
新しいことを始めたくなる春、「日記」をつけ始めた人も多いのでは? しかし、面倒などの理由で三日坊主に終わるケースも少なくない。でももし、日記を書くだけで血圧が下がって元気になったり、心が晴れて幸せになれたりしたら――そんな夢のような日記について解説する。
本能的な感情を日記に書いて解放する
日記を書く目的は一般的に、記録のためや気持ちの整理のためなどだが、血圧が下がる、うつ病の症状が改善するといった、心身の健康を取り戻す効果が期待できると言うのが、精神科医の最上悠さんだ。

「これを『筆記療法』といい、特に心の奥に眠る、自分でも気づけない抑圧された感情を知るために書く日記を『感情日記』と呼んでいます」(最上さん・以下同)
抑圧された感情とは、喜怒哀楽に代表される、老若男女に共通する本能的なもの。これを一次感情と呼ぶ。これらの感情は、生じた瞬間に丁寧に感じられればストレスとして蓄積しないが、感じたままに喜怒哀楽を表すのは、社会人には難しい。
「悲しみや不安といったネガティブな感情を無理にこらえてしまうと、いつまでも消えないゆがんだ感情を生み出します。たとえば、夫にゆっくり話を聞いてもらえず無視され、本当は寂しくて悲しいのに、それを素直に感じられないことで、感情がゆがんで怒りや恨みに変わるというわけです」
激しい怒りやいつまでも消えないイライラは、体にも悪影響を及ぼす。
「自分の一次感情と向き合い、それを日記に書く、つまり表現することは“感じる”ということですから、心が解放されます。そうすると、精神的ストレスがやわらぎ、自律神経系や内分泌系、免疫系などのバランスが整うのです」
「感情日記」の書き方
感情日記は、「出来事先行型」「感情先行型」「洞察先行型」のうち、書きやすい型にのっとって書くだけ。「出来事」とそのときの「感情」、なぜそう感じたのかという「洞察」を意識して書こう。

具体的にどう書けばいいのか――Q&A
具体的にどう書けばいいのか、Q&Aで紹介する。
Q.手書きではなく、パソコンやスマホで書いてもいいですか?
A.感情をいちばん素直に表現できる方法でOK
「ノートに手書きはもちろん、パソコンやスマートフォンなど、記録する手段は問いません。ポイントは、自分の感情をいちばん素直に表現しやすい方法を選ぶことです」
Q.一次感情がうまく感じられないし、書くとつらくなるだけなのですが…
A.一次感情の感度が低下しているのかも
「感情が書けない、書くと苦しくなるという人は、長年、本音を押し殺してきたため一次感情の感度が低下している可能性が。無理をせずに取り組み、つらすぎるなら心理カウンセリングを受けて」
Q.人の悪口を書いてもいいですか?
A.心の奥に触れるためなら何を書いてもOK!
「本当の感情に迫れるのであれば、悪口でも恨みでも、何を書いても構いません」。逆にいくら書いても感情が深掘りできない場合は、悪口の背後にある感情(悲しみや不安など)を掘り下げてみよう。
Q.文章量は多い方がいい?短いのはだめでしょうか?
A.感情が感じられれば長さや時間は自分のペースで
「自分の感情と向き合うことが大切なので、文章量やかける時間は関係ありません。ただし、疲れてしまうと長続きしづらくなります。上限を20分などと自分なりに決めて取り組むのがおすすめです」
Q.最近のつらい出来事でなくても構いませんか?
A.過去のつらい思い出でも楽しいことでもOK
「直近の出来事から思い出が引き出されることはよくあります。それが封印を解く、まさに日記を書く意味そのもの。楽しいのも一次感情。心底楽しむのは意外に難しく、これができれば相乗効果大」
Q.どれくらい続けたら効果が感じられますか?
A.人それぞれだが1~2回で効果を感じることも
「実際の患者さんでは1~2回で痛み止めや降圧薬が劇的に減らせたケースもありますが、いまの感情を感じる心の健康度で個人差があります。研究では3~4回で効果が出るケースが多いようです」
◆精神科医・最上悠さん
うつや不安、トラウマや依存症に対する心理医学が専門。著書に『日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる「感情日記」のつけ方』(CCCメディアハウス)、『きっと、心はラクになる』(かんき出版)など。
取材・文/上村久留美
※女性セブン2025年5月29日号