
Netflixドラマ『地面師たち』は、世界的にも大ヒットを記録し、社会現象となった。なかでも豊川悦司(63才)が演じた地面師グループのリーダー・ハリソン山中の静かな狂気は大きな注目を集めたが、いま、その続編制作に「待った」がかかっているという──。
彼は祭壇に飾られた中山美穂さん(享年54)の写真を、息を凝らすようにじっと見つめていた。無造作に流した長髪が、少しだけ揺れる。彼女との時間をゆっくりと振り返っていたのだろう。永遠に帰らぬ旅に出た中山さんを見つめる男の背中は、いつもより少しだけ小さく見えた──。
中山さんの「お別れの会」が4月22日、東京国際フォーラムで行われた。昨年12月6日の明け方、入浴中に不慮の事故で急死した中山さんを偲び、多くの関係者とファンが駆けつけた。
友人代表として弔辞を述べたのは、中山さんから姉のように慕われていた小泉今日子(59才)だ。ほかにも永瀬正敏(58才)、森口博子(56才)ら、故人と親交が深かった著名人らが姿を見せるなか、冒頭のようにひと際静かに列席していたのが豊川悦司だった。
「豊川さんと中山さんは恋愛映画の金字塔といわれる『Love Letter』(1995年)で共演。今年4月4日には映画の国内公開30周年を記念した4Kリマスター版の初日舞台あいさつが行われ、その場で豊川さんは『ぼくの隣に美穂ちゃんがいないのが、とても残念な思いです』と故人への思いを語りました。2人は2001年に大ヒットしたドラマ『Love Story』(TBS系)でも共演し、盟友とも呼べる仲でした。最後のお別れの場になくてはならない大切な友人のひとりでした」(芸能関係者)
だが豊川について、「欠席するのではないかという情報が出回っていた」と話すのは、とある映画会社関係者だ。
「事前に関係者で共有された出席者名簿から豊川さんの名前が消えたタイミングがあり、欠席情報が駆け巡ったのです。結果的に出席になったわけですが、どうも豊川さんには体調面の不安があったようで……」
ハリソンのオーラを漂わせたまま
時を同じくして、あの超大型ドラマの関係者の間でも、豊川の異変が取り沙汰されていた。
「昨年7月にNetflixで配信されたドラマ『地面師たち』の続編の撮影が、今秋にも始まる予定でしたが、4月に入ってから、突然撮影の延期が決定したと聞いています。超大型作品だけに数か月間のスケジュールが白紙になってしまったスタッフも少なくなく、混乱する声があがっています。
延期は複合的な理由があるようですが、関係者の間では“豊川さんの体調”が大きな要因だといわれています。内々には半年の延期とされていますが、豊川さんを心配する声が漏れてきています」(大手配信会社関係者)
「地面師」とは、他人の土地の所有者になりすまし、不動産デベロッパーなどに土地の売却を持ちかけて、多額の代金を騙し取る詐欺師のことだ。ドラマでは、2017年に実際に起きた「積水ハウス地面師詐欺事件」をモチーフに、地面師たちの暗躍が描かれた。
昨年7月に配信がスタートすると、騙す側と騙される側のスリリングな攻防が話題になり、“中毒者”が続出。また、ピエール瀧(58才)演じる地面師の「もうええでしょう」というセリフが、2024年の「新語・流行語大賞」にノミネートされるなど、社会現象ともいえる大ヒットを記録。Netflixの日本のドラマランキングの1位をしばらく独走し、世界での人気の指標となるグローバルランキングでもトップ3入りを果たした。

地面師を演じた主演の綾野剛(43才)、脇を固めるピエールや小池栄子(44才)らクセ者揃いの俳優陣のなかで、異彩を放ったのが地面師グループのリーダー・ハリソン山中を演じた豊川だった。
どんな危機が訪れても動じないミステリアスなたたずまいと底知れぬ恐ろしさを持つハリソンを怪演した豊川。地面師グループを裏切った仲間に、「最もフィジカルで、最もプリミティブで、そして最もフェティッシュなやり方でいかせていただきます」と丁寧な敬語で語りかけるやいなや、容赦ない暴行を加える場面は、視聴者に大きなインパクトを与えた。
《かなり面白い役をいただいたというか、とてもやりがいのある役だと思いました》──インタビューでハリソン役についてそう語った豊川は、撮影に全身全霊で臨んだという。
「撮影にカットがかかって、休憩のためほかの演者が控室へ移動するなか、豊川さんだけはスタジオに残り、ハリソンのオーラを漂わせたまま静かにじっとして次のシーンに備えていました。自分の中に入ったハリソンを一瞬でも離したくない、という気概を感じましたね。そんな豊川さんの姿勢のおかげで、現場には常に心地よい緊張感が漂っていました」(制作関係者)
世界的にも注目を集めた作品になっただけに、多くのスタッフが秋に始まる続編の撮影に向けて士気を高めていた。しかし、大まかな撮影スケジュールが関係者に伝えられる予定だったこの4月、彼らに届いたのは「撮影延期」の知らせだった。
「一般的に、クランクインが秋頃とかなり先なのに、4月の段階で延期が決定するのは、異例ともいえるほど早い。第二シリーズでは、新しい詐欺事件の話ではなく、地面師のメンバーたちがなぜ詐欺に手を染めるようになったかという前日譚が描かれると聞いていました。冷酷無情で謎めいたハリソンにどんな過去があったのかは、続編においてひとつの山場なだけに、早く豊川さんが演じるハリソンが帰ってくることを願っています」(前出・大手配信会社関係者)
4月上旬、豊川の姿は自宅近くの神奈川・鎌倉にあった。その日、豊川は愛犬の黒いトイプードルを連れて海沿いの道を散歩したのち、地域住民との交流を楽しんだ。
「見た目はいたって元気そうですが、実は豊川さんは重い病気を抱えているそうで、その病気と向き合いながら仕事を続けていると聞きます」(豊川の知人)

