
死は誰にでも平等に訪れる。そしてそれがいつなのか選ぶことはできない。だが、最期の瞬間をどのように迎えるか望み、そのために準備することはできる。作家で僧侶の瀬戸内寂聴さん(享年99)の最晩年の10年間をそばで見つめたエッセイスト・瀬尾まなほさん(37才)が、今も大切にしている寂聴さんの教えについて語った。
ネガティブにならず最期の瞬間まで走り抜けたい
作家として、僧侶として、女として、世の女性に多大なる影響を与えた瀬戸内寂聴さん。100年近くに及ぶ生涯の最晩年を10年間にわたって最も近くで見つめた。66才差の2人が出会ったのは、瀬尾まなほさんが京都外国語大学の4年生だった2011年のこと。

「友人の紹介で会いましたが、初めての面接で、瀬戸内はまったく縁のない私の目線まで降りてきて、緊張をほぐしてくれました。すごく話しやすく、その瞬間から瀬戸内の魅力に惹かれていたと思います」(瀬尾さん・以下同)
大学卒業後、寂聴さんのもとで働き始めた。寂聴さんはすでに米寿を迎えていたが、終活とは無縁だった。
「『もうすぐ死ぬから』と口では弱音を言うものの、実際には常に未来に希望を持って行動していました。100才が近づいても終活にはまったく関心を寄せず最後の最後まで走り続け、その瞬間、瞬間を大切に生きていました。
何事にも好奇心を持って挑戦し続ければ、人はいつまでも若々しくいられるのだと感じました」
寂聴さんが理想としたのは「書斎でペンを持ったまま絶命しているのをスタッフが見つける」という逝き方だった。この理想をほぼ実現したと瀬尾さんは語る。
「連載を5つ抱えた状況で、突然の急変により旅立ちました。最後は病院で亡くなるかたちでしたが、直前まで仕事をし、理想通りの逝き方でした。長患いすることも要介護になることもなく、私たちに負担をかけず自立して、最後まで自分の意思で生きた。すごく立派だったと思います」
「自分自身を愛し、大切に」という教え
SNS時代の現在、ネットには死に関する情報があふれて、バッシングや心のない書き込みで精神を病む人が続出し、最悪の場合、自殺にさえ追い込まれる。生き苦しさを抱える女性を支援する団体でも活動する瀬尾さんは、死が身近に迫る難しい時代だからこそ、寂聴さんの教えを大切にしたいと語る。

「私が瀬戸内に言われたのは『自分自身を愛しなさい』『自分自身を大切にしなさい』ということでした。難しいことですが、もし私自身が絶望して死にたくなっても、その言葉を思い出せば立ち止まることができるかもしれません。
こうした言葉の本当の意味を、リアルの関係のなかで伝えていくことも必要だと思います。安心できる居場所があれば救える命もあるかもしれません」
暗い時代に逆らうように、死の直前まで明るく前向きに生きた寂聴さんの姿は、瀬尾さんが理想とする最期と重なる。
「私も瀬戸内のように、自分の年齢とともに死を意識しても、最後の最後まで死ぬことに対して受け身になるのではなく『もっとやりたい』『もっとこうしたい』という希望や欲望を持ち続けて、死に対してネガティブにならず走り抜けたい。できれば瀬戸内のように、最期の瞬間までピンピンして、パッと死にたいです」
◆エッセイスト・瀬尾まなほ
せお・まなほ/1988年、兵庫県生まれ。京都外国語大学卒業後、寂庵に就職。瀬戸内寂聴さんの秘書となる。エッセイストとしても活躍し、新著に『寂聴先生が残してくれたもの』。
※女性セブン2025年5月8・15日号