
医療費は誰でも原則3割負担、たとえ高額な治療を受けても限度額以上は「高額療養費制度」で返ってくる――「世界的に見て、日本の公的医療保険制度は充実している」といわれる。だが、その制度には、多くの人が知らない“落とし穴”がある。高額療養費制度にも“改悪”が加えられようとしているいま、公的保険だけで安心できたのはもはや昔の話。「医療保険」「生命保険」を賢く使いこなして、人生100年時代のあらゆる“もしも”に備えなくてはならない。そこで、治療費・薬代だけではない「意外な医療費」について着目する。
本当に困るのは「意外な医療費」
あらゆるものが値上がりしているいま、医療費も例外ではない。2022年度の厚生労働省のデータによれば、国民1人あたりの年間医療費は平均37万8800円と前年度から約1万5000円増となった。当然ながら、高齢になるほど、また大きな病気にかかるほど医療費はこれを超えてさらに多くなり、65才以上では1人あたり約77万6000円だ。
「高額療養費制度で、月の医療費は10万円かからないので心配はいらない」といわれるが、それはあくまで「高額療養費制度の対象になった場合」の話。問題は、病気のときにかかるお金は「治療費」だけではないということ。
例えば、50~60代の女性に多いとされる乳がんでは、一般的な医療費として総額約300万円、少なくとも100万円はかかることケースが多い。しかしすべてが高額療養費適用となるわけではない。ファイナンシャルプランナーの飯村久美さんが言う。
「乳がん治療における入院での差額ベッド代や専用の下着の購入費用、抗がん剤治療によって髪の毛が抜けた後のウィッグ代など、健康保険の対象にならないものは高額療養費も適用されず、すべて自己負担です」
事実、10日以内の短期間の入院であっても、約半数が15万円以上の出費となっている。治療費以外に必要になる「意外な医療費」は多く、その代表格が交通費や宿泊費だ。
「地方に住んでいる人の場合、都市部の病院に通わなければならず、毎回交通費やガソリン代がかかることは少なくありません。都市部に住んでいる人でも、例えば抗がん剤のインターバル期間中は病院近くのホテルに泊まらなければならないことも。
ほかにも、入院中の差額ベッド代や食事代、パジャマ代、お見舞いや快気祝いのお返し、人によっては子供のシッター代なども必要になるうえ、入院による収入減が家計に大きなダメージとなる人も多いでしょう」(ファイナンシャルプランナーの松浦建二さん・以下同)
さらに「治療に直接関係のある出費」でさえ、全額自腹で払わなければならないこともある。先進医療や国内未承認の抗がん剤など自由診療が必要になった場合は、いずれも健康保険の対象外のため、どれだけ高額になろうとも高額療養費の対象にはならないのだ。

高額療養費制度は返金までに約3か月
全国民に向けたものである以上、公的医療保険はあくまでも「必要最低限のベーシックな部分」しかカバーしてくれないのが現実だ。
そもそも高額療養費制度は「医療費が高額になったら、上限額を超えたお金が戻ってくる」もの。たとえ対象になったとしても、基本的には自己負担額を含めていったんは全額を自分で払う必要があり、申請から給付までの期間は、平均3か月にもなる。治療後はすぐに働けないケースも多く、収入がないままに生活費がかかる人も少なくない。
こうした不測の事態に備え、治療中の生活の支えとなるのが民間の医療保険だ。高額療養費制度とは異なり、診断が確定した時点でかかった医療費の金額にかかわらず、契約通りの給付金を受け取ることができ、請求から受け取りまでにかかる時間は原則としてわずか5営業日。診断書を取る必要もなく、病院の領収書などを送るだけで請求できる場合があるなど利便性が高い。

また、高額療養費で補塡されるのは「自己負担分を除いた残りの金額」なので、手元にお金が残ることはないのに対し、医療保険で受け取れるお金は“何に使ってもいいお金”だ。
「所定の条件に当てはまりさえすれば実際にかかった医療費にかかわらず、最初に契約した分のお金が受け取れる。高額療養費の対象にならない差額ベッド代や交通費、家族の食事代などはもちろんのこと、旅行でも貯蓄でも、何にでも使っていいのです」

高額療養費とダブル使いで盤石
リウマチや骨粗しょう症といった、女性に多い病気は1回あたりの治療費が高額療養費制度の1か月上限に至らないことや、月をまたぐ入院によって結果的に負担が大きくなるケースも多い。女性の病気に幅広く対応する医療保険を選ぶことで、治療費の大小にかかわらず給付金を受けることができる。
「医療保険に入っていても高額療養費制度は使えます。高額療養費の給付額計算でも、医療保険から支払われる保険金・給付金を差引く必要はない。2つを併用することで、医療費はもちろん治療中や予後の生活が保障され、安心できるでしょう」(飯村さん)
※女性セブン2025年5月8・15日号