大阪出身の豊川は関西学院大学中退後に上京し、劇団員を経て1989年に映画『君は僕をスキになる』でデビュー。1992年のドラマ『NIGHT HEAD』(フジテレビ系)でブレークして以降、中山さんとの映画『Love Letter』やドラマ『愛していると言ってくれ』、『青い鳥』(ともにTBS系)などの人気作品に立て続けに出演し、1990年代を代表する売れっ子俳優となった。
プライベートでは1997年に12才年下のヘアメイクと結婚して1男1女に恵まれるも、2005年に離婚し、子供は前妻が引き取った。
「その後、元エステティシャンの女性と事実婚状態が長く続き、2015年に彼女が女児を出産したタイミングで入籍して、家族で鎌倉に居を移しました」(前出・芸能関係者)
新たなスタートを切った豊川はますます俳優業に精進を重ねた。
「若い頃はトレンディードラマがメインでしたが、年齢を重ねるとともに役の引き出しが増え、渋さや迫力がある演技が光るようになりました。私生活では年に数回、大好きなハワイで息抜きするものの、基本は仕事第一。多いときは年に十数本の映画出演をこなし、常にストイックに演技に打ち込んでいます」(前出・映画会社関係者)
撮影できないシーンもあった
近年は『地面師たち』だけでなく、2022年公開の映画『キングダム2 遥かなる大地へ』、2024年にAmazonプライムで配信された『No Activity』シーズン2など話題作への出演が相次いだ。だがその間に体は少しずつ悲鳴をあげていた。昨年11月、豊川はかねて痛めていた腰の手術に踏み切った。
「豊川さんは若い頃から腰痛持ちで、2018年公開の映画『パンク侍、斬られて候』の撮影中にギックリ腰を発症し、少しでも症状を和らげるべく、共演の綾野(剛)さんに1時間近くマッサージをしてもらっていたことがありました。
古代中国の覇権争いを描いた『キングダム2』では合戦シーンの撮影中に腰痛の強烈な痛みにより動けなくなり、激しいアクションシーンなど、一部撮影できないシーンもあったそうです。責任感の強い豊川さんは今後の仕事で迷惑をかけないためにも、忙しいスケジュールの合間を縫って腰の手術に踏み切りました」(前出・豊川の知人)
しかし、手術をしてもなお、この腰の痛みが続いているという。
「腰だけでなく背中や首筋にも激痛が広がり、鎮痛剤をのんでも効果がなかった。かなりの回数に及ぶ通院や治療を重ねるなかで、あらゆる可能性に備えなければいけない状況になっていったそうです。要はただの腰痛ではなかった。これから長期にわたって治療が必要で、長くつきあっていかなければならないと考えているようです。
いまは元気ですが、数か月先にどんな体調の変化があるか……だから、この秋の『地面師たち』の続編の撮影を、大事をとってキャンセルしたのでしょう」(前出・豊川の知人)

3年前に還暦を迎えた豊川は、健康志向を強めていたという。
「もともとかなりの愛煙家でしたが、数年前に“体に悪い”と禁煙を開始しました。最近は健康を気遣って仕事のペースを少し落とし、家族と過ごす時間を増やしてワークライフバランスを大切にするよう心がけていたそうです。本人は“なんでこのタイミングで……”という思いが強いでしょうね」(前出・豊川の知人)
所属事務所に尋ねたところ、こう回答した。
「現状、明確な診断が下されてはおらず、腰の治療と同時にさまざまな検査にあたっているところです。今後もお仕事は続けてまいります」
人生の難所にさしかかったが、豊川は逆境に動じない「美学」を持つ。
「豊川さんは若い頃から素の自分を表に出したくないという意識が強く、『笑っていいとも!』や『徹子の部屋』といったトーク番組は何度出演依頼が来ても断っていました。彼は“勝ち目のないことには抗わない”“何かを失えば、必ず何かが手に入る”という信念を持つことを度々口にしており、いまは自分の状況と向き合いながら、そこから何を得ようか思案しているところでしょう。この先は大切な家族のために壮絶な闘病を続ける強い覚悟を持っているようです」(前出・豊川の知人)
豊川の苦悩と悲哀に満ちた演技を待ち望むファンはあまりにも多い。
※女性セブン2025年5月8・15日号


