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《ドラマ『夫よ、死んでくれないか』に共感する妻たち》夫の死を願うようになったらどう対処すべきか…安易に離婚を選ぶより、物理的に離れることが重要 

夫への不満が高まり、死を願ってしまう女性がいる(写真/イメージマート)
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『夫よ、死んでくれないか』──いま“夫に死んでほしい妻”をめぐって、数々の考察がなされ、議論を呼び、共感を集めている。しかしこれは、実際に起きた事件ではない。現在放送中のテレビ東京系ドラマのタイトルだ。

丸山正樹さんの同名小説が原作で、安達祐実(43才)、相武紗季(39才)、磯山さやか(41才)がトリプル主演を務める。夫に強い不満を持つ3人の妻が、満身創痍で命を削りながら“幸せ”を求め、あがく物語だが、放送が始まった当初はあまりにもストレートなタイトルが物議を醸した。夫に対して「死んでくれないかなぁ」と切実に願う3人の妻の姿に、「いくらなんでもセンセーショナルすぎる」と評され炎上したのだ。

しかし一方で、「よくぞ言ってくれた」「私も夫に死んでほしい」と秘かに共感する妻の声も聞こえる。

賛否両論を呼んだドラマの背後には、夫婦のいまをめぐる世相が潜んでいる。

「定年退職した夫」が毎日家にいる地獄…「離婚」を選ぶべきか

ドラマでは働き盛りの女性2人と専業主婦が主人公になって夫の死を願う。女性の社会進出が一般化したいまを生き、社会と家庭の両立、男女差別、働くか家庭に入るかの選択などのリアリティーを感じさせるが、実際には年配の女性の方が夫への不満が高まっているかもしれない。

「家にいる夫が本当に邪魔なの!」

先日、コラムニストの吉田潮さんはたまたま乗った路線バスで、70代くらいの女性が隣の女性と大声でこう会話しているのを耳にした。

「そうか、この女性は夫に死んでほしいんだなあって思いました(苦笑)。確かに選択肢が多くてやり直しがきく現役世代より、定年になった夫がずっと家にいる世代の女性の方が夫婦の問題は深刻ですよね。退職金も手に入り、あとは夫婦とも老いていくだけだから、彼女たちは『夫よ、死んでくれないか』と心のなかで毎日つぶやいているかもしれません」(吉田さん)

昨年、夫が還暦を迎え、定年退職したというAさん(63才)は、まさに毎日、心のつぶやきを繰り返している。

「結婚して38年になりますが、思いやりやいたわりの気持ちのない夫に、怒り、絶望し、果ては殺意を抱く生活です。結婚した当時は結婚したら女性は家に、というのがまだ一般的でしたから私も専業主婦でした。ある程度の亭主関白は時代もあるでしょう。

でも、産後の肥立ちが悪く横になっていたときも『メシができていない』と、夫は自分だけ外食していましたし、『子供の世話は妻の仕事、おれは働いてる』と土日も家にいることはほとんどありませんでした。

子供が巣立ってこれからは好きなことをして暮らそうと思ったら、退職した夫が『おれの食事はどうするんだ』『せっかくだからどこかに出かけよう』などと干渉してくるようになった。もうウンザリです。いなくなってほしいけど殺すのは非現実的。離婚も頭をよぎります」

「離婚」よりもただただ「いなくなってほしい」と願う妻が多い(写真/PIXTA)
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いくつも積み重なった小さな恨みが限界点に達すると、「夫が死ねばいいのに」という思いが生じる。それだけに夫婦生活が長くなるほど爆発のリスクは大きくなる。

そうした状況にはどう対応すればいいのか。絶対にやってはならないのが、実際に手を下したり、安易に熟年離婚に踏み切ったりすることだ。夫婦問題カウンセラーの高草木陽光さんが解説する。

「手を下していけないのはもちろんですが、すぐ離婚するのもよくない。夫の歯ブラシでトイレ掃除をしたり、夫のみそ汁に向けて雑巾をギュッと絞ったりして腹いせする人もいますが、それらは一時的にスッキリするだけで根本的な解決にはなりません。本当に耐え難いほど嫌なら、まず夫と距離をとる計画を立てることが重要です」(高草木さん・以下同)

切迫した状況の場合は入念なプランが必要となる。以前、高草木さんは監視や束縛をやめないモラハラ夫からの妻の逃走をサポートしたことがある。

「独占欲が強く、興奮すると何をするかわからない危険な夫で、妻は見つからずに逃げる必要がありました。彼は在宅勤務で睡眠も不規則でしたが、夜逃げ業者や妻の両親などを巻き込んで慎重に計画を進めて、彼が寝入った朝4時に逃走計画を決行しました。その後、彼女は離婚手続きを進めたそうです」

まずは「夫と物理的に離れること」が重要

“やるか、やられるか”という緊急性の少ない場合も、まずは「夫と物理的に離れること」が求められる。公認心理師の小高千枝さんは「物理的距離イコール心の距離なんです」と指摘する。

「同じ家のなかにいても夫がリビングなら妻は寝室で過ごすなど、居場所を変えることが重要です。距離が近くなると感情が入り込んで視野が狭くなり、憎しみの感情にとらわれてしまいます。まずは物理的に夫と離れて気持ちを落ち着かせることが大事です」

同じ家に住んでいても、夫と食事の時間を別にするだけで距離がとれる (写真/PIXTA)
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悩みをひとりで抱え込み、悶々と考え込まないことも肝要だ。いまはSNSに鬱屈した感情を書き込んだり、ChatGPTに悩みを相談したりする人もいるというが、SNSやAIではなく生身の人間も頼りたい。

「100%味方だけど冷静に話を聞いてくれて、自分の意見を押しつけるのではなく客観的に意見を述べてくれる人が重要です。一言でいえば、信頼できる人に相談するのがいちばん。最後は、両親やきょうだいなどの身内になるかと思います」(小高さん・以下同)

最も求められるのは、夫やさまざまなしがらみに執着しすぎず、自分を認めてあげて、「自分は何をしたいか」を優先することだ。

「長い間夫に嫌なことを言われたり、攻撃的なことをされたりしてきたとしても、それに耐えてきた自分のことは認めてあげてほしい。『夫にこんなひどいことをされた』と恨むだけでなく、“あの夫に耐えた自分は頑張ったじゃないか”と振り返ることができるとポジティブになれます。

これからの残りの人生は楽しく歩んで行くぞという思いで負のスパイラルから抜け出さないと、この先の人生がどんどんネガティブになります。だからこそ、これまでの自分を否定することなく、自分自身で前を向くことが大切です」

「夫よ、死んでくれないか」は妻たちの切なる叫びだが、それはただ単に物理的に「死んでほしい」という呪いの言葉ではない。「認めてほしい」「自由にさせてほしい」「どうか裏切らないで」という真摯なメッセージであり、自分を肯定して生きるための誓いの言葉でもあるのだ。

DV被害を訴える人は急増している
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※女性セブン2025年6月5・12日号

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