で独立したいので2か月の限定で働くということでもいいでしょうか』って。それでも嫌な顔ひとつせず、『2か月でも死に物狂いで頑張れば覚えられると思いますよ』といって採用してくれました」

「セカンドキャリアも人に恵まれた」と入江は言う。確かにそうだろう。清掃業の素人が訪ねてきて、「あなたの仕事を2か月でマスターする」と言われて温かく受け入れられる人は、それほど多くないはずだ。

「年下の先輩」の前で捨てられなかったプライド

スポットライトを浴びる華やかな世界から清掃業への転身。「いまは笑い話ですが」と前置きして入江はこう明かす。

「文字盤が派手なイタリア製高級ブランド腕時計と、赤いグッチの長財布をつけて出勤していました。もちろん作業中には外すのですが、きっと過去の栄光にしがみつきたかったのでしょう。プライドを保つための『鎧』のような存在だったのかもしれません」

現場仕事で一緒に組んだのは10才も年下の先輩。テキパキと仕事をこなし、人間的にもいい人だと感じたが、寡黙な人柄でなかなか打ち解けることができなかった。そこで入江は一計を案じた。

「その先輩の趣味である競馬の予想を聞き、毎週同じ馬券を買うことにしたのです。僕はまったく興味がなく完全に聞き役でしたが、先輩がレース予想を熱く語り、それを買った僕が『また外れたじゃないですか〜』とツッコむことで、急速に距離を縮めることができました」

小さなことだが、こういったことも入江のいう「動く」ことなのだろう。

「2か月で独立する」と宣言して清掃業入りした入江だが、さすがに2か月ですべてを習得するのは難しく、アルバイト生活は1年に及んだ。入江が代表取締役社長を務める「株式会社ピカピカ」が産声をあげたのは、2020年7月7日のことだ。

「僕はたくさんの先輩やお世話になった人に迷惑をかけたし、いまでも禊が済んだとは思っていません。それでも、このままでは人生を終われないと強く思っているんです。『反社の人と付き合いがある人だ』と思われたままでは終われない。入江は変わったんだよ、いま、こういうことをやっているよ、って知ってもらいたいんです」

(後編へ続く)

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